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「おぉ――――い、メアリー!」
温泉スライダーを滑り下りてきたメアリーに声をかけた。
「ゲンパパ、なーにー?」
首に掛けたタオルで顔を拭いながら、すたすたすたとメアリーがこちらに歩いてきた。
犬人族のメアリーは今年で16歳。
(大きく育ったものだ、どこがとは言わないけど)
できれば、もう少し慎みをだな……。
女の子なんだから前ぐらいは隠しなさいやぁ。
「おう、来たかメアリー。俺たちはまた日本に行ってしまうけど、メアリーも一緒に行くか? ……どうする?」
「うんうん行きたい! サツキともっと遊びたい。デ○ズニーランドも行ってみたい!」
おいおい、欲望に忠実だなぁ。
まあ、2~3週間行ったところで、こちらの時間は止まってるから全然OKな訳だが……。
だけど、アレを連れては行けないぞ。
「メアリー。アオチャンはこちらにおいていくからな」
「――?」
んっ、何かキョトンとして、メアリーは首を傾げている。
何でそんなことを聞くのって感じだ。
「ゲンパパ、大丈夫だよ~。呼んだらすぐ来てくれるから」
――へっ?
「…………」
ええっ、マジか!
「どうやって呼ぶんだ? 教えてくれるか」
「ん、いいよー」
メアリーは右手の人差し指と中指を立て額にあてる。
悟空が瞬間移動する時に相手の気を探っている、まさにそんな仕草だ。
すると次の瞬間、俺たちの頭上に青龍が現れた。
おぉ~、すげ~! マジで来たよー。
「な~に呆けてるのよ。まさか知らなかったの? シロがいるのに?」
マリアベルが呆れている。
話を聞くと、これは従魔の契約者がおこなう ”従魔召喚術” だそうだ。
特に珍しいものではないらしい。
ほんじゃ試しに……。
指を額に当ててシロを強くイメージして、
――シロ来い!
おお~、成功だ。
シロに乗ったハルまで一緒に召喚されてきたぞ。
「ふぉぉぉ。パパきた、パパきたー!」
(いやいや、来たのはハルの方だからね)
先程までシロと一緒にスライダーを滑っていたハルだが、今は俺の横で湯舟に浸かって、パシャパシャ嬉しそうにはしゃいでいる。
呼ばれたシロの方も、尻尾がふよふよ湯面で揺れていた。
「キャー! 私のハルちゃ~ん♡ あいたかったよー!」
マリアベルも大喜びである。
なるほど、これは確かに便利だな。
俺の場合、シロはいつも傍に居てくれるし、離れていたとしても念話で指示ができたから、そこまで必要性を感じなかったのだ。
まあ、何にしても従魔がすぐに呼べるのなら、それだけでも心強いよな。
これからはどんどん使っていくことにしよう。
ただ、異世界からの従魔召喚となると…………、どうなるんだろう?
………………
そうしているうちに、紗月 (さつき) もみんながいる露天風呂の方にやってきた。
バスタオルを体に巻いたまま、なにやらモジモジしている。
あっ、そゆこと。
俺はくるっと後ろを向いてあげた。
しばらくすると、かかり湯の音がして……、
「もう、大丈夫ですよ」
紗月が声をかけてきたので、俺は体の向きを元に戻した。
「紗月、サーメクスはどうだった? 楽しめたか?」
「はい、とても楽しかったです。ゲンさんがつくったこのデレクの町も素敵です。ダンジョン前の沿道なんかいろんな冒険者の方がいて、『ああ、異世界に来てるんだなぁ』って実感できて興奮しちゃいました。ただ今回、あまりゆっくり出来なかったので、また連れて来てもらえたら嬉しいです」
「そっかそっか、また連れてきてやるぞ。これが俺たちが住んでいる世界だから、気に入ってくれたのなら良かったよ」
流石はラノベ大好きっ子。一発でこの世界に魅了されたみたいだね。
しかし、アース (地球) にはアースの良さがるのだから、あちらでも見識を広げてほしいものだ。
その後は特製ミルクセーキやアイスクリームなどを振舞い、適度に休憩をはさみながら、夕方までのんびりと過ごした。
夕食の後はデレク (ダンジョン) にお願いして純金インゴット100gバージョンの他、喜平のネックレス・ブレスレット・動物を模った置物などを作ってもらった。
日本から持ち込んだシルバーアクセサリーやブロンズ製の置物などをゴロゴロとリビングテーブルに出していく。
それらをサンプルに金で複製していくのだ。製作監修は慶子 (けいこ) に任せてある。
これらは金買取サービスでの換金を目的としたものだ。
いわゆる資金調達のためであるが、『目立つことなく継続的におこなう』これがなかなか難しかったりするのですよ。
「シロちゃん、とっても似合うわよ~」
「ワン!」
所用で外していた俺がリビングに戻ってみると、そこには極太の純金ネックレスをはめたシロが堂々と鎮座 (お座り) していた。
――フルサイズで。(体長4m)
「…………」
それって純金だろ、重たくないのか? 100キロぐらいはあるだろう?
