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完全オリジナルストーリーです。
よろしければどうぞ。
(とてつもなく長いです)
私の名前は黒崎樺蓮。日本のトップの歌い手であり、世界に進出し始めた高校2年生だ。歌い手になったのかというとただの興味本位である。
「黒崎さーん。スタンバイ、お願いします。」
「わかりました。」
今日は日本の歌番組に出演するのだ。
「今日のゲストは黒崎さんです!今日はどんな歌声を聞かせてくれるのか、楽しみですね!」
司会者が熱く語っている中、私は深呼吸していた。
「今、日本中…いや、世界中が注目する高校生ですか。凄いですね。」
「それほどでもないです。自分のやりたいって思ったことをやってるだけなんですから。」
「なるほど……。それでは、歌い始めて頂きましょう!」
私は、この歌番組を成功に終わらせたいという思いと、自分の力を見せつけたいという二つの思いで収録に挑んだ。
「お疲れ。樺蓮。」
控え室に戻るとマネージャーの島崎が水を渡してくれた。
「ありがと、島崎。」
「相変わらずいい歌声だったぞ。」
私はかなり気持ちが高ぶっていた。すると誰かが控え室の扉をノックした。
「すみません」
「はーい」
島崎が出ていく。私はソファに座った状態で扉の方を睨みつけていた。人と関わるのはあまり好きでは無いのだ。
「お疲れ様です。ご挨拶に来ました。」
相手はfwenittoというアイドルグループのリーダー、神崎蓮だった。ステージ上とは違い、紳士的な性格だった。
「島崎、追い出して」
「せっかく挨拶に来てくれたんだ。お前も挨拶くらい返してやれ。」
「………」
「すみません。うちの樺蓮は人と話すのが苦手でして……」
「いえいいんです。お邪魔してしまったようですみません。」
相手は会釈をして出ていった。
「樺蓮…人間関係は芸能界において大事だ。そのへんちゃんと考えとけ。」
「別にどうでもいい。私はただ歌いたいから歌ってるだけ。」
島崎は何か言いたげな顔をしたが、何も言わなかった。
~翌日~
今日はマネージャーと社長と打ち合わせだ。どうやら新しい企画を思いついたらしい。
「黒崎くん、よく来てくれた。」
「社長、お久しぶりです。」
彼と会うのは1ヶ月ぶりくらいだろうか。ツアーやらテレビ収録やら色々と忙しく、事務所にはあまり顔を出していない。
「お前はアイドルグループ、fwenittoを知っているな。」
「男性グループ…ですよね?年は私とそう変わらない……」
「そうだ。そこのグループとコラボ企画をしようと思う。」
「コラボ企画?」
「ああ。fwenittoと黒崎くんがユニットを組んで歌うんだ。」
「え、私ですか?」
「そうだ。神崎くんからの提案でな、是非ともお願いしたいとのことだ。」
「………」
誰かと馴れ合うのは好きでは無い。だが、どうしても歌う機会を逃したくないという気持ちもあった。
「どうだ?」
「分かりました。」
~数週間後~
fwenittoのメンバーと初めて顔を合わせる日がやって来た。今日はfwenittoの事務所にお邪魔することになっている。相手は4人。さっさと終わらせよう……。
「失礼します。黒崎樺蓮です。本日は宜しくお願いします。」
「おう。よろしくな!」
「………」
相手はグイグイとくるタイプのようで私と合う気がしない……。疲れる……。お互い挨拶を終えると、早速打ち合わせに入る。
「今回の曲のコンセプトはこんな感じで……」
「ならこここうするのはどうだ?」
「ああ。確かに」
他のメンバーは次々と意見を出し、雰囲気も和やかなまま、話し合いは終わった。すると、相手のリーダーである神崎蓮が私に話しかけてきた。
「黒崎!」
「……何?」
「少し話さねぇ?あ、時間は取らせないから!」
断るにも断れない状況のため私は首を縦に振った。場所を変え、別の部屋に案内される。
「それで話って?」
「……その初日からグイグイ来てごめん。」
「別に。気にしてない。」
「……なら良かった。俺さ、お前の歌声、凄く好きなんだ!だからどうしても一緒に歌いたくて!」
「……そう」
彼は本当に目を輝かせながら語った。悪い人では無さそうだ。
「その…仲良くしてくれると嬉しいななんて……」
「あんたたちの態度次第だよ」
「なら色々頑張るよ。なんかあったらなんでも言えよ?」
そう言って彼は笑った。そんな彼を見て私も少しだけ口角をあげるのだった。
~翌日~
「樺蓮!おはよう!」
「ゆいなか…今日も元気だね…。」
彼女は山崎ゆいな。入学した時からずっと仲良くしている。とは言っても向こうから強引に来るだけなんだけど……。
「まぁね〜。それが私の取り柄だから!それよりも昨日の番組見てたよ!相変わらずすごい人気だね〜」
「そらどうも。」
彼女は私のファンでもある。私と知り合う前からファンだったらしい。
「ライブ行きたいのにチケット取れなくてさぁ…お願いだから関係者枠で……」
「無理。」
「ですよね……」
話しながら歩いていると、目の前で誰かが止まった。上をむくと、蓮がいた。
「よ!」
「か…神崎……!?なんでここに……!」
「知らなかったのか?同じ高校だろ?俺ら。」
「ふ…fwenittoの神崎くんと知り合いなの……!?」
「まぁ色々あって。ゆいな、先教室行っててよ。」
「え、あ……うん。」
