868ロスヨントス組
警察時代捏造ノベル
↑それを元にした
「夕コが警察になるまで」の捏造ノベル
本人や実際のストグラ内のストーリーとは一切関係ない捏造ノベルです。
事実と捏造を混同しないようにお気をつけください。
誤字は鋭意修正中
本編⤵︎ ︎
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この世界なんかクソ喰らえだ。
この街で生きてればそう思うのは必然。かくいう私も、弟の命と自分の命を守りきるのが精一杯だった。
私の13歳の誕生日。大好きだった両親が死んだ。
叔父には
「ギャングの犯罪現場に巻き込まれた 。不慮の事故だ。」
そう言われた。
どうして私を置いていってしまったのか、どうして弟を置いていってしまったのか、これからずっとお母さんとお父さんには会えないのか。
どうして神様は私の誕生日に、私から大切なものを奪っていったのか。
そんな考えがずっと頭の中でぐるぐる回っている間、大人たちはずっとお金の話や私たちの引き取り先の話で揉めていた。
私は感情が追いつかずに泣き出しそうになった。
でも私の足にしがみつき、両親の遺体をぼーっと眺める弟の力二を見て
「守らなきゃ」
そう思った。
結局私たちの引き取り先は、両親の遺産を受け取った“母の兄”、つまり私達の叔父になった。
でも引き取って貰えたと言っても形式上だけ。
部屋は絵にかいたような汚い屋根裏部屋で、食事もまともに取らせて貰えず、貧しい生活を送るしかなかった。
結局は15歳になる歳で、半ば家出のような形で自腹でアパート を借りて弟と2人で住むことにした。
年齢詐称はそんなに難しくなく、少ないとはいえアルバイトでお金を稼ぐことが出来た。
でもやっぱりこの街はそう甘くない。
物価は頻繁に変動するし、理不尽な事件に巻き込まれることも少なくないのに、給料は変わらず、低賃金でこき使われるだけだった。
そして、弟を養うために必死なただの中学生だった私が、そんな環境に長く身を置けるはずもなく、犯罪に手を出すのにもそう時間はかからなかった。
犯罪で手に入る報酬金は、ただのアルバイトで得られる賃金とは比にならないほどの大金だった。
一度の勤務で少なくとも2ヶ月は生きられるほど。
特に私は、幼少から父親に護身術を叩き込まれていたので、割のいい仕事につかせてもらえることが多かった。
やむを得ず人を殺すこともあったので、街中で目立つことが無いように、母親譲りの特徴的な明るいピンクの髪を暗い色に染めた。
かかる時間は、普通のアルバイトに比べれば圧倒的に短くて、弟と過ごす時間も学校に行ける日も増えた。
そして、時が経つにつれて犯罪以外でも呼びだされはじめ、雑用や ストレスのはけ口として使われるようになった。
呼び出しに応じなければいい話。そう捉えられてしまったらそこまでだけど、犯罪の片棒を担ぐというのはそう甘い話じゃない。
弟には何度も止められた。
今まで誇りに思っていたあの綺麗な髪を暗く染め、「仕事に行ってくる」と言って帰ってきた日には、アザだらけの体と少なくは無いお金を持ち帰る。そんな姉を見て恐怖を覚えないわけが無い。
私自身、両親の命を奪った“ギャング”という存在自体に触れたくはなかったし、ましてや“仲間になる”なんてありえない選択肢だった。
でもそんな自分のちっぽけなプライドは、弟の命には替えがたかった。
私は犯罪で報酬を貰うようになったその日から「逆らえば弟を」そう脅され、どれだけプライドが踏みにじられようと、言うことを聞くしかなくなっていた。
それでも何とか耐えられたのは、その日に貰えるボーナスで弟に贅沢をさせてやることが出来たから。
でも、そうして何とか1日1日を食いつないでいた私たちの日常は、一瞬にして崩れた。
私の16歳の誕生日の事だった。
その日学校から家に帰ると
いつも 頭を抱えながら宿題をしている 弟の姿がなかった。
家出?違う
迷子?違う
友達と遊びに?違う
寄り道?違う
何とか無事に帰って来そうな理由を考えてみるが、正直答えはわかっていた。
ひと月前、アジトで任務を受けている時の事だった。
「隣街で今人身売買がホットらしい」
「特にガキは4000万、女は1億だとよ」
