パーマを当てた赤色の長髪。
睫毛は長く、いつもくりんと跳ねていて、アイシャドウもアイラインもまるでフランス人形のごとく、くっきりと施されている。
通った鼻筋、小さめの唇にはいつも赤色の細かいラメが入ったルージュが塗られていて、彼女が唇を這わせた俺の肌をきらびやかに染めていく。
俺の身体の自由を封じると、ジーンズのボタンとチャックを外し、彼女は嬉しそうにすでに硬度を上げたソレを取り出す。
そしてどこか得意気にこちらを見つめるとふっと小さく鼻で笑う。
すでに濡れている先端に弱く息がかかる。
―――もうこんなになってるけど?
彼女が無言で馬鹿にする。
その笑顔を見て俺は、
―――はいはい。あんたのせいでしょ。
仕方なく降伏のため息をつく。
彼女は勝利の笑みを浮かべると、それを真っ赤な口で包む。
―――あ……喰われる……。
一抹の恐怖を覚える。
今彼女がソレに歯を立てたらーーー。
ガチンと奥歯が合わさるほど強くそれに噛みついたらーーー。
両手首には手錠。
右足が不自由な俺は、
ーーー悶え喘ぐしかない。
そんな危険性を感じながらも俺のソレは縮み上がるどころか、ドクドクと脈打つように怒張していく。
「……あれ?おっきくなった……」
彼女が笑う。
笑うしかなくて、俺も笑った。
「……………」
彼女が丸い目をもっと丸くしながらこちらを見上げる。
「―――何?」
聞くと彼女は、ゆっくりと頭を左右に振った。
「―――何だよ……?」
彼女はそれには答えず自分のブラウスのボタンを上から外し始めた。
「―――え」
思わず声が出ていた。
今日は下着をつけていない。
彼女は俺に跨ると、すでに興奮で湿った俺の胸に、自分の露になった乳房を押し付けてきた。
「………ッ」
ふわふわと温かく柔らかい感覚の中心で、確かに硬いものが俺の胸や腹を撫でる。
「………は……」
俺の突起に彼女の突起が口づけをする。
彼女は切なそうにこちらを見上げた。
その顔があまりに綺麗で――――。
「………あんたって結局、誰なの?」
―――ついに、聞いてしまった。
そのたった一つの質問が、この淫猥で愚鈍な楽園を終末に導くとは、このときは微塵も思わなかった。
◆◆◆◆◆
次の日、風呂の時間でもなく、配膳を下げるタイミングでもないのに、彼は現れた。
俺に無言で一礼すると、三段の脚立を持って部屋の端まで移動し、何やらドライバードリルで取り付け始めた。
「―――それは?」
聞いても彼は答えない。
ただ無言かつ闇雲に作業に没頭している。
小さなバレーボールほどの球体。
白い丸の中に黒い丸がついている。
取り付け終わった彼が、エアコン用のコンセントにそれを繋ぐと、黒い丸だけが上下左右に動き出した。
「―――カメラ?」
眉間に皺を寄せた俺に、彼は静かに言った。
「防犯カメラです。このところ物騒なので」
「――――」
俺は聞いた内容よりも、強面な顔や鍛え抜かれた身体のわりに、あまりにもか細い彼の声に驚いて口を開けた。
その驚きを知ってか知らずか彼は俯くと、また一礼をして、部屋を後にした。
「―――防犯カメラ……ね」
俺はそれをうつろな瞳で見上げた。
あのカメラには彼女との情事も映るのだろうか。
映るとしたらそれを誰かが目にする機会もあるのだろうか。
例えば彼や、
あるいは少女。
彼はどうでもいいけど。
少女には見られたくないな……。
なぜか漠然と、そう思った。
◇◇◇◇◇
カメラがついたことで、もしかしたら彼女はその行為をしてくれなくなるかもしれない。
その不安は、数時間後に現れた彼女がいつもと同じように俺に手錠をかけた瞬間、消え去った。
「―――カメラに映るよ……」
俺のモノをその小さい口で器用に根元まで咥えこむ彼女を見上げ、荒い息を吐きながら問う。
「映って困るの?」
彼女が形の良い眉を、少しだけ上げて、意地の悪い顔をする。
「―――別に俺はいいけど―――」
そこまで言いかけて、やめた。
彼女が訪れる、一日一回という頻度を考えると、おそらく時間軸は昨日。
彼女につい発してしまった、「あんた、結局誰なの?」という質問。
直後彼女は、動揺したように、慌てて俺の身体から降りると、そそくさと部屋を出て行こうとした。
そしてドアまで行ってから、思い直したように振り返り、下半身を丸出しにした俺に再度近づくと、手錠だけは外していった。
聞いてはいけない質問だった。
いや、質問自体がしてはいけない行為だった……?
わからない。
しかし明らかなのは、俺が生かされている側の人間であるということ。
彼女と、彼と、少女がいなければ、俺は生きていけないということだ。
それなら彼らが嫌がる行為、彼らから嫌われる行為は極力避けた方がいい。
もしそこに変化を求めるのであれば、それは今ではない。
少しずつ、少しずつ、物事を考えられるようになってきた気がする。
もう少し時間をおいて、
自信をもって何かを決断できるようになるまで、出来るだけ現状維持だ。
「―――私だって、いいけど?」
彼女の返答に、自分が投げ掛けた質問を思い出す。
雫が溢れてきたソレの裏筋を嘗めとりながら、彼女が微笑む。
「は………」
思わず腰が動き、つま先がシーツを握る。
くねった身体のせいで、ベッド柵に手錠が擦れる。
「………もう、欲しい?」
「―――それって、男のセリフじゃないのか……?」
彼女は白い歯を見せて笑うと、今日もスカートで結合部は見えないようにして俺に乗ってきた。
「……は、アッ」
その柔らかくきついという矛盾する感覚に、思わず息が漏れる。
僅かな隙さえも無く、うねり搾り取られるような感覚。
「ああ……!」
彼女の小さい手が、俺の胸の突起に伸びる。
腰を振りながらその突起を指先で弄ぶ。
「――んんッ……」
くすぐったいようなもどかしいような、切ない気分になる。
自分よりも小さく軽い彼女に、そんなところまで征服されているのが恥ずかしくて、軽く頭を振ると、彼女は乱れてきた髪の毛を艶っぽく掻き上げた。
昨日ーーー。
彼女の正体を聞くのではなく、
こう聞けばよかった。
ねえ。
どうしてあんたは――――。
俺を抱くの?
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