夏季休暇も終わり、休暇仕様の頭も実力試験という紙により、強制的に現実に引き戻されることになった。今年の夏季休暇中、ジョージアに勉強を少し見てもらったおかげで、私は今回の実力試験はそれほど嫌ではなかった。実際、実力試験の順番が張り出され確認したが、いつもより順位も上がっている。
ジョージアの教え方がよかったのか、今までの授業で理解していなかったところが完全にわかるようになっていたのだ。これは、ジョージア様々だと深く感謝する。
「アンナ、成績上がったんじゃないか? 勉強方法を変えたのか?」
声をかけてくるのは学年1位のハリー君。
そりゃ、ハリーに比べたら下の方にいますよ?
それでもジョージアが努力してくれ、私の学力を底上げしてくれたのだ。これでもかなり上がったんだから、ハリーも褒めてくれたらいいのに……と内心思う。
「上がったよ! なんていうか、能ある鷹は爪を隠すっていうの?」
冗談を言ったのだが、ハリーの視線は冷たい。そのうち、カンニングでも……と言われかねないほどだった。
「あのね、私もこの夏季休暇中、真面目に勉強したの。それは、それは涙ぐましい努力をしたの! 確かに先輩に根気よく教えてもらったりしたけどね……」
そこまで言うと、ハリーは見たこともない先輩に憐みの視線を送っているようだ。そう、何を隠そう、ハリーがいつも私に定期試験の前に勉強を教えてくれていたのだ。ハリー自身が理屈でわかっているぶん、なぜそうなるのかを説明してくれるときに、ものすごく大事そうなところを省略されて説明されるので、今までハリーの解説してくれる言葉がさっぱりわからなかったのだ。どこか異国の言葉だと思えたほどであった。そこを懇切丁寧に教えてくれたジョージアのおかげで、今回の試験では学年総合順位が9位まで上がった。
「そうだね。素直に順位が上がったことを友人として喜ぶべきだ。僕の勉強不足を指摘してくれてありがとう……」
その言葉にうっとしてしまった。いつも教えてもらって、私は中の上くらいの成績だった。こんな順位を取れるということは、教え方次第だということであって……ハリーが反省をしていた。
「は……ハリーが悪いわけじゃないと思うよ! 私の努力不足が成績の上がらない理由だし。ねっ? そんなに気を落とさないでね?」
伺うように上目使いで様子を見る。表情は曇ったままだ。
「それでも、夏季休暇の間でこんなに順位が上がるなら、やっぱり教え方に問題があったんだろう……」
そういうと、完璧主義に近いハリーは自分の世界に入っていく。仕方ないので、私はカフェテリアへと歩いていくと、後ろからハリーもぶつぶつ言いながらついてきた。
「よっ! 姫さん」
渡り廊下を歩いていると、外で体を動かしていたらしいウィルに声をかけられた。
「ウィル! 何してたの?」
「今ね、今度の手合わせようにシャドーしてた」
「……まだ、対戦するつもり?」
「約束だろ? それより、成績めっちゃ上がってたじゃん! すげー頑張ったんだな!」
ウィルも張り出された成績順位を見ていたようで、順位の上がった私を褒めてくれる。
そう! そうなの! これが欲しかったの! ハリーはこれがないから残念男子なんだ。
「ウィルも安定だね。まだまだ、ウィルには遠く及ばないよ……」
残念そうにいうと、私に勝ったことが嬉しいのかニヤニヤしている。
「んじゃ、姫さんの成績も上がったことだし、ご褒美になんか甘いものでもいかない?」
ウィルの突然の申し出に私は驚いた。後ろでぶつぶつ言っていたハリーも驚いたようで、気味の悪いブツブツが途絶えた。
「いつにする? 今度の休日なら大丈夫だよ!」
「いいのか? デートになるぞ?」
そう言ってウィルは、私を通り超え後ろのハリーに目をやる。
「えぇ、いいわよ。街でお忍びなら、誰も気づかないでしょう?」
「ちょ……ちょっと待って! アンナ。さすがに二人で出歩くのはまずいって。僕もついていくから!!」
話を聞いていたのか、ハリーがいきなり話に割り込んでくる。
「あら、ハリー正気に戻ったのね。ウィル、ハリーもいいかしら?」
確認を取ると、「仕方ない」と許可が下りた。
「そうだ、他の子も呼んじゃダメ?」
「仰せのままに、お姫さん」
そう言って、ウィルは会釈してくる。ウィルに完全にからかわれているようだ。
「じゃあ、セバスとナタリー、あとはメアリーがいいかしら? ハリーも行くのよね?」
いつものお茶会メンバーにこの前紹介してもらったメアリーを呼んでもらうことにした。
「了解、姫さん。セバスとナタリーの予定聞いてくるよ。正面玄関に11時ごろで大丈夫?」
「そうね、大丈夫。ハリー聞いてる? 正面玄関に11時頃よ?」
返事のないハリーに声をかける。
「あぁ、聞いている。アンナの顔の広さに驚いていただけだ……」
「そう。では、それで予定は決まりね!」
「店は、予約入れておくよ!」
「ありがとう」といってウィルと別れる。私は、そのまま、ハリーと一緒にカフェテリアへ向かったのだった。
「さっきのって、ウィル・サーラーだよな? ローズディアの人間だと記憶しているが……」
「ん? ローズディアの人と仲良くしちゃダメって校則なんてないはずよ? むしろ、仲良くするために学園があると思うんだけど……?」
この学園では、二国の貴族子息令嬢が通っているので、基本的に国同士の派閥に分かれる。私も普段は、トワイス国の方に吸収されてしまっているが、あの秘密のお茶会でわかるようにローズディアの友人もたくさんいるのだ。
特に仲のいい友人があの三人なのだが、ハリーは腑に落ちないという顔をしている。
「何? ダメとか言わないよね? 宰相の息子が、隣国と仲良くしたくないといえば、それこそ問題だよ?」
「あぁ、わかっている。そうじゃないんだ。いつの間にローズディアの友人を作ったのかと思って……」
いつも殿下もハリーも私にくっついているものね。そりゃ不思議でしょうよ? 私にだってやりようがあるもの。
友人になったことを隠すつもりもないので、普段から話しかけてくれて構わないとあの三人には言ってあった。
まぁ、なかなかハードルが高いと話しかけてこないのだが……。
「うーん。授業とか? 剣術の授業でコテンパンにしたのはウィルだし? カツアゲよろしく的なところを助けたのがセバスだし? セクハラ受けそうになってたのを助けたのがナタリーかな? 何かしらで、仲良くなったのよ。それだけで十分でしょ?」
お茶会のことは、ハリーには秘密なので話さないでおく。
秘密のお茶会のことを話すと、私の秘密も話さないといけなくなるから……。
ハリーにだけは、私の秘密をこの国から出るまでは知られたくなかった。ローズディアの友人やジョージアとの話は、何も伝えなかったし今後も伝えるつもりはない。できれば、死ぬまで黙っているつもりなのだから、はぐらかしてハリーに笑いかけるのであった。
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