「死んでりゃ半額か 。分かりやすくて助かるぜ。」
「趣味の悪い商売を思いつくヤツもいるもんだな」
「まぁこっちは金になりゃなんでもいいんだけどよ」
「この街はもう吸える分は吸っちまったしな」
「別の街で根を張るってのもいいかもな」
「手土産に何十人か持っていけば一旦今の持ち金と併せて他ギャングへの“挨拶”資金ぐらいできんだろ」
鮮明に覚えているあの会話。吐き気がするような邪悪を詰め込んだあの会話。
まさかそんなわけない。力二がそんな目に合うわけない。
色々な可能性を思案して安堵しようとしているくせに、向かっている先はずっと変わらない。
ヤツらのアジト。
自分1人で何とかなるはずもない。でも行かない選択肢は無かった。
アジトに着いた瞬間目に入ったのは
見えるところに痣ができ、身動きが取れない様に縄で縛られ、車に放り込まれていた力二。
「力二!!!!!!」
「おー。お目当てがきたじゃねえか」
「お目当て……?」
「そうだよ。お前を待ってやってたんだよ。」
そう。
奴らは大人相手に抵抗する術を持つ私を、そのまま呼び出して捉えるのはリスクが高いと思い、力二を餌に私が抵抗できない状況を作った。
いつもなら、こいつらの思った通りに動くのはありえないぐらい吐き気がするが、今はそんなことどうでもよかった。
「何でもしますお願いします力二を離してくださいお願いします」
「おーおー。綺麗なお顔が地べたと仲良しじゃねぇか」
私が土下座をする姿を見て、くすくす笑うあいつら。
みっともない。みすぼらしい。
どう言われたって構わなかった。
力二の命が助かるなら
「…お願いします。私を殺しても構いません。どうかその子だけは」
力二が車の中から涙を浮かべて一生懸命私に訴えていたけど、今は力二の願いより力二の命が、力二の未来が最優先だった。
「ほぉ。これは美しい姉弟愛だなぁ。」
「あいつは私の生きる理由です」
「弟のために死んでもいいと?」
「構いません」
「なかなか覚悟が決まってやがるな。いいだろう。」
これから先、
勉強教えてやれなくてごめん。
公園で遊んでやれなくてごめん。
旅行連れてってやれなくてごめん。
一緒に泣いてやれなくてごめん。
笑かしてやれなくてごめん。
怒ってやれなくてごめん。
楽しんでやれなくてごめん。
一緒に生きてやれなくて、ごめんね。
力二のために死ぬのは怖くなかった。
そのはずだった。
私の人生なんてどうでもいい。
だけど、
これから過ごすはずだった力二との時間を想ったとき、ふいに死というものの恐ろしさを、無に帰すという寂しさを感じてしまった。
「…ごめんね。」
最後ぐらい笑顔で、不安にさせないように、
そう思って、涙を拭って、力二に微笑みかけた。
「最後に、あの弟に言いたいことはあるか?」
「ありません。ただ、」
「ただ?」
「あいつの目を、塞いでやってくれませんか。」
姉が死ぬ瞬間なんて見てしまったら、トラウマが残るに決まってる。
やつらにとってもそっちの方が好都合だろう。
そう思ってお願いをした。
そしてヤツの“その言葉”で気づいた。
「目だけじゃ音が記憶に残るだろ。」
「同時に耳も塞いでやるよ。」
その瞬間、私に向けられていた銃口は、反対方向、力二のいる車の方に向けられた。
ブレた照準が力二に合わされていくまでの時間は、まるで永遠だった。
好都合?私は何を勘違いしていたのか。
ヤツらの目的は“私を殺すこと”ではなく“大金を得ること”
死んだ私と生きた弟を連れていくのと
生きた私と死んだ弟を連れていくのとでは利益に大きな差が生まれる
“弟が私の生きる理由”
あの発言がまずかった
あの子を殺せば、生きる意味のなくなった私をいくらでも連れ回して売り捌ける
馬鹿だ
私が馬鹿だった
私の命で力二が助けられる
そう思って
油断してしまった。
力二
力二
照準が
待って
待ってだめ
ダメ
やめて
力二は
力二だけは
お願い
もう
私から
なにも
奪わないで
静けさを切り裂く破裂音が1発
紛れもない銃声だった。
音が聞こえた
力二を失った
前が見えない
頭をあげられない
これから私はどうすればいい
誰のために
何のために生きればいい
たった一つの
生きる理由を
失って