ゆいなは戸惑いながら教室に向かった。姿が見えなくなったことを確認し、神崎を睨む。
「なんでわざわざ話しかけてきたわけ……?仕事中でもないのに……。」
「なんでって…友達?だから?」
「誰があんたと……!まぁいいや……。で、何の用?」
「いや?特に用事はないけど……。」
「なら話しかけないで」
私は神崎に背を向けて歩き出した。しかし彼はしつこく付いてくる。
「……なんでついてくるの」
「ん〜?友達だから!」
「違うでしょ……」
そんな会話をしていると教室に着いた。
「ここか。またな!」
神崎は私に手を振って自分の教室へ向かっていった。
「樺蓮……!蓮くんと仲良いの……!?」
ゆいなが小声で話しかけてきた。
「そんなんじゃないよ……。相手がだる絡みしてくるだけ……。」
「そうなんだ……。でも凄いね!蓮くんと友達なんて!」
「……なんで?」
「だってfwenittoの神崎くんだよ!?ファンの間では神に近い存在って呼ばれる人なんだよ!?」
「そう……。」
そんな会話を交わしているとチャイムが鳴った。ゆいなは自分の席に戻った。授業を聞き流しながら、私は考えた。なぜあいつは私にあんなにしつこく絡んでくるのか。考えれば考えるほど謎が深まっていった。
~数日後~
曲が完成した…というより完成させた。今日はfwenittoとのレコーディングだ。
「流石は樺蓮だな。経った数日で完成させるなんて。」
「作曲は慣れてるから。」
「それでも凄いぞ。さて、fwenittoは……」
とある会議室に入るともうみんな揃っていた。
「こちらうちの樺蓮が作った曲です。」
島崎が相手のマネージャーに曲の入ったUSBを渡した。
「では流してみましょう」
fwenittoは緊張した面持ちで曲を聞いている。曲が終わってみんなは顔を上げた。
「最高だ!これにしよう!」
「………」
どうやら気に入ってくれたようだ。早速レコーディングにうつる。
「黒崎さんお疲れ様」
「あんたは確か……」
fwenittoのメンバーの桐崎怜だっけか……。神崎と仲が良かったような気がする……。
「黒崎さん。すごいね。蓮から聞いていた通りだよ。」
「……お世辞?」
「違うよ!本気で……」
「あっそ」
その時、桐崎が話しかけてきた。
「黒崎〜この後俺たちと飯行かね?」「行かない」
「いいじゃんか!」
神崎は私の腕にしがみついてきた。本当にだる絡みがひどい……。すると、桐崎が私と神崎を引き離した。
「蓮!あまり迷惑なことしちゃダメだよ……。」
「だって……黒崎と仲良くなりたいから……」
「彼女だって忙しいんだよ。僕らだけで行こ?」
「わかった。けど桐崎は先行ってて。黒崎と話がしたいから。」
「……分かった」
島崎は渋々と部屋を出ていった。部屋には私と神崎の2人きりになった。
「黒崎……怒ってる……?」
「……」
「ごめんって……」
「怒ってない…別に…。それで話って何?」
「なんでお前歌い手になったのかなって……」
「……帰っていい?」
「待って!」
神崎はまた私の腕を掴んできた。
「痛いんだけど」
「……ごめん。俺、黒崎と仲良くなりたいんだ!だから……その……」
「もしかして、私に気がある?」
「っ……」
私は深いため息をつく。そんなくだらない事に付き合わされていたのか……。そんなことを思っていると彼は急に真剣な顔をして話し出した。
「……俺は本気だよ?本気で黒崎のこと知りたいって思ったし、友達になりたいって思ってる。」
「……」
なんでこいつはこんな恥ずかしいことを真顔で言えるのだろう。こっちが恥ずかしくなる……。
「黒崎は?俺のことどう思ってる?」
「……あんたは苦手」
「それって好きの反対?」
「……」
「俺は好き!」
「……は?」
急な告白に頭が混乱した。fwenittoとの事コラボ終わったらさっさと手を切るに限るな……。
「そんなこと言われても困る。私は恋愛に興味ないから。」
「そっか……ならさ、俺と友達から始めない?」
「無理」
「即答!?なんで!?」
「恋愛に興味が無いから。」
「……わかった!じゃあこうしないか!」
神崎は私の目を見た。彼の瞳は澄んでいて、とても美しかった。
「黒崎が俺を好きになるように頑張る!」
「……」
そんな訳で私と神崎蓮は奇妙な関係になったのだった。
~数日後~
「蓮。振り付け違う。それとリズムズレてる。」
本格的に合同練習が始まってきた。今日はダンスの練習だ。それとあれからお互い苗字呼びはやめた。理由はなんとなくだ。
「悪い。」
「樺蓮はすごいね。完璧になんでも出来てさ。」
彼は高崎雄也。fwenittoと最年長だ。
「他人を褒めてる暇があるなら練習すれば?」
「ほんと冷たいよね。」
雄也が苦笑した。何が面白いのかよく分からない。
「みんな!弁当買ってきました!休憩しましょう!」
彼は1番の最年少、相崎玲也。最年少なりに頑張っている。
「樺蓮さんも良かったら……」
「いい。私はもう少し練習してる。」「そうですか……」
玲也はシュンとした顔をした。そんな顔をされるとなんだか悪いことをした気分になるからやめて欲しい……。
こいつらと出会ってからほんとに調子が狂う……。
そしてあれから高校生活と歌い手生活を両立させて何とかやってきた。もうすぐ曲の公開日だ。しかし最近は疲労が溜まってきたのかぼーっとすることが多々ある。
「っ……」
「樺蓮?大丈夫か?」
「だ…大丈夫だよ……」
「今の話、聞いてたか?今日のスケジュール話してたんだが……」
