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逆に、キノコ娘で困ったこととおっしゃいますか?
やはり特異体質の一つでございましょう?
誰かに知られてしまったら……という恐怖を常に抱えるのは、困ったというか、辛うございますわ。
家族や幼馴染み、そしてその関係者が広く手を回してくださって、今のところばれていないようですけれども。
誘拐とかは普通にありましたが、キノコ娘体質とは関係ないようでございましたし。
これを着てほしいんだ! と言われまして、所謂ロリータファッションを押しつけられたり、逆にボンテージファッションを押しつけられたりしましたときには、怖いというよりは困惑が強うございましたわ。
結局どちらの服を着るはずもなく、無事に保護されて帰宅した際に、兄や幼馴染みたちにファッションショーを強請られたときの方が怖かったかもしれません……。
は、話がずれてしまいましたわ!
一番困ったことは、長風呂をすると……その……キノコのお出汁がでてしまう現象でしょうか。
時間にして三十分以上使っていると、それはもう良い香りがするキノコ出汁がでてしまいますの。
普段の入浴時間は、十五分程度なので全く気がつきませんでしたわ。
あれはそう……試験勉強に集中して、入浴時間が何時もより二時間ほど遅くなってしまったときのこと。
『すっかり遅くなってしまいましたわ……だというのに、まだ完全に予定をこなせていないなんて……明日は大丈夫でしょうか』
想定していたよりも難しい問題が多く、悩んでいるうちにどんどん時間は過ぎてしまい、最終的には心配性のお兄様たちにより、強制的にお風呂へと送り込まれてしまいましたの。
そろそろ丸裸にされて、そのまま全身を洗われるのも恥ずかしい年にはなっておりましたし、渋々お風呂に入りましたわ。
丁寧に髪の毛を洗い、体も洗い、肩までお湯に浸かりましたの。
すっかりリラックスして、何を考えるでもなく、ぼんやりとしておりましたら、寝入ってしまったようですわ。
小さい頃はよくお風呂で寝入ってしまい、気がつけばお兄様たちの手でベットの中へ……という対応をされましたが、最近ではすっかり寝落ちするなんてなくなっておりましたのに。
『ん!』
寝返りでも打とうとしたのでしょうか、ずるんと滑った体はお湯の中に沈みましたの。
現状把握ができず混乱している間に、どっぷりとお湯を飲んでしまいましたわ。
息苦しさと、お湯の中独特の視界の中で、私が思ったのは驚きの内容でした。
『美味しい!』
溺れてお湯を大量に飲んだ人間の思考ではありませんわよね?
一瞬だけ思考がクリアになって、そのお蔭でお湯から顔をだせました。
大きく咳き込んで、何度か深呼吸をして、次に浮かんだ言葉はこちらですわ。
『良い香り……』
もうおかしいですわよね?
私も思いましたわ。
混乱しているとはいえ、あり得ない思考だと。
ここにきてどうにか思考が完全にクリアになりました。
そして認識したのですわ。
お風呂のお湯から、良い香りがすると。
キノコを美味しく煮るためには、水から入れるべし! という鉄則がありますけれど。
完全なお湯から煮出した? にもかかわらず、それは堪らなく食欲をそそる良い香りでしたわ。
『ちょ、ちょっとどうかと思いますけれど。これも検証のため……』
私は不衛生かもしれないと自覚しつつも、すすすっとお湯を飲みましたの。
『やっぱり、キノコの出汁ですわ!』
大きく目を見開いて、大きな声をだしてしまった私を、はしたないと思わないでくださいませ?
幸福なお味でしたの。
私の声を聞いたお兄様たちが、お風呂に入り込んできましたときは、いろいろと諦めましたわ。
その後の展開も十分想像できましたもの。
えぇ。
大変恥ずかしゅうございますが、私が入っていたお湯は全てキノコの出汁として回収されてしまいました。
瑳和希兄様が、一般に広く販売するべきだ! と主張しまして、他のお兄様たちに蛸殴りにされていましたのを私、止めませんでしたわ。
だって、あんまりでございましょう?
