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阿部はしっかりさんに見えて、うっかりさんだ。忘れ物も多い。
だが、最近は少しマシになってきたと思っていた。
だから、今の現状がおかしいと思う。
世界遺産のミニブックと手帳とボールペンがないのだ。
どこを探しても見つからない。
家を何度も探したが見つからない。
本と手帳はクリップで留めていた。
ボールペンは、大事な先輩からもらった物。
ボールペンだけでも、見つからないかなぁと探している。
ある日、マネージャーが車を出そうとして気が付いた。
ワイパーにボールペンが挟まっている。
ぼろぼろに壊れてもう使えない。
次の日、本と手帳が挟まっていた。
本も手帳もぼろぼろだ。
手帳に、文字が書かれている。
「グループをぬけろ」「歌下手」「踊り下手」「演技下手」酷い侮辱することばかりである。
目黒ー気にしちゃダメ。
阿部ーん。
目黒ー人の努力を知らないから、何とでも書く。
阿部ー俺、頑張ってる?
目黒ーいっぱい頑張ってる。
阿部ーありがと。
家の鍵と携帯は持つようにした。
収録などの時は、マネージャーに預けている。
カバンを置きっぱなしにすることがあるからである。
回収されたカバンの中にメモが入っている。
「あなたには、しっかりしてる彼女が必要ね、私がなってあげる」
阿部ー迷惑だよ。
目黒ーメモだけで、どんな人か分かんないし。
阿部ー分かっても、遠慮する。
目黒ー俺がいるもんね。
阿部ーん。
メモの主は阿部がカバンを変えても入れてくる。
阿部は、可愛いから狙われやすい。
メンバーでガードしているが、隙を見てメモを入れる。
内容はいつも同じ。
阿部の可愛いところは目黒が知っていればいい。
メンバーも知らない、可愛いところを目黒は知っている。
それで十分だと思う。
メモの主のように、上から目線で「彼女になってあげる」というような人は阿部が、お断りである。
こういうやり方も嫌いである。
ある日、阿部のカバンを探っている人物に会った。
2メートルくらいの大男で、急いで立ち去った。
カバンの中にメモがある。
だが、文面がいつもと違う。
「時間がないの、会いに来て」
その下に住所と名前があった。
阿部ーめめ、どう思う?
目黒ー行ってみようか?俺もついて行く。
大きな屋敷に着いた。
名前を言うと、門は静かに開く。
玄関先に1人の女性が立っていた。
女性ーいらっしゃいませ。
阿部ーあの・・。
女性ーお嬢様がお待ちです、どうぞ。
案内された部屋は、阿部のポスターがいっぱい貼ってある。
テーブルにはグッズも並んでいる。
部屋の主はベッドに横になっている。
10代後半に見える。
少女ーいらっしゃい、会えて嬉しい。
阿部ーあの、メモは君が?
少女ー私はここから動けない。その代わり、私の目になってくれる人たちが、あなたの周りにいる。
阿部ー俺の周り?
少女ー写真や動画を撮ってくれる。
阿部ーあのメモは?
少女ーいつか、大事なものをなくしそうで。
阿部ー気をつけるよ。
少女ーめめがそばにいてくれるものね。
青白い顔。
細い身体。
どこが悪いか知らないが、健康ではないようだ。
目黒ー時間がないってどういうこと?
少女ーもう、命の期限がないの。
阿部ーそんな!
少女ーありがと、あなたに会えて良かった、もう思い残すことはないわ。
阿部ー生きなきゃ!
少女ーこれでも奇跡だって言われたわ、ここまで生きていられて。
うっかり者の王子様、気をつけてね、めめがそばにいたら大丈夫ね。
息が途切れてきた。
目黒が阿部の肩を抱いて、安心して、俺が守るからと言う。
笑って目を閉じる。
医師が駆け込んできた。
目黒と阿部は静かに屋敷を去った。
目黒ーうっかり者の王子様だって。
阿部ーん。
目黒ー元気出して?
阿部ーあの子、大丈夫かな?
目黒ー難しいね。
阿部ー俺、頑張ろうっと!
阿部の周りから人が5人ほど消えた。
阿部は目黒の胸で静かに涙した。
完