⚠左右逆
「レトさん」
その声の方向へ首を向けると律儀にソファの上で正座をしている男がいた。
「俺さ、そんな頼りないかな。」
ふわふわと脳内で弾ける言葉。いつもなら多分そんなことを思っても声に出さないはずなのに、その言葉がはっきりと俺には聞こえた。
「なんで?」
純粋な疑問で問いかけてみるが、その返答は一応わかっているつもり。
ぶすりと顔を崩して、「俺の口からそんなこと言わせる?」と書かれたような顔を彼は見せた。
だって、理由は聞かないといけないじゃん。壁を見たって、猫を見たって何にも分かんないんだから。
ただ、じーっと見ているとため息を一つこぼす。その後、口をゆっくりと小さく動かし始めた。
「だって………」
頑として彼の口は動こうとしない。「やっぱ自分の口からは言えない」とまた少し不機嫌になった。自分の口なんだから頑張れよとも思ったが、ここは少し甘やかしてやろうではないか。
「俺が最近出かけまくってるからでしょ」
そう言い放つと、彼は鳴き声のような声を漏らして、目をぱちくりさせる。
「わかって…」
「うん」
本当になんとなくだが、俺が最近変わったことといったのはそれぐらいだった。
キヨ君は顔を小さくぱたぱたと手で仰いだ。耳がほんの少しだけ赤くなっている。自分の思考を知られていて恥ずかしがっている様子だ。
「大丈夫。俺、べつにキヨ君のこと見てないわけじゃないから。心配せんくてもいいよ。」
「いや…でも…誰かと一緒によく行くじゃん…」
なるほどと俺は理解する。本質は多分そこだ。
「…じゃあキヨ君は友達と出かけないの?」
「いや…するけどさ…」
「おんなじだよ、安心して。」
「ん…」
諭すように話してあげるが、まだ眉をしかめている。どこまで彼は嫉妬深いのか。それとも、今まで貯めてた分が溢れて来てしまったのか。俺にはよくわからない。ただ、彼に安心を与えないといけない。本能でそう思った。
「まだ…不安なら今日、俺んち泊まりなよ。」
キヨ君は黙ったまま頷いた。よし、舞台は整った。レトルトさんがひと肌脱いであげようではないか。
「お風呂、ありがとう。」
フェイスタオルを雑に髪に掛けてキヨ君は湯気をほかほかしたまま出てきた。相変わらずスウェットがよく似合う。
「飯の前にお風呂がいい」そういった彼の目は腫れていた。どれほど悩んでいたのだろう。俺の家に来る前から泣いていたんだろうな、全て出してから俺ん家に来たんだろうな。
今考えてもとうに遅いことばかりを考える。
「キヨ君、こっち。」
「うん」
おとなしくソファの前に座るとカーペットを弄りだして、まだ彼の顔に笑顔は戻らない。
「ほれ」
「ぶっ」
ドライヤーの風を思いっきり顔に吹き当てて、顔を嫌な顔にさせてやる。ほんっとにいい顔。
「口……口がカラカラなんだけど」
「ふ…っ」
「笑ってんじゃねぇぞ」
口調こそは怒っているが、段々顔がゆるんでいく。よかった、楽しそうだ。
その後はご飯を食べた。下手くそなものは今日は作ってはいけないと思ったからおにぎりだけ。彼は、「口開けて」と俺に食べさせたがった。
そうする理由は分かる。自分のを受け入れてほしいんだよね。けど、おにぎりはどうかと思う。
「ん」
拒否もせずに受け入れると、くしゃっと非常に安心した笑顔でキヨ君は笑う。
「どう?俺からのおにぎり」
「まぁまぁ」
「そっか」
彼も返事を否定することなく、楽しそうにしていた。
「ねぇ、レトさん。」
「はい」
「…ごめんね」
「……なんのこと?」
「…何でもない」
そう言って布団に顔をぽすりと置くキヨ君。その頭を撫でてやる。特別だぞ。
「今日はゆっくり寝なよ。」
布団越しにぎゅっと抱きしめてきて返事をしてくる。
「…今日はどこも行かないでよ」
「行かんよ」
まだ少しだけ拗ねた声に笑ってしまうが、こんなに面倒くさくなる彼氏を愛おしく思って笑ったのも事実。
「おやすみ」
耳に小さく唇を落とした。
fin.
ーーー
気まぐれさん、リクエスト有難う御座いました!
遅くなってしまい申し訳ありません!リクエスト内容に沿えてたら幸いです!
コメント
2件
これまた素敵な作品を有難う御座います!朝、抱き合わせながら寝ているのが想像できて超満足です...!