当然、キノコ娘体質の中でもトップシークレットになっております。
しかし、京家のお二人に報告しましたら、崇君がいきなり鼻血を噴き出してしまわれまして……そこまで鼻の粘膜が弱いと聞いておりませんでしたので、右往左往しましたの。
何故か凜姉様は、放っておいていいから! と生暖かい眼差しで崇君を見つめておりましたから、たまたま血の巡りがよろしかったのかもしれませんわね。
たっぷりと取れてしまった、志桜里キノコ出汁。
……命名は雅比古兄様ですわ。
亜久里兄様が、センスなさ過ぎ! と言ってしまい、お腹に素敵な一撃を食らってしまわれました。
雅比古兄様の一撃はあとから聞いてくるらしく、亜久里兄様はその日一日お腹を抱えて悶えていらっしゃいましたの。
口は災いの元、ですわね?
で、そのキノコ汁。
様々なお料理に使われまして、大変好評をいただいたのですが、私はアギタケの煮浸しが一番美味しゅうございましたの。
アギタケは比較的新しい品種ですわ。
本来は決まった地域で、決まった時期にしか栽培されないレアキノコですの。
当然、私が山へ足を運べば何時でも収穫できますけれど。
エリンギからの変種と言われておりまして、肉厚でやわらかく、椎茸のように旨味もあるというところで、いいとこ取りのキノコ、なんて呼ばれたりもするようですわ。
旨味成分が大変強く、どんな食べ方をしても美味しいと言われているキノコですけれど、それを敢えてキノコ出汁で煮浸しにしましたところ……幸乃進兄様が、キノコの大洪水だ! と叫んでおられました。
つまりはそれだけキノコの旨味が凝縮された一品である……そうおっしゃりたかったようですの。
小鉢にアギタケをまるごと一つ、そしてキノコ出汁をたっぷりかけ回していただくのです。
煮浸しですから、一口噛むだけでアギタケ本来の旨味とキノコ出汁がじゅわっと染み出てまいりまして、大変食べ応えがございましたわ。
食べ終わったときは皆様、惚けた表情をしていらっしゃいましたわ。
きっと私も同じ表情をしていると思いましたもの。
長湯をしているとのぼせてしまう体質でしたので、毎日は求められませんでしたが、誕生日や記念日の前日には、志桜里キノコ出汁を未だに求められますわ。
料理人たちもレシピの開発に余念がないようで、和洋中華、イタリアンにフランス料理、果てはトルコのキノコ料理も先日いただきました。
世界三大料理の一つと言われるトルコ料理ですが、日本ではあまり広く知られていない印象がありますの。
けれど私が不勉強なだけで、たくさんの美味しいトルコ料理がございましたわ。
その中でもキノコ料理は秀逸なのです。
トルコはキノコの種類が豊富だなんて、料理人に聞いて初めて知りましたの。
キノコが生える森林が豊富で、種類もたくさんあると伺っておりますわ。
日本語訳にして、花嫁の指、日本の帽子なんて呼ばれるキノコもあるのだとか。
料理人の方に言われましたので、それらのキノコも収穫する予定ですのよ。
こちらもまた、どんな料理になるのか楽しみですわ。
すっかりキノコが大好きになった京家のお二人ですが、崇君の方は何故か、お兄様たちから、志桜里キノコ出汁をたくさん使った料理を食べてはいけないと、禁止されておりますの。
どうして十八歳になったら解禁になるのか、何度聞いても教えていただけませんのが、少しだけ口惜しいのです。
崇君だけ、可哀想ではありませんか!
そう、宗一郎兄様に直談判しましたところ、今食べさせたら、大量の鼻血を噴かせる悲劇を見るけどいいのかな? と返されてしまいましたわ。
キノコ出汁に血の巡りが良くなる効能があったとは知りませんでした。
……もしかして崇君は血の気が多いのかしら?
そんなことは本人に聞けませんので、十八歳になれば解禁になるんだから、問題はないと思うよ? と宗一郎兄様に諭されまして、渋々納得しましたの。
崇君にだけ飲んでいただけないのを少しだけ寂しいと思ってしまったのは、ここだけの話にしてくださいませ?