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ある夏の夜のことだ。
「南!」
私の幼馴染、小春が元気に私を呼ぶ。
「待ってよ小春」
私達は地元の森の奥地へと肝試しに来ていた。
昔から親達に「あそこに行ってはならないよ」と言われていた。
だがそんな言葉好奇心旺盛な中2の私達には効かなかった。
「肝試しに行こう!」そう小春に言われた時は好奇心よりも不安が勝っていたが森の中に足を入れた途端好奇心の方が勝ってしまった。
「ここが…森の奥地…?」
私達は雑談をしているうちに奥地へと到着していた。
夜だったと言うこともあり少々不気味な様子だったが小春は何も思い詰めていない表情で
「見て!家がある!」
と、遠いところで明るく光っているボロボロの家を指差した。
「こんな所に家?」
私達は疑問に思いながらもその家に近付いて行った。
今思えばそれが間違いだったのだ。
「ふふ、ごめんください!」
小春が冗談半分に戸を叩きながら言った。
明るく光っていると思っていたのは近くに捨てられていたライトだった。
チカチカともうすぐ充電が無くなるのか光っている。
だから誰も人がいないと思い込んでしまったのだ。
コンコン
「ごめんください!誰もいませんよね笑」
小春が笑いながら私の方をみた瞬間だった。
ギイッ
扉が不穏な音を奏でながら開いた。
そこに立っていたのは髭を生やしたいかにも不潔そうな男。
その男の手にはナイフ。
私達は瞬間的に「やばい」そう思い駆け出した。
その男の顔は近頃噂になっていた殺人狂と一致していた。
「やばい!やばいよ南ッ!」
「喋らないで!逃げることに集中して!!」
私達は一目散に明るい遊歩道をめざした。
あともう少し。
そう私が言い出さうとした瞬間。
ドサッ
小春が転けた。
「小春!!」
私は足を止めて小春を助けようとしたが、遅かった。
小春の真後ろにあいつが居たのだ。
「ヒッ」
私は怖くて走り出してしまった。
「みなみッ…!」
小春の声が遠く聞こえた。
私は耳を塞いぎまた駆け出した。
ドンッ
私の後ろで何かを刺すような鈍い音がしたのだ。怖い、怖い怖い怖いごめん。
私の頭の中はそれでいっぱいだった。
気付けば翌朝になっていて、母親が心配そうに顔を覗いてきた。
後になって聞いた話では私は意識朦朧とした状態で家まで帰ってきていて、そのままあった話を息切れしたまま話したらしい。
そこで意識を失い、私の話を信じた両親は村の皆に言い、森へ向かった。
そこで血まみれの小春とそこに座っていた殺人狂を確保し、小春は葬儀屋へ、殺人狂は警察まで届けたらしい。
私が目を覚ました時、小春の両親は私に問い詰めもせずただ感謝してきた。
「小春を放置せずにちゃんと言ってくれてありがとう。そのおかげで小春はすぐ見つかって対処できた。」
私にはその言葉が自分を押し付けるお守りにしかならなかった。
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あの頃から数年経ち、私こと南は高3になっていた。
受験か就職か。
周りの皆がそれを本格的に考えている頃、私は森の奥地に来ていた。
今年で小春が居なくなって4年。
長いようで短かった。
小春が居なくなってから半年程、私は塞ぎ込んでしまい、病院沙汰にまでなったがなんとか表に出られるまで回復していった。
なぜ私が今日森の奥地まで来たかと言うと美術の授業でスケッチをすることになったからだ。
夏の昼間の森はとても綺麗だった。
あの日は夜に見た事もあり不気味に思えたが昼間に来てみると木の間から差し込む光とすぐ側にある湖の透明さ、森の静けさなどでまるでおとぎ話にでも出てくるような幻想的な空間が作られていた。
「よいしょっと」
高3とは思えない掛け声で私は岩に腰掛ける。
「んー、ここかな」
スケッチを描き初めて3時間ほど経った時、私はふと後ろに気配を感じ振り返った。
振り返るがそこには誰も居ない。
気のせいかな?
そう思ってスケッチブックに向き直した時、
真ん前に顔が現れた。
「ふふ」
その笑い声には聞き覚えがあった。
「みーなみっ!」
小春だ。
「うわああああ!?」
私はびっくりして岩からずり落ちてしまった。
「えぇ!?南?!」
小春がそう声をかける。
南。
あの声でそう呼ばれたのは何年ぶりだろうか。
無邪気さが残ったあの声がまた私の名前を呼ぶ。
「大丈夫?南」
途端に私は泣いてしまった。
「こ、はる…?」
「ちょ!?何泣いてんのよ!」
「うぁぁん泣」
小春がいる。私の目の前に。
生きてる?いや、確実に死んでたはずだ。
なら…幽霊?
30分程泣いて私は小春に向き直った。
「なんで、小春がこんな所に居るの」
4年振りの再開でその言葉?