どうすれば
そう絶望している私の耳に入った最初の音は、聞いた事のない、そして、どこか優しい声だっ た
「発砲確認。総員、撃ってよし」
アジトでも、学校でも、もちろん家でも聞いた事のない声を聞いた私は、はっとして力二のいる車の方を見た。
だが、車の中どころか、さっきまで力二が張り付いて泣きじゃくっていた窓が、見えない。
車の窓の前に、人が1人立っていた。
「なっ?!誰だ貴様!!!!!」
大柄で、黒い服に身を包んだ、男の人。
さっき発砲された弾があたったのか、腹部から血を流している。
「あのー、発砲許可出しちゃったんでぇ。
撃たれたくなかったらそこの女の子、解放して貰っていい?」
さっきまでの緊迫した状況を全て振り払うかのような、腑抜けた声と喋り方。
「おっ、お前の指示を聞く筋合いはな」
威勢よく話していたヤツの声は、黒い服を着た大柄な彼が持つ、小さな銃から発された微かな破裂音とともにプツリと途絶え、直後にその体も地面に横たわった。
「そういうことなんで、他のヤツも大人しく 投降してくれると助かるなって感じ。です。」
彼のその声を聞いて一斉に銃を構えるヤツら。
「と、投降なんてすると思うのか?!」
威勢よく抵抗しようとしたみたいだったが、無駄だった。
「しないってこと?じゃあわかった。」
「いいよ。」
彼がその合図とも取れる言葉を発した瞬間、重なった多数の銃声とともに、ヤツらは血飛沫と共に一斉に地面に横たわった。
「遅くなっちゃってごめんね」
まっさきに駆け寄ってきて、どこか腑抜けた優しい声で私に話しかけてきたのは、あの黒い服を着た大柄な男だった。
「発砲許可を出すには相手の発砲を待つ必要があったからさ」
そう言いながら、ヤツの最初の1発目を受けた血まみれの腹部を押さえて、微笑みかけてきた。
「俺らが警告すれば別に先に撃ってもいいんだけど、あの状態で警告したら、君や、君の…弟さん?の命が危ないかもだったから。」
それまで放心状態で彼の目を見つめていた私は、その言葉を聞いてハッと我に返った。
「り、力二……!!!私の弟は!!!」
突然声を発した私を見た彼は、直後に少し安心したような顔をして、すぐにまた同じトーンで話し始めた。
「無事だよ。弾は彼には当たってないし、直後に他の隊員に救助してもらったからね。今信頼のおける病院で診てもらってると思う。」
私はそれを聞いてやっと、自分の血がめぐるのを、自分の脳が再稼働し始めたのを感じた。
良かった。力二は生きてた。
それを実感した瞬間、今の現状を冷静に整理することができた。
「安心した、って顔だね。」
「痛いとこ無い?大丈夫?」
と、さっきまでと変わらず、同じようなトーンで声をかけてくれた彼はよくみれば、ヤツの放った最初の1発がだいぶ効いているのか、顔色は悪く、腹部から血がドクドクと流れ出していた。
「そ、その怪我…」
私が余程心配そうな顔をしていたのか、彼は少し驚いた顔をして、また同じトーンで話し始めた。
「あ、これ?これはあの〜…まぁ発砲許可を貰うためのヤツやね。」
「ち、違う…大丈夫…?」
「え?あ、そゆことね。」
そう言うと、彼は思い出したかのように銃創を見直して
「大丈夫か大丈夫じゃないかで言ったら、大丈夫じゃない。へへ。」
そう言って真っ青な顔で引きつった笑みを浮かべたあと、小さな声でごめん、と言いながら、全身の力が抜けたように体制を崩した。
「えっ…?」
そのまま私の方にゆっくり倒れてきた彼は、荒い呼吸で脂汗をかきながら、苦しそうに撃たれた腹部を押さえていた。
「レダー!!!!」
近くで作業をしていた、この人の仲間らしき人が、何かを叫びながら私たちがいる方へ駆け寄ってきた。
「ごめん遅れた!!大丈夫?!いや大丈夫じゃない!!」
その人は、私の肩にもたれかかっている彼を手際よく車の後部座席に乗せたら、すぐに私に向かって
「ごめん車足りやんねん!ちょっとレダーの隣乗ったってくれる?!」
と言い放った。どうやら、あの弾を負った彼は“レダー”と言う名前らしい。
私は特に疑問を持つこともなく、言われた通りに車に乗り込んだ。
「それにしてもようやるわ。普通自分が身代わりになって弾受けて公務執行妨害の罪状つけて発砲許可出すとか思いつかんやろ。」
