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146 - 第146話 みかん味の日 🐮🐱 📕

♥

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2025年03月15日

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「喉いってぇ〜…」


朝、起床時に吸い込んだ空気がヒリヒリと食道を痛めつける。反動で一つ咳をして、喉元を擦った。ゴクンと唾液が通る度に微かな痛みが走る。心当たりを考えるまでもなく原因は明らかだ。エアコンを一日中稼働させ、頭まで布団を被って寝たせいだろう。


「あ゙〜、くそ〜…っ」


掠れた声で文句を垂れる。その声を掻き消すようにLINEの通知が鳴った。寝返りをうってスマホを見る。画面には”彼氏うっしー“の名前があった。約束って今日だよな、的な内容で、眠っていた意識で過去を思い出す。


「…そーいや今日か…うっしー来んの」


時刻は朝九時過ぎ。約束の時間が何時か忘れてしまったが、確かお昼時の様だった気がする。まあ俺もアイツも時間にルーズだし、そこまで気にしなくていいかな、なんて考えながら再度寝返りをうつ。約束の事と共に、結構前に買ったのど飴が余っている事を思い出した。もぞもぞと布団から這い出て、鞄の底から飴を一粒取り出す。のど飴なのにメンソールが入ってないから、甘くて美味しいのが好きで買っていた。みかんやぶどう、桃なんかの味が入っている。くじ引き方式で手に入ったのはみかん味だった。コロンと口に入れると、少しの酸味と甘味が広がる。大元の袋を取り出して中身を覗くと、まだかなりの量の飴玉が残されていた。


「うっしー来たらまた舐めよ…」


独り言を呟いて、部屋を整える彼氏を迎える為に寝室を出た。
























「邪魔するぜぇ」


「はいはい、どーぞ」


昼の14時前。玄関のドアを開くと声と背丈が低い彼氏の声が響いた。彼氏もというっしーは、口調と異なる丁寧な仕草で靴を揃えてリビングに入る。俺より先にソファーに腰を下ろし、空いている隣をトントンと叩いて俺にも座るように促す。言われなくても座りますよ。


「どの試合観んの?」


「取り敢えずスペイン戦かなぁ。まあ他のも観るけど」


「いいねぇ…。あ、色々ツマミ買ってきたから食いながら観ようぜ」


うっしーはミニテーブルに無造作に置いたビニール袋を漁り、ビールやらポテチやらを取り出した。嬉しい誤算に思わず頬が緩む。だが、うっしーが来る前に入れた飴玉が舌の上で転がり、そのツマミを口に出来ない事を認識させられた。


「あー、後で食うわ。俺今飴舐めてる」


「え、何で?珍しいな」


「いや朝からなんか喉痛くてさ、鞄に入ってたのど飴舐めてる」


「ふーん」


うっしーは生返事をして俺を見つめる。ニヤリと口角を上げた後、今の声も可愛い、と呟いた。顔が熱くなるのが分かって、すぐに目を逸らす。


(ホントこいつは…!)


先程よりも緩んだ口元を見られないように顔を両手で隠す。耳真っ赤じゃん、と追い打ちをかけるその声はご機嫌の様だった。うっしーはぐっと身を寄せて、俺の顔を覗き込んで話す。


「実は俺も喉痛い」


「オソロじゃん」


「要らねぇオソロ」


よく聞くと確かに所々掠れた声だ。そんな声もかっこいいな、なんてぼんやり思ってしまう。うっしーの声、好きなんだよな。まだ飴は残っているし、うっしーにもお裾分けしようと鞄の横に出しておいた飴の袋に手を伸ばす。その手に、見慣れた白くて角ばった手が重なった。指と指を絡め、手の甲を優しい力で包み込む。横目で彼を見ると、ニンマリと意地の悪い笑顔を浮かべていた。顔を紅潮させている事に味を占めたのか、重ねた手により力を込める。


「キヨ」


彼が、掠れた声で俺の名を呼ぶ。底なし沼にゆっくり沈んでいって、抜け出せなくなるほどにはまっていく感覚だ。伊達メガネの奥の真剣な眼差しが、綿毛の様にふわりと揺れる髪が、心做しか熱い手が、俺の心臓を跳ねさせる。


「…何、うっしぃ」


























うっしーとは付き合い始めて今二週間ほどで俺らは出来立てほやほや初心々々うぶうぶカップルだ。大分長い間両片思いを続けていた様で、話を聞くに互いに一年近く拗らせていたらしい。晩酌をしていた時に、疲れて酔ったうっしーに告白された。喜びと驚きでいいよ、と口走り、俺の返事が意外だったのか、うっしーも酔いが覚めた様子で何回も確認してきた。それに答えると嬉しそうに抱きしめてくれたのを覚えている。あの時は本当に嬉しかった。


