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「死にたくない」
本心だ。こんなにも苦しいのに、早く楽になりたいと願わずにはいられないのに、私はまだ、生を欲している。
社会不適合者の血判を押されて久しいが、未だにニート生活を謳歌している私は、扇風機の前で実家から送られてきたスイカを贅沢に頬張っているところだ。生活の宛が実家からの仕送りの品々と、日雇いで稼いだ小遣いくらいというギリギリの状態だというのに、のらりくらりと定職に就かず自堕落に暮らしている。娯楽の類は何も無い。強いて言うなら大昔に買った分厚い小説が一冊と、唯一の趣味だった一眼レフカメラがあるくらいだ。一体何をして一日を過ごしてきたのかと問いたくなるだろう?恥ずかしいことに、実は私もよく分かっていないのだ。一日中空を眺めていたこともあったし、公園のブランコに揺られながら自分の世界に浸り続けたこともあった。皆も是非やってみてくれ。恐ろしく退屈だよ。退屈なら自分からアクションを起こせばいいのだが、私にはワンアクションを起こすだけの気持ちの震えも、この世の中に対する興味も失せてしまっている。まるで主を失ったパレットのようだ。ただそこに存在し、何も言わず佇んでいる。存在意義を証明できないから誰とも関わろうとしない。自己肯定できずにいるから家に留まり真っ暗な個室で眠っている。私という人間は、日々の温かな日常から脱却した、いわゆる落伍者なのだ。
改めて言われなくても自覚しているよ。ああ、ちゃんと置かれている状況とステータスは理解しているつもりだ。人より劣っている。そうだろう?だがね、こんな私にも一つ、他人には出来ないことが出来るのだよ。私は、『無生物と会話ができる』のだ。例えば、ここにある扇風機は、私を見て呆れ顔を浮かべながらも私を励ます言葉をかけてくれている。私の尻の下の彼、畳は私の足から放たれる悪臭が気持ち悪いと怒り続けている。このスイカだって、私に身を削られながら隣の宅の犬が血統書付きのゴールデンレトリバーだなどと世間話をしているのだ。頭がおかしいと思うだろうか。私は至って真面目だ。妄想に取り憑かれているわけでも、ましてや嘘をついているわけでもない。一種の病気か、脳の異常か、いずれにせよこの特技について分かっていることは何もないのだが、『少しだけ生活が愉快になっただけだろう』と思い込んでいた当時の私は、数年後、死を選択しなければならないほど追い詰められることになったのだ。