「……ごめん。ちょっとぼーっとし…て……」
「樺蓮?おい?」
「も…もう一度言って欲しい……」
「大丈夫か?息荒いけど……」
「平気だから……!」
島崎を無理やり説得させ、現場に向かった。
神崎side
「今日の練習、樺蓮来るの遅いな。」
時間になっても来ないので先に始めていた。しかも連絡もつかない。なので先に始めていた。だけど30分経っても来なかった。
「さすがに心配ですね……。連絡もないなんて……」
「そうだな。」
その時だった。練習室の扉が開く。息を荒くした樺蓮がいた。
「ごめん……。遅れた……。」
「顔赤いぞ?大丈夫か?」
「平気…だか…ら……」
樺蓮は前のめりに倒れ込んだ。俺は慌てて支える。顔は真っ赤になっており、息遣いも荒い。
「っ……!すごい熱……」
「ここ最近遅くまでラジオやってたし……疲れが溜まってたんだよ……」
「寝てないのか……」
樺蓮を練習室に置いてあるソファに寝かせた。再び樺蓮の額に手を当てる。すごい熱だ。
「氷枕と体温計…それから水も持ってこないと……」
「俺が行ってくる。蓮は樺蓮を頼んだぞ」
高崎が部屋を出ていった。俺は樺蓮の額に冷えピタを貼った。
「……ん……」
「起きた?」
「……なんであんたらがいるわけ……?」
「お前が練習室に倒れたからだよ。」
「……そう……ごめん……」
樺蓮は起き上がろうとしたが、力が入らずまた寝転がった。
「無理すんな。熱高いんだからさ……。」
「っ…お姉…ちゃん……」
彼女は何故か上に手を伸ばしていた。高熱のあまり幻覚でも見ているのだろうか……。俺はその手をそっと握った。
「……大丈夫、俺がついてるから……」
「返して……私の……」
「……?」
「おい!色々持ってきたぞ!」
高崎が戻ってきた。手には体温計と水、氷枕など色々あった。早速体温を測らせる。
「38.7°C……。こりゃ高いな……。」
「病院連れていった方がいいんじゃないか?」
「そうだな……」
その時だった。樺蓮は俺の手をギュッと握ってきた。
「……1人……にしないで……」
彼女は震えていた。悪夢なのか幻覚なのか……。俺は樺蓮をそっと抱き寄せた。
「大丈夫……俺がいるから……」
「……ん」
彼女の震えはおさまったようだ。しばらくすると彼女は眠りについた。その寝顔はとても美しく、思わず見惚れてしまった。
~数日後~樺蓮side
「お姉…ちゃん……?」
「樺蓮…1人にして…ごめんね……。私は……」
「嫌だ…行かないでよ……ねぇ……お姉ちゃん!」
「か…樺蓮……?」
「あれ……」
目が覚めると白い綺麗な部屋にいた。腕には点滴がされている。
「急に叫びながら起き上がるからびっくりしたよ……。無理するのも良くないから寝てなよ。」
「あ…うん……」
隣には島崎が座っていた。私は彼に促されるがままゆっくり寝っ転がる。
「私…なんで……」
「38.7℃の高熱で倒れたの。原因は過労と栄養不足。その点滴には栄養剤が入ってるから。」
「仕事は……?」
「スケジュールはうまく調整できた。体調不良で活動休止と発表もしといたよ。」
「退院はいつになる……?」
「樺蓮…今は仕事のことなんかいいから。今は自分のことに専念しなよ。」
「……そうだね……。でも仕事も大事だから……」
「全く……君って奴は……」
島崎は頭を抱えた。その時だった。ドアをノックする音が聞こえる。
「失礼します」
「お、来たな」
部屋に入ってきたのは蓮と雄也だった。彼らは私の近くに座った。
「調子は?気分とかどう?」
「……特に問題は無い。」
「そっか、よかった。でもまだ寝てた方がいいよ。」
「……まさかあんたらに心配されるなんてね。とんだ失態だよ……」
「あの…すみません……。うちの樺蓮が……」
「あ…いえ……。俺たちが馴れ馴れしくするのが行けないんすよね。」
蓮はそう言って笑った。雄也もつられて笑っている。こいつ…とういかfwenittoの奴らはどこまでお人好しなのだろうか……。
「俺らそろそろ行くよ。また明日見舞いにくるよ」
「……別に来なくていいから」
蓮は笑うだけ笑って部屋から出ていった。雄也も出ていってしまい、島崎と2人きりになった。すると彼は真剣な眼差しで私を見つめた。
「ねぇ樺蓮……なんでいつもあんな態度なんだ?嫌いなのか?」
「……違う。これは私の……」
「……?」
「やっぱなんでもない……。もう自分でもよく分からない……。」
「樺蓮……。俺は君の味方だから……」
島崎は優しく微笑んだ。私は彼の目を見ることができなかった。
~数日後~
「退院おめでとう!樺蓮!」
「うるさい……。頭に響く……」
「あ、ごめん……。」
fwenittoの奴らが私の家にやって来た。今日は私の退院日だ。しかしまだ本調子ではないため、家で療養することにしたのだ。
「でもよかったな!治って!」
「まぁね」
「これって……」
蓮は壁にかかっているカレンダーを眺めていた。
「スケジュールどんだけ詰まっているわけ!?病み上がりなのに!?」
「……プロは病み上がりでも関係ない。自分のやるべきことをやるだけ。」「プロ意識高すぎ……。」
怜が呆れたように呟いた。
「まぁ無理するなよ?あんまり仕事しすぎるのも良くないぞ?」
「……善処する」
私はスケジュール帳を見てため息をついた。fwenittoとコラボ曲についての公開はもうすぐだ……。そこに穴を開ける訳にはいかない……!
