テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「んん……」
微かに光が差し込む室内で、みことがゆっくりとまぶたを開ける。
目の前には、ぐっすりと眠るすちの姿――いや、どこか違和感がある。
「……ん?」
みことは顔を上げて、ぼんやりとすちの体を見つめた。
華奢な肩。
細くなった首筋。
なにより、掛け布団の下でふくらんだ胸のライン――
「……え?」
みことはがばっと起き上がり、思わず布団をめくった。
「すち……?」
すちは目を覚ました。
「ん、みこちゃん……おはよ。……ん?」
その声が、驚くほど高い。
「え? なに……この声……?!」
すちは自分の喉に手を当て、次いで掛け布団を見下ろす。
そして――
「……えっ、ちょ、えっ!? なにこれ!?!? 」
「すち……女の子になってる……!?」
「なんで!?!? 昨日なにかしたっけ!? なにか盛った!?」
「お、おれじゃないよぉ!?!?!?」
パニックのすちと、オロオロするみこと。
そのとき、部屋のドアがノックされた。
「おはよ〜……」
のんびりした声と共に、空き部屋で寝ていたらんが、何も知らない様子ですちとみことの寝室に入ってきた。
その瞬間、視界に入ったのは――
掛け布団をぐいっと胸元まで引き上げている女の子になったすちと、混乱した顔のみこと。
「あー……やっぱり女体化してんじゃん、すちも。」
らんは特に驚く様子もなく、ぽすんと布団の端に腰を下ろす。
「えっ、えっ!? らんらん、知ってたの!?」
「んー、うん。てか、たぶん……女体化した人と一線超えると伝染するんだと思うんだよね。」
「はあぁあああ!?!?」
思わず素っ頓狂な声を上げるすち。
その肩越しに、みことはうつむいたまま、ぽろりと呟いた。
「……ごめん……おれのせいで……すちが……」
声は震え、瞳には涙が滲んでいた。
すちははっとして、すぐにみことをそっと抱き寄せた。
「……ちがうよ。みこちゃんのせいじゃない。これは、俺が――」
「ていうかさ」
らんが平然と口を挟む。
「すち、先に言ったとしてもさ、相手がみことなら結局ヤってたでしょ?止められるわけないじゃん。ね?」
「おいこら!!」
「ほらー、媚薬も効果抜群だったでしょ? どうだった? 気持ちよかった?」
「らんらんっっっ!!」
すちは怒りつつも、みことの顔を横目で見る。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ……!」
みことは顔を真っ赤に染め、言葉も出ずに唇をぎゅっと閉じてぷるぷる震えていた。
すちは慌ててらんを睨みつける。
「やめろって、みこちゃんを巻き込むな!」
「はーいはーい。でも、顔見たらバレバレだよ?」
そう言ってくすくす笑うらんに、すちは呆れながらため息をついた。
「……ほんと、黙ってたくせに……先に言っといてくれれば覚悟ぐらいしたのに」
「まぁまぁ、すち女の子になっても可愛いし、似合ってるよ?」
「だまれ!」
すちはみことを優しく抱き寄せ、そっとその髪に頬を寄せた。
「みこちゃん。ほんとに、お前のせいじゃない。悪いのは俺だから。泣かないで」
「……すち……」
「それに――女でも、俺はみこちゃんが好きだし。なーんも変わんないよ」
「〜〜〜っ!」
みことの耳まで真っ赤になり、さらに涙がこぼれる。
その姿を見て、らんは「はいはいごちそうさま」と言いながら、部屋から出て行った。
身なりを整えて、リビングに集まる3人。
すちは、眉をひそめながら問いかける。
「……ねえ、他のメンバーって、まさか……もうみんな女体化してんの?」
「うん。してるよ?」
あっさりと頷くらん。
すちの目が見開かれ、みことも驚いて顔を上げた。
「……一応、最初から説明しとくね。順を追って」
そう言って、らんはふぅとため息をつく。
「ある朝、目覚めたら俺が女体化してたの。 最初はビビったけど、あーこれ夢じゃないなって分かってさ。で、とりあえずなっちゃんに相談しに行ったのよ」
「ひまちゃんに……?」
「うん。したらさ、“かわいくなってんじゃん”って言われて、そのまま襲われた。」
「はぁ!?」
「で、翌朝にはなつも女体化してた。」
すちは頭を抱える。みことは目を丸くしたまま固まっている。
「でね、そのとき思ったんよ。あ、これ“伝染”するなって。 で、なつと盛り上がって、“じゃあ、メンバー全員女体化させようぜ”って話になって――」
「おい待て待て待て、ノリで人を女体化させようとすんなよ!」
「いやいや、実験的な意味もあったし?
なつが『じゃあ俺、みこと狙うね』って言ったから、俺は『じゃあ俺、いるまいくわ』って」
「狙うな!!」
「でもまあ、見事に成功したわけ。 みこともいるまも、ちゃんと女体化」
みことは頬を染めたまま俯く。
すちは彼の肩をぎゅっと抱き寄せ、らんを睨んだ。
「ふざけんなよ、まじで……で、今回が“第二ターン”ってわけか?」
「そうそう。今回は、俺とみことで“すち担当”、なつといるまで“こさめ担当”って感じ」
「完全にゲーム感覚じゃんか……!」
すちは深くため息をついた。
「……じゃあ、こさめも、今ごろ――」
「たぶん、可愛い女の子になって、ぐずぐずにされてる頃じゃない?」
「うわぁ……」
「すちもがんばったんでしょ? じゃ、これで女体化コンプリートだね。」
「コンプリートすな!!!」
みことは隣で、「おれ、ほんとにごめん……」とまた小さく呟いていたが、
すちは「謝らなくていいって」と抱き寄せながら、らんに向かって本気で説教する顔になっていた。
___
話が一段落し、沈黙が落ちる。
すちは、みことの頬に手を添えて静かに目を覗き込む。
「……でもさ、もう、俺以外としないでね。」
その声は優しかったけれど、芯があって、絶対に譲らないという意志が滲んでいた。
みことは目を瞬かせて、すぐに涙目になって――
こくりと、小さく頷いた。
「……うん。おれ、すちとしか、しない」
その言葉に満足したように、すちはふわりと微笑んで、みことの額にキスを落とす。
そして、ちらりと視線を横へ向け、らんを真っ直ぐに睨みつけた。
「らんらん、もしみことに手ぇ出したりこれ以上巻き込んだら、一生恨むから。
……覚えとけよ」
「はいはい、こっわ~……」
らんは両手を上げて軽く笑いながらも、すちの目が本気だと分かるのか、それ以上は言い返さなかった。
「でもさ、みこちゃん良かったね。ちゃんと、すちに“独り占め”されたんだ。」
からかうような笑みに、みことは恥ずかしそうに唇を噛み、すちの腕の中で顔を伏せる。
すちはそんなみことをぎゅっと抱き締めながら、低く一言つぶやいた。
「……からかうなよ、マジで」
「へいへい」
それでもにこにこと笑っているらんに、すちは小さくため息をつくのだった。
コメント
4件
初コメ失礼しますm(_ _)m 一気見させて頂きました! 最高過ぎました👍 1位2位争うぐらいに好きです!フォロー失礼します!
テラノ初めて、1年半くらいになるんですけど過去1好きです♥️♥️