『まずは部屋を暖めるんだよ、汗ばむほどでいいからね、お母さんの体温と同じぐらいでいいんだ!』
「ハイっっ!! 」
『それから温かいおしぼりを沢山つくりな!タオルを水で濡らし、電子レンジで温めるんだ! 』
「ハイッ!」
『あんたは肘の上までよく手を洗って!』
「ハイッッッ」
『なぁに・・・自然の摂理に任せれば、あたしたちゃそんなにすることはないさ』
「ハイッ!」
ネネお婆さんは島一番の産婆だけあって、いかにも頼りになる人だった、彼女の指示を聞いているだけで、アリスの不安や動揺は落ち着いた、出来る限りのことをすればいいんだ
アリスは二階に駆け上がって、掛け布団と、毛布を持ってきて、うずくまってその場から動けない貞子の下に敷いた
『服を脱がせるんだよ、ブラジャーも楽な服にね』
「ハイッ!」
貞子はまったく身動きが取れず、ブルブル震えている、額には脂汗が滴り、痛みと戦っている
アリスは貞子に優しく声掛けしながら、ゆっくり貞子が動けるペースで、デニム素材のマタニティワンピース、、マタニティタイツ、ショーツにブラジャーを脱がせる
そして大きなお尻を包み込むぐらいの、ジンのカーディガンを着せ、下半身は丸裸にして毛布をかぶせた、貞子のお尻の下には汚れてもいいように、シーツとバスタオルを沢山敷く
消毒用のアルコールウェットティッシュを、大量に用意し
リビングからリクライニングの座椅子を持ってきて、見よう見まねで分娩台のようにした
貞子の腰に当て布団と毛布を何枚も使って、分娩の体制が出来あがった
その間も貞子からは長々と低い咆哮がして、その悲痛の叫びにアリスも鳥肌が立つ、痙攣はすぐに止まったのでアリスはホッと胸をなでおろした
『貞子の股の間を覗いてどんな感じか、あたしに説明しな』
アリスは診るのが怖かったがネネ婆さんの言う通り、貞子の脚の間に入った
キャァァァ「血が出てるわっっ!! 」
アリスはパニックになり叫んだ
『どんな色の血だい?』
貞子の内太ももから、赤黒い筋のような血液が流れている、アリスは震える手でタオルでそれを拭いてネネ婆さんに説明した
『そう・・・だから(お産は血みどろ劇)って言うんだよ、大丈夫だ!真っ赤な鮮血が大量に出たら心配だけど、今は何も心配いらないよ』
ここで初めてアリスも自覚した、出産は死ぬほど過酷な重労働だ
『今はただ待つしかないね、そのうち救急隊員が来るかもしれない』
それからしばらくは陣痛が引いた、貞子も落ち着きアリスと軽い会話を続けた
「やっぱり・・・北斗さんもジンさんも、何度かけても繋がらないわ 」
ハァ・・ハァ・・「義父さんの家は、電波が入り辛い地域だから・・・」
コクンと頷く、実際今あの二人が来てもどうすることも出来ないだろう、今必要なのは腕の立つ助産師と救急車だ
アリスは500㍉リットルのペットボトルの水を冷蔵庫から取って、貞子に差し出したが、起き上がって飲めない貞子にオロオロする
「二階の・・・入院グッズを持ってきて・・・」
貞子が用意した入院グッズの中に、分娩室に持っていく用品が沢山入っていた
フッ・・・「こんな・・・所で使うようになるとはね・・」
そこにはストロー付きの水筒もあり、アリスが移し替えることで存分に貞子は寝ながら水分補給が出来るようになった
しかしすぐにまた収縮の強い痛みに、貞子が悶え始めた
「ジンのやろう!殺してやるぅううううう!いたぁーーーーーーーーーいぃいぃいいぃい 」
貞子が体を横にして息を喘がせている
「ネネおばあさんっっ!貞子さんがジンさんを殺すと言ってます!!」
アリスもオロオロして叫ぶ
『産んでから殺しな!そのときゃ手伝うよ!』
「産んでから殺せと言ってます!」
『叫べるようなら叫ばせときな!気がまぎれるから 』
「ハイッ!叫んでいいそうです!貞子さん!」
「どうして女がこんな思いをしなきゃいけないのよぉ~~~~~!!死ぬっ!死ぬ!しぬぅうううううう 」
『アリスっ!尾てい骨の辺りを手のひらで押してあげな!、急激の陣痛は早い分、痛みもひどいから』
「ハイッ!」
アリスは同情して目に涙が溢れたが、必死で尾てい骨を押してあげた
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!