~さらに数日後~
今日はfwenittoのメンバーとトーク番組の収録だ。
「にしても異例のコラボですね。fwenittoと黒崎さんなんて!」
「いや…むしろ俺たちの方が恐れ多いですよ。」
「そうですね。彼女にはいつもなんやかんや助けられています。」
次々とfwenittoのメンバーがインタビューに答えていく。普段はふざけているけど…結構プロ意識があるようだ。
「……私もこの前彼らに助けられたので感謝しています。」
「へぇ〜。皆さん意外な一面ですね。」
その後もつつがなく番組が進み、収録が終わった。
「おつかれ様でした〜!」
「いやぁ次はドームでライブだぜ俺ら。楽しみだな!」
「……遊び感覚でやられると困るんだけど。」
「わかってるよ。」
「ならいいけど……」
私はそう言ってその場を後にした。そして1ヶ月間ラジオやYouTube、テレビにも沢山出演してfwenittoとのコラボ公演を宣伝しまくった。そして今日が当日。たくさんの人が私たちを見に来る。
「樺蓮さん、体調は?」
「平気だよ。ちゃんと寝たし。」
「ならいけるな!今日は待ちに待った日だ!」
「そうだね」
私はそっと微笑んだ。fwenittoとのライブ……成功させたいな……。
「皆さん!リハのスタンバイお願いします!」
「わかりました!みんな行こうぜ!」
まだリハーサルの段階だけど私たちのテンションは高かった。そしてステージに立ち、曲が流れ始める。その時だった。上のライトが不穏に揺れ始めた。真下には蓮がいる。
「っ……!蓮!」
「え……?」
神崎side
俺はいきなり樺蓮に突き飛ばされ何事かと思った。けど次の瞬間、上からライトが落ちてきて樺蓮が下敷きになった。
「蓮!大丈夫か!?」
「俺はいい…樺蓮が下敷きに……!」
「黒崎さん!大丈夫ですか!?」
スタッフの人が慌てて駆けつけてきた。俺も駆けつけようとしたけど足首が痛んだ。どうやら突き飛ばされた時に捻ったようだ。
「っ……」
樺蓮は意識を失っていた。スタッフの人は急いで救急車を呼んだ。俺はそこでただ見ていることしかできなかった。
~数日後~
ドーム公演は中止。樺蓮は未だに目を覚まさない。ニュースにもなり、ネットでは彼女を心配する声も上がっている。
「くっそ…なんでこんな……」
「僕達はやれることをやりましょう……。」
「やれることってなんだよ……。彼女の代わりに歌うことか……?そんなことしたって樺蓮は喜ばねぇよ!」
「蓮、落ち着け。」
「落ち着いてられるかよ!なんで……なんで樺蓮がこんな目に合わないといけないんだ……」
「蓮」
高崎は俺の肩に手を置いた。
~2ヶ月後~黒崎side
何故か暗闇にいる。何も見えないし体も動かない。
「……なんでこんなところに……」
「樺蓮。大丈夫?」
聞いた事のある声だ。ゆっくりと振り返ると見た事のある顔だった。
「びっくりしちゃった。樺蓮がこんなところにいるなんて。」
彼女はそう言って笑っていた。彼女は私の…姉だ……。
「お姉ちゃん……?なんで……」
「ごめんね。樺蓮……あなたに何もしてやれなかった……。」
姉は私を抱きしめた。何故か涙が零れた。ずっと会いたかったお姉ちゃんにやっと会えたのだ……!
