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※Attention
こちらの作品はirxsのnmmn作品となっております
上記単語に見覚えのない方、意味を知らない方は
ブラウザバックをお願いいたします
ご本人様とは全く関係ありません
初めまして、さくらあんと申します。
初の合作をさせていただきました!
それもねこもみじさまと……。緊張しております。
ちなみに、今回色々とやらかしてます。
投稿までの時間だったり、内容だったり、
文字の量だったり。本当にごめんなさい。
こちらは前編となっておりますので、
後半は、
ねこもみじさまの投稿をお楽しみください✨
黄金比
【バランスと調和のとれた美の象徴】
それはきっと人間も同じ
甘さや苦さ
過去や未来
願いや祈り
そのすべてを注ぎ込んで
ジントニックたちへ贈る
最高のカクテルを
完璧なジントニックの作り方
「あ、いふくん。いらっしゃっい」
仕事お疲れ様、と
ふわりと破顔させて言う彼は、ないくん。
俺の知り合いがやっている、
行きつけの店のバーテンダーの1人だ。
……言うても、この店に立ってるんは、
俺の知り合いであるあにきと、
ないくんの2人しかおらんけどな。
カウンター席に腰を下ろすと、
ないくんが、いつもの調子で聞いてきた。
「いふくん、いつものでいい?」
「ん、カルーアミルクお願いな」
「りょーかい。
あにき〜、カルーアミルクひとつ〜」
少し大きめの声でそう言って、
ないくんはあにきの元へ駆け寄っていく。
ないくんが
カクテルを作っているところを
少なからず、俺が来店している時に
見たことがない。
注文を取るんも、
グラスを運ぶんも、
客に笑いかけるんも、
ないくんがやっていた。
せやけど、
シェイカーを振るのは、いつもあにきで。
気になるたびに聞いている。
どうして作らへんのか、と。
しかし、その答えは毎回同じで、
「練習中だから」という、
少し曖昧な言葉で返される。
カクテルは、
ほんのわずかな違いかもしれないが、
作る人が変われば、味も変わる。
やから、
俺は、ないくんの作るカクテルが
いつか飲めたらええな、なんて思いながら、
この店に足を運んでいる。
「ねぇ、ないくん。
なんか甘すぎないやつない?」
「甘すぎないカクテルってこと?」
少しだけ首を傾げて、
ないくんはカウンター越しに俺を見る。
「たまには、いつもと違うやつ飲みたなってな。
どうせやったら、
甘くないやつ飲みたいし」
ないくんは一瞬、
カウンターの奥に並んだボトルたちへ
視線を移した。
「んー……それなら、ジントニック、とか……?」
聞き慣れない名前に、思わず眉を上げた。
「ジントニック?」
「うん。
確か甘くなくて、
さっぱりしてるやつだったと思う」
少し自信なさげに言うないくんに、
俺はグラスを置いて笑った。
「へぇ。
そんな酒あるんやな。
ほな、それお願いしよかな」
「……ほんと?」
「せや。
いつもと違うやつ飲みたい言うたん、俺やし」
そう言うと、
ないくんは、ホッとしたように息をついた。
「じゃ、あにき〜。
ジントニック、ひとつ……」
いつものように声をかけてから、
ないくんはあにきの方へ駆け寄る。
けれど。
あにきは、ちょうど別の客の前で、
シェイカーを振っているところやった。
氷の音が、
店の中に心地よく響く。
ちらりとこちらを見たあにきは、
ないくんの口の動きだけを読み取って、
「……あぁ、ジントニックな」
そう言ってから、
視線を外さずに続けた。
「それ、今日はないこが作ってみんか?」
一瞬、ないくんの動きが止まった。
「え……?」
「ジントニックなら、
前練習したときできとったやろ」
「や、だとしてもさ……」
ないくんは視線を泳がせて、
カウンターの向こう側、
俺の方をちらりと見る。
それを見て、
あにきは軽く息を吐いた。
「まろなら失敗しても大丈夫やって」
そう言ってから、
あにきは、俺と目線を合わせる。
「ずっとないこのカクテル飲むの
楽しみにしとったらしいし」
な?
