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マリアンヌの一言に、私は驚いた。

クラッセル子爵は真摯なまなざしでマリアンヌを見つめている。

和気あいあいだった会話が一瞬にして凍り付いた。


「マリアンヌ……、今、なんて言った?」

「ですから、トルメン大学校を辞めたいと言ったわ」


クラッセル子爵はマリアンヌにもう一度聞き返す。

マリアンヌはすぐに答えた。彼女が冗談で言ったのではないことが分かった。


「……他の音楽科へ編入するのか?」


トルメン大学校での生活が肌に合わなかったのかもしれない。他の学校の音楽科へ転入する方法だってある。

マリアンヌは首を横に振る。


「いいえ、私は……、お父様が選んだ殿方の元へ嫁ごうと思います」

「な、何を言ってるんだお前は!!」

「私はトルメン大学校を……、ピアノを辞めたいのです」

「お姉さま、なんてことを……」

「ロザリー、もう決めた事なの」


マリアンヌは他の学校の音楽科へ転入することさえ拒んだ。

メヘロディ王国では、どこかしらの音楽科を卒業しないと、音楽関連の仕事に就けない。楽器を演奏する技術を持っていたとしても、卒業証書がないと演奏依頼は来ず、生徒の指導もできない。

現在クラッセル家は高いヴァイオリン演奏技術を貴族に披露し、幾人の生徒の指導をして生計を立てている。他に、少ない領地から得られる食料や工芸品もあるが、それは微々たる収入である。

そのため、クラッセル家を存続させるには私かマリアンヌが音楽科を卒業しなければいけない。

私はその役割はマリアンヌがするのだと思い、彼女が苦手だろう領地経営のノウハウを学ぶために今の学校に入学した。

まさか、ピアノの演奏が大好きなマリアンヌが、自ら音楽の道を断ち、見合いをすると言い出すなんて。

私は驚きのあまり、二人の会話に割り込んでしまった。

マリアンヌは自身の思いを私に語る。


「だから、お父様のこと、お願いね」


マリアンヌの意思は固い。

私と再会したとき、身体が震えていたのはピアノを辞めることをクラッセル子爵に伝えることに怯えていたからだろうか。

マリアンヌの決めた事であれば、私からは何も言えない。彼女が他の家に嫁ぐのであれば、私がえがいていた人生設計は大きく変わる。


(お義父さまは今の話を聞いて、どう思ったのだろう……)


マリアンヌの決意を聞いたクラッセル子爵は妙に落ち着いている。

このままマリアンヌの望み通り、見合い相手を探すのだろうか。


「辞める理由を聞こうか」


そうだ。どうしてマリアンヌは学校を辞め、音楽の道を断つことを決めたのか、その理由を聞いていない。

クラッセル子爵の声がいつもより低く、ゆっくりとした話し方だった。彼がこういった声音で話す時は、怒っているときだ。

自分のことではないけれど、この声を聞くと私は昔、クラッセル子爵に怒られた出来事が脳裏に浮かび、体がすくみあがってしまう。

私はそわそわした気持ちを沈めるため、水を口に入れた。


「ピアノを弾く理由を失ったからです。私は音楽から離れたいのです」

「それは、トルメン大学校での成績が悪かったからかい?」

「……いいえ」


成績が悪かった?

私はクラッセル子爵の言葉に疑問を持った。

マリアンヌのピアノの腕は天才的で、同い年で彼女に敵う者はいない。

それは私のひいきではなく、トルメン大学校の入学試験結果、一位合格が物語っている。

成績が落ちたのは生活環境の変化だろうか。それともトルメン大学校でピアノを弾く理由を失った大きな出来事があったからだろうか。


「もう、ピアノを弾きたくないの!! 放っておいて!!」


マリアンヌはテーブルをバンっと強く叩き、私とクラッセル子爵の前で言い放ち、食堂から出て行った。

私はマリアンヌが出て行った食堂の扉をじっと見ていた。


「ロザリー、マリアンヌのこと、何か知っていることはあるかい?」

「いいえ。初耳です」


私は正直に答えた。

マリアンヌの件についてはクラッセル子爵も知らなかったようだ。


「あの、私はどうしたらーー」

「ロザリーはいつも通りでいい。マリアンヌの退学については長期休暇中の様子をみて僕が決める」

「……分かりました」


クラッセル子爵も動揺している。

すぐに退学手続きをするのではなく、長期休暇のマリアンヌの様子を見て判断するという結論を出した。

まだ、マリアンヌが音楽科に復学する道は残されている。


(学校を辞めたい、ピアノを辞めたいと言い出した理由……、長期休暇中に探してみよう)


私は長期休暇中にマリアンヌと共に生活し、退学したい理由を突き止めようと誓った。



拾われ令嬢の恩返し

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