「なんで謝るの……?私、お姉ちゃんが守ってくれたからここまで来れたんだよ……?」
「……ねぇ樺蓮」
彼女は私の頭を撫でながら呟いた。
「私はあなたのことが大好きだよ。だから戻りなさい。ここはあなたがいていい場所じゃない。」
「どういうこと……?」
「あなたはまだここに来るべきじゃない。樺蓮……さようなら……」
私は姉の体から離れた。手を伸ばしてももう届かなかった。そして意識が段々と遠のいていった……。
「お姉ちゃん……!」
私は目を覚ました。白い天井、薬品の匂い……そこは病院だった。体が思うように動かない。点滴もされていて包帯が巻かれている。
「樺蓮……?樺蓮…起きたのか……?」
隣を見るとfwenittoの奴らがいた。「あんた達……なんでここに……?」
「覚えてないのか?お前はライトの下敷きになって意識不明だったんだぞ……」
「あぁ……」
私は思い出した。そうだ……あの時私は蓮を庇って……。それで病院に運ばれたってことか……。
「ドームは……?」
「中止だよ。あんなことがあったから。」
「そう……」
私はため息をついた。
「樺蓮……」
「ごめん、1人にしてくれる?」
「……分かったよ」
彼らは病室から出ていった。私は再びため息をついた。病室を見回すとカレンダーが目に入った。
「9月……?」
2ヶ月も寝ていたの……?
「嘘でしょ……?」
スマホを手に取ろうとしても腕が動かない。私は本当に2ヶ月も寝ていたのか……。
「お姉ちゃん……。」
あの時お姉ちゃんは私に「戻りなさい」と言った。どういう意味だろう……?
「黒崎さん。体調はどうですか?」
しばらくして医師と思われる人物が来た。
「特には……」
「そうですか。誠に残念ですが障害が残る可能性はあります。手足についてはリハビリを行えば元のように動くようになるでしょう。それと…頭の傷については残る可能性があります。」「……そうですか。」
医師は重いため息をつくと病室から出ていった。
「……もう歌い手は無理か」
あの時…亡きお姉ちゃんと約束したのにな……。
『樺蓮は歌が上手だね〜。将来は芸能人かな〜。』
『私、お姉ちゃんのために頑張る!お姉ちゃんがくれた歌を色んな人に聞いてもらいたい!そしたら……いつか私の歌で、世界中の人を感動させたいな!』
『樺蓮は凄いね。応援してるよ。』
「……っ……!」
なんで今になって思い出すんだろう……。もう叶わないのに……。
私には両親がおらず、姉が親代わりだった。そして姉も芸能の道を進んでいた。けれどある日、姉は変わってしまった。夜遅くまで帰ってこないことも多々あった……。
『お姉ちゃん……?どこ行くの……?』
『うるさい……。あんたみたいなガキには関係ないでしょ……!』
姉はそう言って私の頬をぶった。私は何が起きているのか分からなかった……。そして姉は何処かへ消えてしまった。そして数日経ったある日。私が学校から帰ってきた時だった。
『お姉ちゃん……?いるの……?』
何日ぶりか分からない再開。リビングで寝ている姉を見つけた。けれど起きている気配はない。疲れて寝ているのかとおもいそーっとしておいた。けれどそれが間違いだった。数時間後経っても動く気配がない。
『お姉ちゃん…晩御飯できたから一緒に食べよ?起きてよ。』
一生懸命揺らすが起きない。私は怖くなって救急車を呼んだ。
『お姉ちゃん!起きてよ!ねぇ!』
けれど姉は起きなかった。そして病院に運ばれ、そのまま帰らぬ人となったのだ。死因は薬物過剰摂取。姉は薬物の虜になり、最後には別人格になっていた。姉に薬物を渡した本人は山田プロダクション社長、山田幸輝……。うちの社長だ……。復讐するためにも歌い手をやっていた。だけどこうなった以上は……。
「樺蓮…今日も来……」
扉が開くと島崎がいた。彼は私を見て固まっている。
「起きたのか……?お前……」
「うん。」
「体は……?平気か……?」
「全然平気じゃないよ。リハビリしないと動かないってさ。」
「そうか……」
彼は安心したのかため息をついた。
「ねぇ島崎……私、歌い手やめるよ」
「……は?」
「こんな体じゃ歌い手なんかやっていけないし。」
「そんな……。でも体が動かなくても……」
「……あれ、人為的なんでしょ?」
「何言って……」
「誰かが私を狙ってる。」
ま…山田社長なんだろうけど……。「そんなわけないだろ。」
「ならなんで私がこんな目にあったの?おかしいでしょ?」
「……」
島崎は黙り込んだ。私は下唇を噛む。歌いたい……思いっきり歌えるはずだったのに……。
「……リハビリしてさ、また歌ってよ」
「え……?」
「リハビリだって大変だろうし……そもそもお前まだ高校生だしな!チャンスはまだある!」
島崎は笑顔で言った。本当に彼はお人好しだ。
「……高校は辞める。」
「え……?」
「遊び程度で通っていただけだし。それに歌い手だってもう無理。」
「……これ読め」
机の上にダンボールが置かれた。中にはたくさんの手紙が置いてある。
「お前宛てのファンレターだ。……まぁ2ヶ月分溜まっているからこんなもんじゃないけど……」
歌い手続けて欲しいだの早く元気になって欲しいだの書かれていた。
「私はこいつらのために歌ってたんじゃないのに……」
「……だと思った。けどお前も無意識のうちにファンの子達のために歌ってたんじゃないのか?」
