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「分かってるよ。ごめんね、ちょっと意地悪しただけ。それに、アイツと別れる前にそんな事してたら、アイツと変わらねぇもんな。璃々子さんが不利になるような事はしないから安心して。ま、とにかく同じベッドで寝るのは無しね。ただ寝るだけじゃ済まないっていうのは本当の事だからさ」
「由季くん……」
別に、好きと言われた訳でもないのに、由季くんに見つめられると鼓動が速まっていくのは何故だろう。
「という訳で、寝室は璃々子さんが使ってね。オッケー?」
「う、うん、ありがとう」
結局私が寝室を使わせてもらう形で話はついて、その日はお風呂に入り、早めに就寝した。
けれど、夜中、私は悪夢にうなされてしまう。
はっきり内容を覚えている訳じゃないけど貴哉が出て来て、いつものように傲慢な態度を取った挙句、何が原因になったのか分からないけれど言い掛かりをつけられて暴力を振るわれる。
必死に逃げようとしているのに逃げても逃げても真っ直ぐな一本道で、終わりがない。
そして、足がもつれた私はその場に転んで貴哉に追い付かれて殴りかかられそうになった、その瞬間――
「璃々子さん!!」
「っ!!」
由季くんの声掛けによって悪夢から目を覚ました私は勢いよく身体を起こした。
「大丈夫? かなりうなされてるようだったけど……」
「……、由季、くん……」
怖かった。夢で良かったと思った。
由季くんの姿を前にした私は悪夢から覚められた安堵から、心配そうに見守ってくれていた彼に抱き着いた。
「璃々子さん、悪い夢は、よく見るの?」
「……あの人に殴られた日は、見るかな……」
「そっか、そうだよな……殴られたら痛いだけじゃなくて、怖いよな。男と女じゃ力も違う。一方的に殴られるようなものだもんな……」
「……っ」
「大丈夫、ここにはアイツはいない。これからはもう、そんな辛い事にはならないから」
由季くんは私の身体を抱き締めながら、「大丈夫」と繰り返しては私の頭を撫でてくれる。
いつも悪夢を見た後は、一人で怯えて、呼吸が落ち着くまでひたすら苦しみに耐えるだけ。
でも、今日は違う。ううん、これからはもう、一人で耐えなくていいんだと思うと凄く安心出来る。
だけど私は、一つ忘れていた事を思い出した。
「あ、由季くん」
「何?」
「あのね、私、あの人のスーツのポケットからホテルの領収書を見つけて証拠として持ってこようと思ったんだけど見つかっちゃって、それを見たあの人は、私が誰かとホテルに行ったって疑ってるの」
それはホテルの領収書。私のエプロンのポケットから出てきた事で、貴哉は私に男が居ると疑っている事を思い出して由季くんに告げた。
「……そういえば、そんな事言ってたな。そうか……それだと璃々子さんが一人暮らしの男の俺の部屋に居るのはまずいかもね……あっちはあっちで弁護士や探偵を雇ってくる可能性もあるし……」
私の話を聞いた由季くんの表情は翳り、私がこのマンションに居る事が不利になるかもしれないと口にした。
「それじゃあやっぱり、私はどこか他に行く方が……」
「待って、早まらないで。大丈夫、一番最善の方法を考えよう。まずは協力者が必要不可欠だけど、それはもう既に見つけてあるから安心して? 後でその人も混じえて今後について話し合おう」
不利になるかもしれない状況下にも関わらず、由季くんには何か考えがあるようで、それが何なのか分からないけど由季くんが大丈夫と言うなら信じようと素直にそう思った。