「え?」
「あごめん。自己紹介…は別にええか。この街では名前知られへん方が得やしな。まぁ“警官M”とでも名乗っとこかな。」
運転席に座る“警官M”の言葉で、私はやっと今までの“レダー”という男の行動の辻褄があった。
この街ではギャングと警察は密接につながっていて、警察はギャングの裏商売に口を出さない代わりに多くの賄賂を受け取っているため、直接の罪状がなければ対応することが出来ない。
だから警察の彼“レダー”は
ヤツが私か力二のどちらかに発砲しようとしたタイミングで身代わりになって弾を受けることで、被害者を出さずに正式な「公務執行妨害」という罪状をぶら下げて発砲許可を出す、という力技をやってのけたのだろう。
彼は紛れもなく力二の、いや、私と力二2人の命の恩人だった。
「てか愚痴聞いてやぁ!この人、『ヘリパトロール行ってくる』って言うて行ったかと思ったら、急に番地指定して招集かけるんやで?人使い荒くない?!」
「聞こえてんぞ」
「まずっ」
どこか安堵したような警官Mの声と、腹部を押えながら小さな声で相槌をうつレダー。どうやら軽く返事ができるぐらいには意識が戻っているみたいだった。
「ヘリで?」
「そうそう!あいつめちゃくちゃヘリの操縦上手くて、しかもめっちゃ目いいねん!な!」
「いやそんなことは…まぁある」
「今日も招集かけられた時にギャングの人数と人質の人数…あぁ君らの事ね、をめちゃくちゃ正確に教えてくれてん。な!」
「まぁね…」
『なんでそんなに見えてんの…?』って隊員みんな気味悪がってたもん」
「え、そうなの……?」
上司?である“レダー”がこんなに苦しそうなのにそんな軽口叩いてていいのか、と考えていたけど、あとから教えてもらったところ、彼が気を失わないように相槌を打たせるための会話だったそう。
「でも…」
今までの会話を聞いていて、やっぱりどうにも腑に落ちない点があった。
「『なんでこの街の警察がわざわざ一般人を助けるために自ら犠牲になったか』って?」
「う、うん」
警官Bは、テンションは高いが以外に洞察力があるようで、私の疑問を一瞬で見抜いた。
「まぁそりゃあ強いて言うなら…“レダーが根っからの警察やから”やろうな」
その事件の3日後。
私はある程度の事情聴取を受けた。
過去にヤツらの犯罪行為を手伝っていたことや、人を殺した経験があることも洗いざらい吐く他なかったが、同じく私の境遇や、ヤツらにどのような扱いを受けていたかも話さざるを得なかったため、事情聴取を担当していた“警官M”が「情状酌量の余地あるやろこれ」と言って、「これからは犯罪行為に加担しないこと」を条件に釈放してもらった。
普通の警察では認められない行為だろうけど、
何より、この街の警察は同じような手口でギャングなども見逃してきたので、そんなに厳しく見られないんだろう。
治療を受けて、その後警察で保護されていた力二は、迎えに来た私を見てしばらく離れなかった。
「死なないで」
「一緒にいて」
「置いてかないで」
力二が静かに私に感情をぶつける度、抱き締め返す力が強くなる。
もう二度と手放さない。二度とこの子と離れない。そう思った。
次に向かったのは病院だった。
事情聴取が終わって署から開放された時、警官Mに「あいつに会いたい?」と聞かれた。
お礼を言いたかったし、私のせいで怪我を負ってしまったことにも謝罪したかった。
だから「会いたい」 そう答えた。
Mは
「まぁそうやんなぁ〜!でもレダーが“病院にいる”なんて、一応機密情報やから言われへんし〜、第一受付の時に必要なレダーの本名も教えられへんからなぁ〜まぁがんばって探すんやな!」
とクネクネしながら話したあと、かかってきた電話に応答し、わざとらしく
「あ、“レダー・ヨージロー”さんですかぁ??」
と大きな声で言いながら去っていった。
普通にただの高校生にペラペラ喋りすぎで少し不安になったが、お気遣いを無駄にはしないので、力二も連れて言われた通りに来た。
だけど、受付で聞いたとおりに名前を伝えたら
「レダー・ヨージローさんは先程緊急だと言って退院されました」
そう返された。
なんとなく会えない気はしていたが、まさかあの大怪我で3日で退院するとは思っていなかった。