「そんなわけ……」
私は首を振った。ファンの為なんかじゃない……。ただ、お姉ちゃんの歌い手姿に憧れていただけ……。いわば自分の趣味を世界にさらけ出していただけだ。
「歌っているお前は何よりも楽しそうだった。普段愛想なんかないのに舞台に立つといつも笑顔だった。ファンに歌を聞かせるために歌ってたんじゃないのか?」
「……違う」
「樺蓮……お前は歌い手だ。お前から歌を取ったら何も残らないだろ。だから……」
「うるさい!」
私は叫んだ。島崎はビクッと体を震わせた。
「ご…ごめん……。つい……」
「いや……私こそ急に怒鳴ってごめん……。」
私はため息をついた。もう考えたくない……。島崎も黙ってしまった。気まずい時間が流れる中、私はある事を思い出した。
「ねぇ……島崎……」
「なんだ?」
「浜崎麗華って知ってる……?」
「あ〜…確か昔売れっ子だった歌い手だよな。ちょうどお前みたいな才能の持ち主だった。うちの事務所にいて……」
「それ私の姉」
「……は?」
島崎は目を見開いている。そりゃそういう反応するよね……。彼はしばらく黙り込んだ後、口を開いた。
「だってお前の苗字黒崎だろ……?」
「私が戸籍を変えた。私との関係を世間に晒さないために。」
「……なぜそんなことを……」
「不祥事が露呈しないためだよ」
「不祥事……?」
私は島崎に全て話した。お姉ちゃんが亡くなったこと、私が歌い手を始めたきっかけ……。
「復讐か……。確かにあいつは薬物で死んだけど……一体誰に復讐を……」
「さぁね。けどこれだけは言っておく。結構あんたの身近にいるよ。」
「俺の……?」
島崎は心当たりがないようで考え込んでいる。私はため息をついた。
「私が歌っていたのは姉との約束と…復讐のため……。けどこんな体になったんじゃもう無理だね。」
半笑いしてみせる。自虐のつもりだ。島崎はジッと私を見つめている。
「なんだそれ」
「……え?」
「復讐のため?呆れるな。何となくお前が人と関わってこなかった理由もわかった。けど私情を仕事に持ち込むな。」
「な……どういう意味……」
「姉との約束とか言ったな。立派な歌手になれとか言われたんだろ。けど姉は本当に今のお前を望んでいるのか?」
「それは……」
確かにそうだ。姉は自分のためじゃなく誰かのために…ファンや私のために歌っていた……。
「あいつはどこに行っても自分よりファンのことを大切にしていた。共演した歌手にも愛想が良かった。」
「……私と真反対か」
「けどお前歌うことは心から好きなんだろ?なら、自分の為じゃなくて誰かのために歌うことをこれから心がけろ。」
「これから……」
私は手元にあるファンレターを見つめた。私の歌を楽しみにしてくれている人がいる……。それだけでも嬉しく感じる……。
「……もう一度頑張ってみる。」
「その意気だ。」
島崎は笑った。本当にお人好しな人だな……。
「明日からリハビリ期間だって。」
「……頑張れよ」
そう言って彼は私の頭を撫でてきた。痛くて悶絶する。
「え…どした……」
「傷に響く……」
「あぁ……ごめん……」
彼は申し訳なさそうに手を引っ込めた。その不器用さに思わず笑ってしまう。
「何笑ってんだ……?」
「……なんでもない」
~数ヶ月後~
結局高校はやめた。ゆいなは寂しそうだったがリハビリに専念するためには仕方ない。コツコツと続けてきたおかげで前ほどではないけど動くようになった。まだダンスは無理そうだけど……。
「どう?体の方は?」
fwenittoのみんながいつも見舞いに来てくれる。なんならリハビリに付き合ってくれていた。今日は蓮だけだけど……。
「……結構治ってきた。あんたたちのおかげかも。」
「いや、あんたの努力の成果だ。」
蓮は笑った。あれから彼らに冷たくするのはやめた。若干前のくせでたまに強く当たってしまうけど……。
「新曲はどうしたの?あんたらとのさ……」
「それはまだ公表してない。」
「え……」
「みんなで…樺蓮が元気になるまでとっておこうって決めたんだ。」
「……そっか。」
私は微笑んだ。みんな……本当に優しいんだから……。
「その…今までのこと謝る……。」
「何が?」
「何がって…言わせないでよ……。その…強く当たってたこととか冷たくしてたこととか……」
「別に気にしてないよ。」
蓮はフッと笑った。
「むしろあのクールな感じが樺蓮ぽかったかなって。あ!今が樺蓮ぽくないって言いたいわけじゃないからな!」
「分かってるよ。」
そんな慌てた様子の彼に私も笑顔を見せる。
「不思議だね。あんたらと出会ってなかったら私の性格が変わることはなかった……。」
「そうだよな……。なんか不思議だな……」
彼はぼんやりとしている。その横顔を眺めていたら目が合った。
「……何?」
「いや、元気になって良かったなって」
「そっか……。」
私は蓮の手を取った。彼の大きくて温かい手。本当に安心できる……。
「あ……!ごめ……」
正気に戻って離そうとしたがさらに彼に強く握られてしまった。
「ちょ……」
「もう少し握っててもいい?」
「でも……」
「頼む」
蓮は手を握ったまま言った。私は渋々頷いた。彼は嬉しそうにしている。
「なぁ樺蓮……キスしたいって言ったらどうする……?」
「……はっ!?」
思わず手を離してしまった。こいつ今なんて……?