その視線に、
俺は少しだけ驚きながらも、
すぐに理解して、
ぶんぶんと、
大きく首を縦に振った。
ないくんはしばらく立ち尽くした後、
「……わかった」
小さく、けれどはっきりとそう言って、
一度だけ、深く息を吸った。
それから、
カウンターの中へと足を踏み入れる。
グラスを取り、
氷を入れる音が、少しだけ大きく響いた。
カラン、コロン。
その音に、
俺の方が妙に緊張してしまう。
ないくんはボトルを手に取って、
ラベルを確認するみたいに、
一瞬だけ目を落とした。
ジン。
次に、トニックウォーター。
分量を量る手が、
わずかに震えている。
それでも、
手を止めることはなかった。
最後に、
ライムを軽く搾って、
そっと落とした。
ないくんは、
完成したグラスをじっと見つめてから、
「……できました」
そう言って、
少し緊張した面持ちのまま、
俺の前に差し出す。
「お客さんには、初めてだすから……
もし、美味しくなかったら……」
心配そうに俺を見つめるないくんに
くすりと笑って、グラスを取った。
そのまま一口飲むと、
炭酸の刺激が舌を弾いて、
遅れて、じんわりとした苦みが広がった。
「……あ」
思わず、声が漏れる。
甘さはほとんどない。
せやけど、きつすぎもしない。
喉を通ったあとに、
すっと、涼しい余韻だけが残る。
「……これ」
グラスを持ったまま、
俺はもう一度、ないくんを見る。
「めっちゃ、ええやん」
そう言った瞬間、
ないくんの肩から、
目に見えるほど力が抜けた。
「……ほ、ほんと?」
「ほんまほんま。
ちょっと甘くて、苦すぎへんし」
そう言って、
もう一口、ゆっくりグラスを傾ける。
炭酸が弾けて、
遅れて残る、ほのかな甘さ。
「なんやろな、
大人の味って感じするわ」
そう言うと、
ないくんは少し傷ついたみたいに、
視線を逸らして笑った。
「……そう言ってくれて、ありがと」
「正直な」
「ん?」
「ずっと飲みたかったんよ。
ないくんのカクテル」
その言葉に、
ないくんは一瞬、言葉を失って、
それから、ふんわりと困ったように、
でも嬉しそうに笑った。
「……次は、
もっと上手に作れるようにするね」
「楽しみにしとる」
グラスの中で、
氷が、からりと音を立てる。
この時の俺は、
まだ気づいていなかった。
本来のジントニックというカクテルが、
〝甘くない〟ものだということを。
けれど、
もしかしたら、
もうこの時から、
心のどこかで勘づいていたのかもしれない。
なぜ、
ないくんがずっと
『練習中』と答え続けていたのかを。
そして、それに気づくのは、
1週間後。
1本の電話が入ってくるときだった。
「もしもし、まろ?
……ゴホッ、ゴホッ」
「あ、あにき?
大丈夫か?」
土曜日の朝。
まだ頭が完全に起ききらん時間に、
あにきから電話がかかってきた。
声は掠れていて、
咳も、隠そうとして隠しきれていない。
話を聞く限り、
どうやら風邪を引いたらしい。
それも、なかなか重いやつ。
「熱出てもうてな……」
「そらあかんやろ。
ちゃんと寝とき」
そう言うと、
電話の向こうで、
「あんなぁ……」と、
前置きをする声が聞こえた。
「まろ。
ないこの様子、
ちょっと見に行ってほしぃんよ」
「……ないくんの?」
名前を聞いた瞬間、
あの夜のジントニックが、
ふっと脳裏をよぎる。
「今日な、ゴホッ……
本当なら、練習日やったんよ。
せやけど、俺この調子やからな。
店にも行かれへん」
少し間を置いて、
あにきは、続けた。
「まろやったら、
この前、ないこのカクテル飲んどったやろ?」
「そやね」
「やからさ。
代わりに行ってほしいんよね」
電話越しの声は弱々しいのに、
その頼みだけは、妙に真剣で。
「様子見るだけでええから。
無理にとは言わん。
ただ……」
そこまで言って、
あにきは一度、息を整える。
「……一人には、
させたないんよ」
その言葉が、
胸の奥に、静かに落ちた。
「分かった」
そう答えるより早く、
もう俺の中では、
行くつもりになっとった。
まぁ、その電話が、
ないくんの〝練習中〟の意味を
はっきりと突きつけることになるなんて、
思いもしとらんかったけどな。
普段来るときとは違って、
明るい日差し。
バーの扉の色も、
こんな色やったんや、と
改めて認識した。
時間帯が変わるだけでも、
日頃から来ている場所なのに、
別の場所に思えてきて。
「……失礼します」
そう声に出してから、
扉を押す。
からん、と
聞き慣れたベルの音が鳴ったけど、
いつも返ってくる、
『いらっしゃい』という言葉はない。
不思議に思って視線を動かすと、
ないくんが、そこにいた。
エプロンをつけたまま、
カウンターに肘をついて、
何かを考え込むように、
グラスを見つめていた。
「……ないくん?」
声をかけると、
びくっと肩が跳ねて、
ゆっくり振り返る。
「い、いふくん……?」
目を丸くしたその表情は、
まるで
どうしてここに?