俺は動画でも度々言っている通り、愛が重いタイプだ。所謂メンヘラってやつ。だから俺はもっと、うっしーと踏み込んだ事をしたい。デートだって、ハグだって、手を繋ぐことだって、付き合う前からたまにおふざけでやる事もあった。俺は、付き合わなきゃ出来ない事をしたい。キスとか、…セックスとか。


でもうっしーは奥手なのか恥ずかしがり屋なのかあまりそういう事をしたがらない。

「お前の嫌がる事はしたくないし、大切にしたい」みたいなことを言っていた。俺には一切嫌な気持ちなんて無いのに。中々手を出してこないうっしーに少しモヤモヤ、というかムラムラとした気分を募らせながら、日々過ごしていた。






















「…いや、お前と手繋ぎてぇなって」


「んふ、フェイクニュース…」


「トゥルーニュースになったな」


手を回転させて、恋人繋ぎにし直す。こんな雰囲気、付き合って以来始めてだ。やっぱりキスしたい。抱かれたい。何でしてくれないんだろう。俺のことそこまで好きじゃないのかな、なんてメンヘラらしい考え方をしてしまう。


「…うっしー…キスしたい」


「う〜ん、だめ」


「もう!なんで!うっしーは俺と…そういう事したくないの!?」


「いや、そうじゃないんだけど…なんか歯止め効かなくなりそうっつーか…」


またそれか。俺は歯止め効かなくなるうっしーが見たくて誘ってんのに。その優しさは時に人を苦しめるぞ。


「効かなくなってよ」


「…マジでいいの?」


「っ、うん……早くしてよ」


「…じゃあお言葉に甘えて。手始めに、キスお願いして良いっすか?」


いざするとなると、緊張で動悸が激しくなる。肩を柔く掴まれ、耳に髪を掛けられた後、後頭部に手がまわる。鼻と鼻がぶつかるほど近づいた顔は少し頬を染めていた。うっしーからは香水のような、でもキツくない、咲きたての花みたいな匂いがする。ほぅ、と小さく息を吐くと、うっしーの口は弧を描いた。


「すっげぇみかんの匂い…」


それだけ言うと、ふにっと唇同士が触れる。何回も角度を変えて触れ合い、遂には舌が口内に侵入した。飴玉で邪魔しないように頬袋に押し込んでそれに応える。一度舌が離れ、ギラリとした目付きをしたうっしーが呟いた。


「俺にものど飴くれよ」


ぼけっと開けた口にまた舌が入り、飴玉を奪う。意図せず口移しの状況になり、どちらか分からない歯に飴玉がカツンと当たる音がした。うっしーの口に移動したはずの飴玉はまだ俺の口先で留まっており、何かと思えば此方に押し込んでくる。


「んぅ、はっ…ふ、何がしたいんだよ…」


「ん?いや、飴舐めきるまでキスしようかと思って」


「っは!?、んっ……ぅ!」


有無を言わさず再び口を重ねる。肩を掴んでいた手は腰に降りていき体を強く引き寄せられた。


(手始めが手始めじゃなくないか…!?)


ちゅう、と舌が吸われると、意識せずとも腰が跳ねた。飴を溶かす為に舌を絡ませ、みかんの味を共有する。もう既に小さくなっていた飴玉はじんわりと二人の舌の上で溶けて消えた。それでもしつこく舌を絡めてくるうっしーの胸板を優しくタップする。


「は、はぁ……長えよ…っ」


「これがしたかったんじゃないの?」


「そうだけど。初めてだし、もーちょい手加減して」


「腰動いてたし…可愛い反応すんじゃん」


ゆっくりと腰を撫でおろし、耳元で囁く。肩を震わせ名前を呼べば、軽くソファーに押し倒される。再度口を重ねると、まだ口に残ったみかんの味がふんわり広がった。


「……なぁ、試合見んの、夕方にしね?」


「え、な、なんで」


「もうそんな雰囲気じゃねぇし……歯止め効かなくて良いんだろ?」


悪戯に笑う彼は、俺の腹に手を這わす。トントンとへその下当たりを人差し指で叩いた後、ツーッと中心線をなぞった。こそばゆさに体を畝らせると、味を占めた様に手の平で胸板を撫でる。


「ん、っ…うっし、ぃ……っ」


「……ベッド、行くか」


もう、止められない。


「…………うん」


俺の心が満たされていく。





口の中にみかんの味が、まだ残っている。

















「これからキヨは、みかん味の何か食う度にこの日の事思い出しちゃうねぇ?」

「…っばか!」

















短編集楽しい〜〜〜!!!!

また🔞書きてぇよ〜〜

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コメント

2

ユーザー

わぁあ、表現が!!言葉の使い方が!!めちゃ好きです!! もう何がなんだか言葉がでてこん、とりあえず最高です。

ユーザー

🔞書きたい?じゃあ書きましょうッ!!!☆私苦手だからなぁ……てか…あの普通に小説書くの上手すぎるんでね 書いてほしいのもある

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