さらに周りを見ると、
慶子と紗月、それにメアリーまでもが全身 金キラキンになってキャッキャいっている。
(お ま え ら ~~~~!)
その頭にかぶってるシルクハット (純金) はいったい何キロあるんだよ?
それに、5mもある喜平ネックレス (純金) なんてあるか――――っ!
なんだって? この長~い喜平チェーンが夢だったの?
「…………」
うん、まあ俺も考えないでもなかったけど……。
テーブルの上を見ると、アクセサリーと置物はちゃんと作って並べてある。
ふむ、やることはやったうえで遊んでいたわけか。
おっ、このイッヌの置物はシロじゃないか? 色はキラキラ金だけど。
コレいいな。欲しい……。
――んっ。
視線を感じて、イッヌの置物を手に乗せたまま振り返ってみると、慶子と紗月がシロの隣りでニヤニヤ笑っていた。
あっ ・・・・・・
そういえば、教会からポップコーンの割引券が慶子に届いていたなぁ。
孤児院での医療活動によるものだな。子供たちも喜んでいたようだし。
町の外にある農村部からも、感謝のジャガイモが届いていたよな。
こちらの方は辻ヒールが主だったようだけど。
(辻ヒールとは、通りすがりの者に対して回復魔法をかける行為である)
これらはシロがついてたからこそ、やらせていたのだ。
シロが一緒にいれば、何かあってもすぐカバーしてくれるからな。
治癒魔法を使うためには、普通は教会に所属するか、王都にある医療学院に何年も通い、資格を得る必要がある。
魔法といっても、身体のしくみなどの知識は必要になるのだ。
紗月の方は、ほとんどがダンジョン探索に明け暮れていた印象だけど、休日はメアリーについて王都にいったり、魔法学院を案内してもらったりしていたようだ。
そうそう、数バージョン作った偃月刀をガンツに見せぶらかしに行ったりもしたな。
例によってガンツが偃月刀を見つめたまま動かなくなったので、一振り置いてくることになったけど。
………………
てなわけで、明日には再び地球へ渡る予定なのだが、ここにきて若干二名の者が『私たちもお連れください!』とゴネているのだ。
俺のまえで膝を突き、頭を下げて懇願しているのは、狼人族の兄妹であるフウガとキロである。
以前奴隷商にて購入した二人だが、現在は開放して邸 (うち) の家人として雇っていた。
主に俺の身辺警護を担当している。
「何処へ向かわれようとも主をお守りするのが俺たちの使命」
そう言って譲らない。
気持ちは分かるのだが……。
俺としては地球というか、日本に慣れてない二人を連れていくのはどうかと迷っているのだ。
それに犬耳と尻尾もあるしな。
やれやれと額に手をあてながら考えていると、
「私も彼らをお供に連れていくべきだと進言致します。今回はゲン様とシロ様だけではないのですから」
シオンまでがそのように言ってくるのだ。
「…………ハァー」
仕方ないか……。
誰でも初めはあるのだしな、慣れるまでは外に出さないようにしておこう。
たしかに諜報に長けた彼らがいれば、いろいろと役には立ってくれるだろうからな。
そんな訳で、今回地球へ渡るメンバーは、
俺とシロ・メアリー・マリアベル・チャト・フウガ・キロ・ そして帰還組の慶子・紗月ということになった。
そして、むかえた翌朝。
朝食のあと、準備を終えリビングに集まってくる面々。
フウガとキロにはマジックバッグを支給する。
それから紗月には、
「これを指に嵌めておけ」
そう言って ”シルバーマジックリング” を差し出したのだが……、
紗月は何やらモジモジしており、なかなか受け取ろうとしない。
んん、どしたの?
「こんな人前で…………」
何かぼそぼそと呟いて顔を真っ赤にしている。
「やたっ! これでサツキも お揃いだね!」
横からメアリーが左手に嵌めたリングを見せている。
――とても嬉しそうだ。
すると周りの女性たちも、指にはめたリングをそれぞれ見せてきた。
もちろん、慶子も同じものをはめている。
それを静かに見まわして、勘違いであることを悟った紗月は、さらに顔を赤くし俯き加減でシルバーマジックリングを受け取るのだった。
そして、地球 (日本) での生活における注意事項を伝えていく。
まず、車に気をつけること。
治安は良いが、不用意に出歩くと要らぬトラブルを招きかねないこと。
監視用の防犯カメラには十分配慮すること。
また、アース (地球) には人族以外はいなので獣人であるメアリー、フウガ、キロの3人は特に気をつけて行動するようにと促した。
まあ、実際に見てみないと分らないだろうし、不足分はあちらでレクチャーしていくしかないだろう。
………………
そろそろ出発しますかね。
とは言ったものの、ただ転移するだけなのだが。
今回は人数が多いので、それぞれみんなで手を握っている。
そして、俺がシロの背中に手を置いた。
「では、シオン行ってくる」
「はい、ゲン様。お気をつけていってらっしゃいませ!」
「シロ、みんなに認識阻害の結界をたのむ。 よし、それじゃあ行こうか」
――トラベル!
俺たちは老松神社の境内へ転移した。