って、聞いてるみたいやった。
「あにきが熱出したらしいんよ。
やから、代わりに俺が」
そう言うと、
ないくんは一瞬、安心したように笑って、
それから、
どこか困ったみたいな顔をした。
「そっか……」
小さく息を吐いてから、
ないくんは続ける。
「いふくんには申し訳ないけど……
俺、ほんとに何もできなくて」
その言い方が、
あまりにも自然で、
まるで前から決まっていた台詞みたいで。
「だからさ、
見ててくれるだけで助かる」
そう告げられて、
胸の奥に、
小さな違和感が引っかかった。
「……ないくん、
何もできんわけやないやろ」
そう言いながら、
あの夜のグラスを思い出す。
「この間のやつも、
普通に美味かったで?」
励ますつもりで言った言葉やのに、
ないくんは、
嬉しそうにするどころか、
ほんの少しだけ、
苦しそうな顔をした。
そのまま、
視線を落として、
ゆっくりと口を開いた。
「……ジントニックってね、
本当は、甘くないんだよ」
その一言に、
言葉が、喉の奥で止まった。
だって俺は、あの時
「いふくん、
『ちょっと甘くて』って言ってたでしょ」
淡々とした口調やのに、
その声は、どこか震えていて。
「要するにさ……
俺、失敗しちゃってたんだよね」
胸の奥が、
ぎゅっと縮む。
あの感想は、
嘘やなかった。
美味しいと思ったのも、
本当やった。
けど
感想をそのまま伝えてしまったことが、
この人にとっては、
〝答え〟になってしまったんやと、
その時になって、やっと気づいた。
俺は、
褒めたつもりやった。
でも、ないくんは、
失敗を、
はっきり突きつけられた気になっていたんや。
「……せやったんやね」
しばらく、言葉を探してから、
俺はそう呟いた。
「せやけどな」
「……?」
「失敗やとしても、
俺は美味しいって思ったで。
ないくんのカクテル」
ないくんは驚いたように顔を上げて、
それから、少し困ったみたいに眉を下げた。
「……それが、
一番困るんだよ」
そう言って、
言い訳みたいに笑う。
「俺、ちゃんとしたカクテルを
あにきみたいに
作れるようになりたいだけなのにさ」
その言葉に、
さっきまでの弱さとは違う、
真っ直ぐな悔しさが滲んでいた。
「……ほな」
俺は、暗い雰囲気を打ち消すように、
カウンターを軽く指で叩く。
「練習しよや」
「え?」
ないくんが、
ぱちりと目を瞬かせた。
「今日、あにきおらん日やろ。
なら、戻ってきたとき、
びっくりさせたらええやん」
軽い調子で続ける。
「たった一日かもしれんけど、
一日も時間あるんやで。
少しぐらい、
成長するやろ」
そう言うと、
ないくんは一瞬きょとんとして、
それから、恐る恐る、
小さく頷いた。
「……じゃあ」
覚悟を決めたみたいに、
ないくんはカウンターの下から
ボトルを取り出す。
「このボトル使って……」
そう言って、
持ち上げた、その瞬間。
「うわっ」
何もないはずのところで、
足がもつれて、
前によろけた。
「ちょ、危なっ」
「ご、ごめん!!」
反射で俺が手を伸ばして、
ボトルを受け止めた。
カウンターの上に置いた瞬間、
ガラスがこんっと鳴って、
その音がやけに大きく響いた。
「……セーフやな」
「うぅ……ありがとう……」
ないくんは顔を真っ赤にして、
しゅん、と肩を落とす。
「……俺、ほんとに向いてないのかな」
「向いてないやつは、
練習しようって言われた瞬間に
頷かへんやろ」
そう言ってやると、
ないくんは一瞬だけ目を丸くして、
それから、口元を引き結んだ。
「……じゃあ、やる」
小さく、でも強く言う。
「お、ええやん」
俺は頷いて、
カウンターに肘をついた。
「ほな先生役、俺な」
「え、いふくんカクテル作れるの?」
「作れへん」
「作れないの!?」
ツッコミが早すぎて、
俺は笑ってもうた。
「せやから、
先生役っつっても、
味見係な」
「……ずるい」
「ずるくない。
それが一番大事やろ」