「冗談だよ。」
「冗談に聞こえないんだけど……」
「まぁ……半分は本気だけどな。」
蓮はボソッと呟いた。
「え……?」
「あ!そろそろ時間だから俺帰るわ!」
彼は慌てて病室を出ていった。私は呆然としている。そして顔を真っ赤にさせた。
「……何あいつ……。心臓に悪い……。」
私は胸を押さえた。ドキドキが止まらない……。これはきっと恋なんかじゃない……そう自分に言い聞かせるのだった……。
「……でも…悪く…なかった……」
~翌日~
今日は臨時退院の日。島崎が車で迎えに来てくれていた。久々に事務所に顔を出す。
「なんで社長に呼び出されたの?」
「さぁな。これからのことについて話したいんでしょ。」
「これから……?」
社長室に入るとニコニコした社長が出迎えてくれた。
「黒崎くん、おかえり」
「……ただいまです」
なんで私はここに呼び出されたんだろう……。島崎は気まずそうな顔をしているし……。
「早速話たいのだが君の旧姓、浜崎らしいね?」
「っ……!」
なんでその話を知ってるの……?そう思いながら島崎の方を見ると彼は気まずそうに私から目線を逸らした。……最悪だ。
「浜崎麗華。彼女の妹だとか……」
「……なんでその話を?もしかして違法薬物の件が私に暴露されると怯えているのですか?」
「まだ君が復帰することはネットに公開していない。つまり…どういうことかわかるね?」
「……ここであなたが私のことを殺せば事故のせいにできる。そう言いたいんでしょう?」
私がそう言うと社長は不敵に笑った。「その通りだ。」
「……はぁ」
私はため息をついて島崎を睨みつける。
「あんたのこと信用して姉の事話したんだけど……」
「……悪かったとは思ってる……。けど…こっちにも事情が……」
「……アーティストを守るのがマネージャーじゃないの?見損なった」
「………」
島崎は黙り込む。今まで優しくされたのも嘘だと思うと傷つく。表には出さないけど…。
「……私をどう殺すおつもりで?」
「それは簡単さ。」
懐から謎のケースを取り出した。中にはたくさんの錠剤が入っていた。
「これを飲ませる。君のお姉さんと同じように。」
「へぇ……。これで姉を操ったと……」
「簡単だったよ。妹が誰か分からなかったが存在は知っていた。彼女は君のために必死にお金を稼いでいた。」
「………」
姉が私のために忙しくしていたことは知っていた。見ていて辛かったし悲しかったけど…まだ幼いかったから上手く言葉をかけてやることは出来なかった。そんな私に姉は「私は平気。樺蓮は樺蓮で頑張ってね。」と言って私を励ましてくれた。
「そんな事情をある日知ってな。給料をあげてやると言ったんだ。条件付きで。」
「条件付き……?」
彼はまた不敵に笑いながら錠剤をチラつかせる。正直嫌な予感しかしない。
「この薬を飲むこと。それを飲んでくれた暁には今よりも多く給料を与えると言ったらすぐに承諾してくれたよ」
「あんたが…姉を薬漬けに……」
私は社長を睨みつける。彼は余裕そうに笑った。
「人聞きが悪いね。ただ、彼女はこの薬を気に入ってくれて毎日飲んでいただけさ。」
「……っ!」
「さて。この事情を知った今、君は生きる資格はない。」
彼は錠剤を私の目の前に差し出した。私は思わず後ずさる。島崎は私の前に立ちはだかった。
「だから……樺蓮の姉と同じように薬で自殺させるというのですか……?」
「仕方ないだろう。それに密告してきたのは他でもないお前だ。」
「それは……」
「島崎。今更私を庇うの?」
「………」
「中途半端に私の味方しないで。迷惑。」
「悪かったと思ってる!今更許してくれなんて言わない……。けど俺は……樺蓮の味方だ。」
「……はぁ」
私はため息をついた。こいつはこいつでなんなのかよく分からない。
「だそうです社長。それにどうやって飲ませるわけですか?簡単にはいそうですかって飲むわけないでしょ。」
「まぁそうだな。けど島崎が君をまた欺くとしたら?」
「……は?っ!」
あっという間に地面に伏せられ、両腕を縛られた。身動きが取れない。
「島崎……!」
彼は何も言わずただ無表情で見つめてくるだけだった。その冷たい視線に恐怖を感じる。
「こいつは逆らえないように私が脅している。」
「社長……あんた……」
私は彼を睨みつけた。抵抗しようとしても島崎の力が強くて動けない。
「さぁ、薬を飲みなさい」
無理やり口を開かされ錠剤が入ってくる。吐き出そうとしても彼の力が強くて飲み込まざるおえない……。
「……うっ」
喉に詰まりながらもなんとか飲み込むと島崎は私を縛っていた腕を離した。私は地面に倒れ込む。頭がフラフラして上手く考えられない……。そんな私を見下ろすように島崎もしゃがみ込む。