「そうなんですね」
そう返す私に、すかさず受付がまた口を開く
「ですが、おそらくあなた宛に封書を預かっています。」
おそらく、という言葉に引っかかったが、その疑問は封書を受け取って直ぐに解決した
“10歳ちょいぐらいの男の子を連れた、黒髪ショートカットの高校生の女の子が俺の名前訪ねてきたら渡して”
そう書いてある付箋がつけられてあった
そういえば自分の名前も弟の名前もしっかり伝えてなかったな、と、抽象的な特徴だけ書かれてある付箋を見て少し笑みがこぼれた。
その封書には
2000万円、と書かれた小切手が入ってあった。
私がバイトをしなくても、ゆうに3年は暮らせるお金。驚いて目を見開いたが、受付のお姉さんは「いつもそうなんです」と言わんばかりの頷き方だった。
こんな大金を貰うのは気が引けたが、力二を養うためのお金を合法のアルバイトだけで稼ぐとなると、宝くじを当てない限りはどんだけ頑張っても無理だ、と思っていたところだったので、受けられるほどこしは甘んじて受け入れることにした。
それにしてもこんな大金をポンポン出せる財力を持ってるって何事……?とは思った。
そして受付のお姉さんに伝言をお願いしようとしたとき、 何も入っていない封筒の中から微かに音がした。
小切手に気を取られて見落としていたものがあったのかな、と思い中を覗くと、小さなメモが入っていた。そこには綺麗な字で、こう書かれてあった。
「今までよく頑張ったね。これからは自分らしく生きてね。」
両親を亡くしてから今まで、ずっと張りつめて生きてきた私にとって、その言葉はあまりに重く、あまりに優しかった。
抑えようとしても溢れてくる涙がその証拠だった。
静かに涙する私を横目に、黒い服を着た警官が走って受付に来た
「なぁレダーどこいったか知らん?!」
この有り余る元気と独特の訛り。紛れもなくMだった。
受付と大声でやり取りをするMを見て、少し落ち着いた私は、Mに声をかけてみた。
「あ!君!レダー会えんかったよな?ごめんな〜!多分あいつ事件の無線聞いてすっ飛んで行きよった」
それを聞いて私は、何故か少し嬉しくなった。
きっと彼にとって私は、救ってきた数多の民間人の1人に過ぎないのだろう。
それでも、彼に救われた私のような人は、みんな彼のことを忘れないまま、彼に守ってもらった色んな未来を歩んでいる。
「わかるで。おれもあいつに惚れた1人やから。」
「は?!惚れたってなんの話?!」
「いや違う違う!人としてやん人として。 」
そう言って彼は話を続けた。
「この街の警察なんか、まぁ俺が言うのもアレやけど、みんな腐っとるやん?だから真面目なやつほど損する組織ではあんねん。
でも、俺みたいな正義感を捨てきれんやつは、組織の中で不当な扱いとかを受けてるところをレダーに救われて、そんままレダーに惚れ込んで、まんまと長いことこき使われてんの。まじで酷い話やで。まぁ給料はそこそこええし、部下は自分の命に変えてでも守ってくれるからなんも言われへんけどな。まぁ俺らとしてはお前の命も勘定に入れろや!って言いたいところやねんけど。」
嫌味を言うMの顔は、まるで惚気話をしているかのように満足気だった。
「聞いてないけど」
「まぁ、要はあれや。」
そう言うとMは、体をこっちに向き直して、キメ顔で言った。
「俺らはいつでも、ロスヨントス警察署で待ってんで!」
どこか鼻につく言い方と、心の底から楽しいと思っている人にしかできない笑顔。
そのMの話は、私が警察を目指すには、レダーの部下になることを夢見るには、十分な理由になった。
この世界なんかクソ喰らえだ。
その気持ちは変わらない。
この街は腐っている。民間人もギャングも警察も、自分の利益のために手段を選ばないクズの集まり。
だけど
「他者に期待をしたって無駄。自分を守れるのは自分だけ。頼れるものなんて何一つない。」
その考えは、改める必要があったみたいだ。
なぜなら私は彼に
“レダー・ヨージロー”に会ってしまったから。
3年後
「今日から世話んなります成瀬夕コでーす。」
コメント
2件
とても良かったです…!!! 書き方が上手すぎて想像できました!
ワ………️️✩.*˚すごいっ!!