ないくんはむっとした顔をしつつ、
メジャーカップを手に取った。
「じゃあ、いふ先生。
よろしくお願いします」
「あー……先生はやめて。
いふでもなくて、
まろって呼んでや」
「まろ……?」
呼び慣れへん名前を
確かめるみたいに、
ないくんが小さく繰り返す。
「おん。
俺も、ないこって呼ぶから」
そう言った瞬間、
ないくん……いや、ないこは
ほんの少しだけ目を見開いて。
それから、
こくりと頷いた。
「……うん。まろ」
「よし」
たったそれだけのやり取りやのに、
なんや距離が一歩縮まった気がして、
俺は思わず頬を緩めた。
「最初は何作る?」
「んー……とね、カシスオレンジ」
「お、ええやん。簡単やし初心者向け」
そう言ったのに、
ないこはむっとした顔で睨んできた。
「初心者向けって言い方やめて」
「すまんすまん。
ないこが失敗しにくいって意味や」
「……それも微妙」
拗ねたまま、
ないこはさっき落としかけた赤いボトルを傾け、
メジャーカップを構え直す。
「まずはカシス……」
「せやな。目盛りちゃんと見てな」
とぽ、とぽ。
最初は完璧やった。
……が。
「……あ」
手元がほんの少し滑って、
とぽ、とぽ、とぽ、とぽ。
「おい、止まってへんぞ」
「止まらない!!」
ないこが慌ててボトルを戻す頃には、
グラスの底に赤が濃く溜まっていた。
「……やばい?」
「やばいな」
「でも、オレンジ入れたら薄まるよね!?」
希望に満ちた目で、
オレンジジュースを持ち上げるないこ。
「一旦落ち着き?」
「たぶん、大丈夫!」
とくとくとく……
ジュースを注いで、
マドラーで混ぜる。
見た目は完璧。
色も綺麗。
香りも甘い。
ないこは胸を張って、
俺にグラスを差し出した。
「できた!」
「……飲むで?」
一口。
「……っ」
甘い。
甘い、甘い、甘い。
口の中が、
カシスの濃厚さで埋まる。
俺は咳き込みそうになりながら、
なんとか笑いを堪えた。
「……どう?」
「……うん」
「おいしい?」
「おいしい……ん、やけど……」
ないこが身を乗り出す。
「けど?」
「……甘すぎる!!」
言った瞬間、
ないこの顔が固まった。
「えっ」
「いや、でもな?
味はちゃんとカシスオレンジやで」
「……ほんと?」
「ほんま。
ただ、これは……」
俺はグラスを見つめて、
言葉を選ぶ。
「……カシス強めオレンジや」
「それ、別の飲み物じゃん……」
ないこが肩を落とす。
「……俺、また失敗……」
「またって言うな。
これは事故。事故や」
俺は笑って、
軽くカウンターを叩いた。
「次は、カシス控えめで作ろ。
今のは俺が飲む」
「……飲むの?」
「飲む。
責任持って飲む。先生やしな」
ないこが目を丸くして、
それから、少しだけ笑った。
「……まろって、変なの」
「今さら気づいたんか」
その笑いが、
店の静けさを少しだけ温めた。
「……じゃあ、もう一回」
「お、やる気出たやん」
「次は、ちゃんと甘くしない」
ないこはメジャーカップを握り直し、
目盛りを睨むようにして
ボトルを傾けた。
さっきよりずっと真剣に。
その横顔は、
さっきよりちょっとだけ、
バーテンダーっぽかった。
その後、
ハイボールでは泡を吹き出させて
カウンターをびちょびちょにし、
ファジーネーブルでは
ピーチリキュールを入れ過ぎて
もはや桃の香水。
モスコミュールでは
ライムを絞り過ぎて
酸っぱさが喉に刺さった。
今まで「練習中」って言って、
カクテルを作ってこなかった理由が
よく分かる。
これ、お客さんがおる時にやってたら、
軽くパニック起こすやつや。
なんなら本出せるレベル。
『初心者向け!カクテルの失敗しない作り方!』
って名前で。
……ないこは、
失敗例のページに載せてもろて。
そして、
今は、一旦休憩中。
さすがに、
あんな事件を立て続けに起こされたら、
休憩も必要や。
というか、
あにきが
ないこを1人にさせたくなかった理由って
絶対これやろ……。
「ないこ〜?