そう言われるのは覚悟していた。
でも疑問なのだ。あの時あの瞬間、確実に亡くなった小春がいるはずないのだ。
「あ〜…そうなるよね笑」
小春は恥ずかしそうにそう言った。
「実は私、幽霊なんだ」
あー、やっぱり。
そう思ってしまった自分がいた。
でも確かにそう思っていたのだ。
幽霊なのだろうなって。
「あー、だろうね」
「だろうねってなに!?!?」
小春は驚いた表情で私を揺さぶる。
痛い
私はそう思いながら続けた。
「だって予想は着くじゃんんん」
「でも驚くでしょふつー!!」
そりゃそうだ。
それでも事前に幽霊だとしってしまっては意味が無い。
それよりも
「それよりも!」
小春が揺さぶるのを辞める。
「なんで幽霊となってここで彷徨ってるかが問題なの!幽霊になったってことは未練があるってことでしょ!」
小春は分かりやすく肩をビクつかせた。
昔から小春は感情が体に出やすいのだ。
興奮してきたらぴょんぴょん跳ねて、怖くなったら体を震わせて、隠し事があったら体をもじもじさせて、図星をつかれたら肩が少し上がる。
これ程分かりやすい人間はこの世にふたりといないと思う。
「う、バレてる…」
当たり前だ。
「未練が何かとかは分かってるの?」
私が問いつめると小春は横に首を振った。
「分からない」
「分からないの」
「そう!だから分かるまで南と一緒に居させて!泣」
小春が泣きついて来る。
正直幽霊と同居など想像したこともないが…
「はあ、良いよ。可哀想だし」
私は、どうせ明日から夏休みだし…と思いOKする事にした。
「やったー!これからよろしくね!」
小春が調子よく笑顔で言ってきた。
未練が分からないと言った時に体が少しモジモジしていたのは見なかったことにしよう。
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気持ちいい……
私の体が水の中に入っている。
ふわふわ浮かんで中々沈まない…
それがどうも気持ちよくて気持ちよくてついつい水の流れに身を任せてしまう。
「気持ちいい…」
そう言葉にした時
ガシッ
何者かの手が私の服を引っ張る。
その方向を見ると真っ黒の体に目だけが浮き出ている”ナニカ”。
その後ろは真っ暗闇で何があるかは分からない。
私はもがいた。
水のせいで何も抵抗できないのにもがいてもがいてもがき続けた。
次第に”ナニカ”の方へと引っ張られていく。
怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
“ナニカ”が私を連れ去ろうとしている。
引っ張りこもうとしている。
もがくのを諦めかけたその時。
水面上から声がした。
「……み」
「なぁに………」
「み……み」
「だから何よ……」
「みなみ!!」
ハッ
私はその声にハッとして目を覚ました。
「夢……」
私の体は汗だくだった。
「みなみ!大丈夫!?すごく魘されてたよ!」
ああ、あの声の正体は小春だったのか…
「大丈夫大丈夫…はは」
私は元気のない笑いを零しながら小春に、言った。
小春は「ほんとー?」と訝しんでいたが私が口を割らないのを見て
「はぁ、大丈夫なら良いんだけどさ」
といいリビングまで降りていってしまった。
私も思い腰をベッドから降ろしリビングまで向かった。
リビングにはお父さんとお母さんが既に朝食を食べ終わって座っていた。
「あら、おはよう。小春ちゃん、南」
両親は小春のことを承認済みだ。
昨日驚かれはしたものの未練があるから手伝いたい、私がそう必死に説得すると納得してくれたのだ。
私にしか小春は見えないのだと思っていたがそうではないらしい。
私の家族にだけ見えているのだ。
小春のことを見れる人を決めれるのは小春自身らしい。
なぜ私の両親に見せるのか聞いたところ
「だって南私見た時全然怖がらなかったから、誰かに怖がって欲しかったの!」
ということだ。
いや、しょうもないな。
私はそのツッコミを言わずに「そうなの」とだけ返した。
私が朝ごはんを食べているとお母さんが急に
「そういえば今日からよね。あのクレープ屋さん」
と新しくオープンするクレープ屋の話を話題に出した。
それに小春が反応した。
甘いもの好きの小春がその話題に必ず触れると思った私は静かに自室へ戻ろうとしたがにっこりと笑った小春に案の定呼び止められた。
「みぃなみっ♡行くよね、クレープ屋さん♡」
そういうことで私は半強制的にクレープ屋へと連行された。
「南!みて!このイチゴクレープ可愛い!!」
子供のようにはしゃぐ小春を横目に私は注文した。
「チョコバナナとイチゴ1つずつお願いします」
クレープを受け取ったあとは近くの公園で2人揃って食べた。
「ん〜♡美味しい!!♡」
見てるだけで幸せになれそうなその顔は4年前の頃から変わっていなかった。
