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薄暗い部屋の中で、安倍晴明 はゆっくり目を開けた。
「……っ、ここ……」
見覚えのない和室。
障子は閉められ、窓にも札が貼られている。
逃走防止の結界だと気づいて、晴明は息を呑んだ。
「起きた?」
穏やかな声。
振り向けば、そこには 恵比寿夷三郎 が座っていた。
「恵比寿先生……!?」
晴明は慌てて立ち上がろうとする。
けれど、足首に絡む呪符が動きを制限して、そのまま畳へ崩れた。
「危ないよ、晴くん」
「な、なんでこんなこと……!」
夷三郎は困ったように微笑む。
「だって晴くん、すぐどこか行っちゃうから」
「そんな理由で監禁する!?」
「する」
別方向から低い声が落ちた。
部屋の隅、壁にもたれていた 佐野命 がゆっくり顔を上げる。
「佐野くんまで……」
「晴明が無防備すぎる」
「それとこれとは別でしょ!」
晴明が抗議すると、佐野は静かに近づいてきた。
逃げようとしても、結界のせいでうまく動けない。
「……っ」
「ほら、そうやってすぐ逃げる」
佐野は晴明の顎を軽く持ち上げる。
「俺たち、結構我慢してたんだけど」
「が、我慢って……」
「晴くん、誰にでも優しいからねぇ」
夷三郎も隣へ座り、晴明の髪をそっと撫でた。
その手つきは優しいのに、逃がす気は全く感じられない。
「俺たちだけ見てくれたらいいのに」
「そんなの無理です!」
「即答」
「だって佐野くんと恵比寿先生おかしいもん!」
晴明が涙目で睨むと、二人はなぜか嬉しそうに目を細めた。
しばらくして。
騒ぎ疲れた晴明は、部屋の隅で膝を抱えていた。
夷三郎はそんな晴明を見つめながら、小さく笑う。
「ねぇ晴くん」
「……なんですか」
「そろそろ“恵比寿先生”やめない?」
「え?」
「夷三郎って呼んでほしいな」
突然の言葉に、晴明は目を瞬かせた。
「い、いや急にそんな……」
「だめ?」
優しく首を傾げられる。
その顔がずるくて、晴明は視線を逸らした。
「……夷三郎、くん……」
ぽつり、と小さな声。
その瞬間、夷三郎の目がぱっと柔らかくなる。
「……うれしい」
「そ、そんな顔しないでよ……」
晴明が顔を赤くすると、今度は佐野が不満そうに眉を寄せた。
「夷三郎だけずるい」
「え?」
「晴明、俺のことも名前で呼べ」
「さ、佐野くん?」
「命」
低く言い直される。
逃げ場のない視線に、晴明は完全に押されてしまった。
「……み、命くん」
数秒、沈黙。
そのあと佐野は小さく目を伏せた。
「……反則」
「え?」
「かわいすぎ」
ぼそっと漏れた本音に、晴明は一気に真っ赤になる。
「〜〜〜っ!!」
「晴くん、顔真っ赤」
「誰のせいですか!」
わちゃわちゃと騒ぐ晴明を見ながら、夷三郎は楽しそうに笑った。
閉ざされた部屋の中。
本当なら怖いはずなのに、不思議と二人の視線はどこまでも甘かった。
そして晴明は、逃げたいのか逃げたくないのか、自分でも少しわからなくなっていた。