テラーノベル
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見覚えがあったのか、クリストフは魔石を手に取り、透かすよう翳して中の紋様を凝視する。
「……これはっ。……ぅぐっ!!」
「あ、兄上!?」
クリストフは、魔石を持ってない手で頭を押さえた。
リーゼロッテがクリストフの目を見ると、まるで瞳が魔石になったかのように赤くなり、黒い紋様が現れた。
直ぐにクリストフの手にあった魔石を取り上げて、もう一度癒しをかけ鎮静させる。
――パタリと、クリストフはベッドに倒れた。
(やはり、そうだったのね……)
リーゼロッテはこの部屋に結界を張ると、外との繋がりを遮断した。
「リーゼロッテ! 兄上に何をした!?」
「私は何も。癒しをもう一度かけました。殿下は……今は眠っただけです。ジェラール殿下にも、ちゃんと話していただかないといけません」
リーゼロッテの静かな言い回しに、ジェラールは戸惑った。
リリー姿の時は、わざと大人びた喋り方にしているのかと思っていたが――。見た目はリーゼロッテだが、雰囲気はリリーそのものだった。
「この……黒魔法が施された魔石は、クリストフ殿下が作った物ではありませんか?」
「ま、まさかっ!」
「多分、おひとりでは無理でしょう。フランツに埋め込んだ時期を考えると、もっと別の……。例えば、殿下にとっての魔術の師匠とか?」
考えながら話すリーゼロッテの推測に、ジェラールは固唾を呑む。
「それに、先程の殿下の髪と瞳の色の変化。クリストフ殿下は小さな頃から、金髪で青い瞳だったのではないですか? ジェラール殿下は、黒髪黒眼に驚いてらっしゃいましたよね?」
「ああ、確かに子供の頃から……兄上は、金髪で青い瞳だった」
「つまり国王陛下か、王妃陛下が……クリストフ殿下の闇属性を知っていて隠蔽していた。宮廷魔術師の誰かを使って。――そして、その魔術師は魔玻璃を狙っている者」
ジェラールは目を見開いた。
「どうして、そんなことが分かるのだ!! 兄上が闇属性だから、魔玻璃を狙っていると言いたいのかっ!?」
「違います」と、リーゼロッテはキッパリ言い切る。
「訳がわからん!」
苛立ちを隠せないジェラールの口調は強くなり、リーゼロッテを睨むように見据える。
「いいですか、クリストフ殿下は誰かに利用されています。殿下の魔力が、この魔石に吸い取られているのです。ループする前――この時期の殿下は、ここまで悪化していましたか?」
「……いや、普通に執務を行える程度だった」
「これは、仮説ですが……。私たちがループして、この魔石の存在を知り、壊したり回収したりしています。ですから、1周目に比べてクリストフ殿下からの魔力が、相当な量で消費されているのだと思います。王族であっても、魔力量には限界があるのではないですか?」
「確かに……だがっ!」
「先程、殿下が魔石を持った瞬間……魔石にクリストフ殿下の魔力が流れていきました。今、この部屋には私が結界を張っています。結界を解けば、また殿下の魔力は外の魔石へと流れて行くでしょうね」
リーゼロッテは、またクリストフに魔力枯渇の危機が来ると言っている。
「ならば、どうすればいいのだっ!!」
「うーん……」とリーゼロッテは考える。
「では、こうしましょう! クリストフ殿下に協力してもらいます。ジェラール殿下、説得お願いします」
胡乱げに視線を向けるジェラールを無視して、話を進めて行く。
「結界をこのままにして、クリストフ殿下は回復していないことにします。そうすれば、魔石に魔力が流れなくても怪しまれないでしょう?」
「……成る程」
「それから、ジェラール殿下は宮廷内部を探ってください。クリストフ殿下の容姿の隠蔽は、誰の指示で誰が行ったものなのか。私は、教会内部の人間を探ります」
頷いたジェラールは、じぃーっとリーゼロッテを見つめた。
「……何ですか?」
コテリと首を傾げる。
「つくづくリーゼロッテを……いや、敵に回したくないと思っただけだ」
ジェラールは、何も言わずに自分を見ているテオの視線に気づいて、天を仰ぐと言葉を濁した。
「あ! あと1つ質問です」
「何だ?」
「ジェラール殿下が、あの洞窟へ追って来たのって……クリストフ殿下ですか?」
「……なぜ、分かった?」
「何となくです」
それ以上は訊けなかった。
(以前は――漠然と、私を追って来たのだと思っていたけれど)
ジェラールが必死に追いかけていたのは、リーゼロッテではなくクリストフなのだと確信した。
何かの罪を犯させないように。兄を助けたかったのだろう。
(でもそれは、1周目の出来事……)
ジェラールはもう対策をしている筈だ。
だから、リーゼロッテがこれ以上、兄弟仲に踏み込んで暴く必要は無いと感じた。
「お互い、大切な人を守る為にループまでしちゃうなんて。凄いですよね」
「全くだ。……エアハルト辺境伯には、少々妬けるがな」
リーゼロッテのループ仲間に向けた優しい表情に、ジェラールは照れたように笑みを返した。
そして、王家へ恩が売れるかもと期待して待っていた枢機卿に、無理だったと伝え教会へと帰った。
(あ、忘れるところだった)
クリストフから取り上げた魔石を、また自分の首に貼り付けた。
(さあ、いつでも来なさいっ!)
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