このあとどうする?」
カウンターの向こうで、
グラスを丁寧に拭いているないこに声をかける。
さっきまでのドタバタが嘘みたいに、
店の中は静かやった。
ないこは手を止めずに、
少しだけ視線を上げて答える。
「今日は帰ろっかな。
もうすぐしたら開店時間だし」
一拍置いて、
ぽつりと続けた。
「間違ってお客さん入ってきちゃったら、
よくないから」
そう言われて、俺は椅子にもたれた。
正直、ちょっと寂しい。
せっかく今日は、
ないことちゃんと話せる気がしてたのに。
引き止める言葉も、
引き止める理由も、
俺は上手く見つけられへんくて。
結局、
黙って頷くしかなかった。
「ごめんね。いろいろ迷惑かけちゃった」
「全然、迷惑ちゃうよ。
むしろ、楽しかったで」
店の外に出て、別れる間際。
ないこがそんなことを言ってくるから、
俺は笑って返す。
「初めてないこと、こんなふうに過ごせたしな」
そう言った瞬間、
ないこはふっと表情を落として、
視線を地面に逃がした。
店の看板が、夕方の風にかすかに揺れる。
扉の向こうからは、
まだ誰もいない店の静けさが滲んでくる。
「……ないこ?」
「……あのさ」
少し迷うみたいに言葉を切って、
ないこは小さく息を吸う。
「ひとつ、わがまま言っていい?」
「どしたん」
ゆっくり顔を上げて、
ないこは俺をまっすぐ見つめてきた。
その真剣さに、
不意に胸が鳴る。
「もし、よかったらなんだけど……。
また、練習……付き合ってくれない?」
その言葉が落ちた瞬間、
空気が少しだけ変わった気がした。
「……まろにしか、頼めなくて」
その一言が、
胸の奥にすとん、と落ちる。
……なんやろ。
ただ頼られただけやのに、
妙に嬉しい。
嬉しい、っていうか。
くすぐったい、っていうか。
そんなふうに思ってる自分が、
ちょっとだけ落ち着かん。
「……まろ?」
ないこに呼ばれて、はっとする。
「あ、ええよ」
返事はすぐ出たのに、
なんでか声が少しだけ掠れた。
「俺でよければ。
付き合うで、練習」
ないこはほっとしたみたいに笑って、
小さく頷いた。
「……ありがと」
その笑顔を見た瞬間、
胸がきゅっとした。
……いや、違う。
きゅっとした、ってなんや。
きゅっとしたって。
たぶんこれは、
〝役に立てた〟っていうやつやろ。
きっと、そうや。
「……次はさ」
ないこが少しだけ身を乗り出して、
照れくさそうに言う。
「1個でも多く失敗せずにカクテル、作る」
「お、おん。そうやな。楽しみにしとる」
俺は頷いて、
わざと軽い口調にした。
変に真面目な返事をしたら、
なんかバレそうな気がして。
……いや、何がバレるんや。
別に隠しとるようなこと、ないやろ。
「じゃあね、まろ」
「ん、またな」
「また、来てね」
たったそれだけの言葉で、
胸の奥がまた変な音を立てた。
俺は慌てて、
いつもの調子で笑う。
「当たり前やろ。
俺、常連やで?」
ないこはくすっと笑って、
「そうだった」って言った。
……ほんまに。
なんやねん、この空気。
落ち着かん。
でも、悪くはない。
「……気をつけて帰ってね」
「ん、ないこもな」
小さく手を振って、
ないこと別れた。
背中を向けて歩き出したはずやのに、
二、三歩進んだところで、
俺は無意識に振り返ってしまう。
ないこはまだ店の前に立っていて、
扉の鍵に手をかけながら、
ちらっとこっちを見ていた。
目が合って、
また、胸が変な音を立てる。
夕方の冷たい風が、
優しく頬を撫でた。
理由は分からんけど。
たぶん俺は、この店に来るのが、
前よりもっと好きになった。
コメント
2件
前編ありがとうございます……!!✨✨ 前編だけでもう十分すぎるくらいおなかいっぱいです…՞ ̥_ ̫ _ ̥՞ この神作品からどう繋げよう…大ピンチっっ> ̫< ジントニックが甘い=失敗した の構想が天才すぎる…さーちゃん書くのほんとに上手すぎねッッ??😭😭💕 どうにかして繋げます…(遅筆)待っててね!!🫶🏻︎💕︎︎