「それじゃあ今日から暫く、璃々子さんがこの部屋を使っていいから」
由季くんの部屋でお世話になる事になった私に、彼は寝室として使っている部屋を私の個室として割り当ててくれたのだけど、それだと由季くんはどこを使うのか気になった。
部屋はリビングの他に寝室ともう一部屋あるみたいだけど、一人暮らしなのにまさかその部屋にもベッドがあるとも思えない。
「あの、この部屋は由季くんの寝室でしょ? 私はベッドじゃなくても大丈夫だから、その、他の部屋が余っていればそこでも……」
「他の部屋? ああ確かにもう一部屋あるけど、そこは仕事部屋にしてるから書斎みたいなもので、貸してあげられないんだよね。俺は別にソファーで寝るし、気にしなくていいよ。着替えたりするんだから、初めから個室の方がいいでしょ?」
「でも……」
転がり込んで来た身だし、やっぱりどうしても申し訳無さの方が大きい私がなかなか納得出来ないでいると、
「そんなにベッドを一人で使うのが嫌なら、一緒に寝る?」
悪戯っぽい表情を浮かべた由季くんが一緒のベッドで寝るか尋ねてきた。
「一緒に……!?」
それには少し驚いてしまい狼狽えてしまったのだけど、一人で使うくらいならいっその事、一緒に使う方が罪悪感が少ない気がした私は、
「……その、由季くんさえ良ければ……」
大胆にも、彼の言葉に頷いていた。
これには流石の由季くんも驚いていて、言葉が出ないようだ。
マジマジと私を見つめた後で由季くんは、「本当に、いいの?」と少し遠慮がちに問い掛けてきた。
「勿論……、だって、由季くんのベッドなんだから」
「いや、まあ、それはそうなんだけど……その、さ……そんなに広いベッドじゃないし、距離も凄く近いかもしれないんだよ?」
「あ、そっか、そうだよね、二人で寝たらちょっと狭いよね。ごめんね、私ってばよく考えもしないで発言して」
一緒のベッドで寝るなんて男の人からしたら窮屈かもしれないと思い謝ったのだけど、由季くんが心配していた事と私が心配していた事は違っていた。
「いや、そうじゃないって。はあ、あのさ……璃々子さんって天然なの? それとも分かってて言ってるの? そりゃ、璃々子さんはあくまでも本当にただ一緒に寝るだけって考えなのかもしれないけどさ……俺からしたら、璃々子さんみたいな可愛くて魅力的な人と一緒のベッドに入ったら……正直ただ寝るだけじゃ済まないかもって意味なんだけど?」
由季くんのその言葉に、私の体温は一気に上昇していく。
そうだった。由季くんと居ると安心感があり過ぎてついつい忘れていたけれど、私たちは異性同士で家族でも何でもない間柄。
そんな私たちが一緒のベッドになんて、普通なら由季くんが考えるような事態になる事を想像するに決まってる。
「ご、ごめんなさい! 私、その……そういうつもりじゃなくて!」
だけど、心の片隅では「由季くんとなら、それもありなのかも」という思いが生まれていた。
でも、まだ貴哉と別れていない今、私まで異性と身体の関係を持ってしまったら、それこそ貴哉と何も変わらなくなってしまう。
それに、当て付けでそういう事をしていると思われるのも嫌だから、まずは貴哉と離婚をしなければいけないと改めて思い知らされた。