「私の事を裏切って……」
「悪いな。」
彼はいつも通りの冷静な表情だった。それが余計に腹立たしい……。私は島崎を睨むが彼はまるで動じていないようだ。
「しばらく寝てろ」
「あんたらのせいで…お姉ちゃんは……」
この薬強すぎる……。すでに意識が朦朧としてる……。
「っ……」
意識を失う寸前、ドアが開いた気がした。そして蓮達がいたような気がした……。
~数分前~蓮side
「そういえば今日彼女仮退院だよね?みんなで向こうの事務所行かね?」
「え…でもそれは向こうに迷惑では……」
「いいんじね?サプライズって感じで!」
「……僕はどちらかと言えば反対だけど……」
2対2で別れたが、結局みんなで行くことになった。しかし事務所についた途端、不穏な空気を感じた。少女の怒鳴り声が辺りに響いていたのだ。
「……嫌な予感がするね。」
「早く行こう。」
急いで事務所に向かった。すると社長室から少女の怒号が聞こえる。
「私の事を裏切って……」
樺蓮の声だ。急いで扉を開けた。中には意識を失って倒れている樺蓮とそれを囲む彼女のマネージャー、そして社長がいた。
「これは一体……!?」
「樺蓮!」
「見られてしまったか……。」
彼女に近づくと呼吸が浅かった。社長は淡々と話す。
「彼女は私に逆らったんだ。その報いを受けてもらっただけさ」
「はぁ?何言って……」
「島崎くん。彼らも彼女と同じ目に合わせてあげなさい。」
社長がそう言うと島崎は躊躇することなく俺たちに襲いかかってきた。
「何すんだよ!」
「お前……正気か!?」
俺と雄也で島崎を取り押さえに行く。島崎は難なくそれを躱した。
「残念だったな」
彼は樺蓮の側に立ち、彼女の頭に拳銃を突きつけた。
「おい!」
「抵抗すれば殺す。」
なんで芸能事務所所属のマネージャーが拳銃持ってんだよ……!
「いいか?この銃は偽物じゃない。本物だ」
「……」
俺達4人は目線を合わせる。樺蓮が殺されれば元も子もない。
「社長はなんで樺蓮さんを……?」
「簡単に言えば隠蔽のため……。」
「隠蔽って……」
こいつらは一体何を隠してる……?とにかく樺蓮を病院に連れて行かないと……。けれど彼女を人質にされている限りどうしようもない……。そう思ってた時だった。
「……怜?何して……」
彼が超スピードで島崎を蹴り飛ばして銃口を奪い取った。こいつ…こんな運動神経良かったっけ……?
「とりあえず病院に連れて行こう。」
「あ……あぁ……」
怜の気迫に押されながら樺蓮を車に乗せて病院に向かったのだった。
~数分後~
彼女がつい先日まで入院していた病院に連れて行った。昏睡状態でいつ起きるか分からないらしい。下手したら一生起きないかもとの事。
「せっかく起きたばっかりだったのにな……。」
「………」
俺たちはベッドに横たわる樺蓮を見つめた。
「あの……!これって……」
すると玲也が彼女の服のポケットからあるものを見つけた。レコーダーだ。
「なんでこんなものが……」
「もしかして社長とのやり取りを録音していたのかもしれない。聞いてみよう。」
そして流してみた。内容は結構酷かった。もしかしたら彼女は自分が死ぬ覚悟で社長を煽り、世間に訴えようとしたのかもしれない。
「あ…紙が貼り付けられている……。えーっと…『見つけた者へ。私の代わりにネットにこの音声を流して。』って書いてあります……。」
「1人で抱えてたってことか……」
彼女が今まで初対面の人にたいして冷酷だった理由もわかる気がした。
「……樺蓮の味方は俺たちだけだ。やってやろうじゃないか……。」
俺は静かな怒りを感じていた。そして後日、fwenittoの公式アカウントに例のレコーダーを流す。反響がすごく、連日ニュースにも取り上げられた。社長と島崎は逮捕。高田プロダクションは崩壊した。その一方で樺蓮を心配する声が今まで以上に多く上がっていた。
「樺蓮…お前を心配している人間は多くいるんだ……。早く起きろよ……。」
「………」
どんなに声掛けしても彼女は目を覚まさない。いつ目が覚めるんだろうか……。俺は樺蓮の手を強く握った。
「……?」
その時だった。一瞬だが軽く握り返されたような気がする。
「……思わせぶりなんかやめろ……」
でも……今はこれで十分かもしれない。俺はそっと彼女の頭を撫でた。そしてゆっくり立ち上がる。
「収録行ってくるからな。」
そして彼女の元から立ち去った。彼女が静かに微笑んでいたことを知らずに……。
ここまでお読み頂きありがとうございました。また気が向いたら長編オリジナルストーリー投稿したいと思います。次はいつになるか分かりません。それではまた。