私はあの懐かしさを取り戻しながらクレープを食べた。
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翌日は家族全員で遊園地に行った。
「遊園地行きたい!」
そう小春が言ったからだ。
私も小春も久しぶりの遊園地でとてもはしゃいでいた。
ジェットコースターにコーヒーカップ。お化け屋敷に動物のレースまで
あまりの面白さに私達は無我夢中で次々と乗り物に乗っていった。
「南!次!次これ乗ろ!」
「待って待って、こっち乗ろうよ!」
「何それ面白そう!!」
そんな私達を両親は朗らかな笑みで見ていた。
遊園地に居る時は小春は人間の姿に戻っていた。透けていなかったのだ。
なんとも不思議だ。あとから小春に聞いた話では半日程なら人間の姿に戻れるらしい。
「きゃはははは!南!やばぁい!」
「あっははは!小春やめてよォ!」
年相応の元気さと年に似つかないはしゃぎ具合で私達は家に帰る頃にはすっかり元気を失っていた。
「あ〜…面白かった…」
「疲れたねぇ…」
2人で顔を向けあって笑った。
こんなに笑ったのは久しぶりで、私は自然と涙が出てきた。
小春はそれを静かに見守ってくれた。
それから3週間
私達は小春の成仏の仕方を考えながらも沢山の場所に思い出作りに行った。
遊園地、海、虫取り、水族館、動物園、カフェ、映画館、水泳
私にとってもすごく満足した夏休みだった。
「ねぇねぇ小春!次はどこい」
「南、森行こっか」
その日は夏らしい猛暑の日だった。
小春がいつものようにはしゃがないので私は少し驚いてしまい、小春の言うことを聞いてしまった。
森の中を歩いて10分。
小春が足を止めたのは私達の今のきっかけとなった森の奥地だった。
なんで、どうしてこんな所に?
私がそう言おうとした瞬間、小春が口を開いた。
「私達、ここで物語が始まったよね」
「最初に殺人狂にあって、私が死んじゃって、3週間前にここでまた南と出会って」
嫌な予感がした
「3週間、すっごく楽しかった。人生で1番充実してた」
嫌だ、聞きたくない
心の中ではそう思っているが体が言うことを聞かない。
「私の未練、なんだったと思う?」
わたしは重い口を開いた
「…私と…思いっきり遊びたい……こと」
「ふふ、正解」
やっぱりそうだったのだ。小春は分かっていたのだ自分の未練がなんなのか。
やっぱり小春は嘘つきだ。笑
「それでね、私もうあの世に行かなきゃ」
小春がその言葉を口にした瞬間、小春の体から小さい粒子が出始めた。
成仏しているのだ。
「楽しかったよ!この3週間!南といれてよかった!」
私の頬を水が通った。
あれ、、あれ、、なんで私は…泣いてるんだろう
「私も!!私も”楽しかった”!!泣」
「ふは、南の顔ぐちゃぐちゃ笑」
最後に私達は抱きしめあった。
「ありがとう南」
「う”っ、ぁ”あっ」
ああ、小春が逝ってしまう。
「南、バイバイ」
「…ばいばい泣」
小春のバイバイ。小春の声。もう二度と聞けないだろう。
「南、もう、罪悪感なんて背負わなくていいからね」
逝く直前に小春がそんなことを言ってきた。
分かっていたのだ、小春には。
私の夢の”ナニカ”。
あれは小春を見殺しにしてしまった私の罪悪感。
毎晩毎晩罪悪感が私を取り込もうとしていたのだ。
そして小春は完全に逝ってしまった。
「…バイバイ小春…次は天国で会おうね」
私は悲しさに覆われながらも誓った。
これからは小春に見せても恥じない人生を送ろうと。
「おはようございます」
私は、松野南は店長の声で目を覚ました。
「ああ、店長、おはようございます」
私グッと背伸びと欠伸をした。
「いい夢は見れましたか」
「ええ、とても良い夢を見ました」
今から3年前の話。
私と親友の話。
今ではかけがえのない思い出だ。
「それは良かった」
店長がそう言ってくれた。
カランコロン
私は1歩踏み出した
「よーし!小春の為にも頑張ろうっと!」
私は今服飾の仕事をしている。昔小春と話していたのだ。仕事に就くなら服飾の仕事だね。と。
私はまだそっちには逝けないが、ちゃんとやれているだろうか
「親友との夢の再会。それが幽霊とはびっくりですね」
ここは喫茶『夢心地』
前世でも今世でも相手の夢でも。
これまで生きてきた中で一番の思い出を夢見れるお店。
「それでは。またのご来店お待ちしております」
コメント
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今回の物語のキーワード 『ある夏の日、彼女は幽霊にとして帰ってきた』 どうでしたでしょうか。お楽しみいただけていれば幸いです。 リクエストお待ちしております
久しぶりにいいね押しときました!!❤︎