テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
jnside
「…ただいま」
誰もいない家に向かってそうポツリとつぶやくとやっとの思いでここまで運んできたプレゼント達を床に置く。
今日は僕の誕生日で有難いことにたくさんの人からお祝いの言葉やプレゼントを貰った。メンバーやスタッフ。それにファンの人たちからも。こんなにたくさんの人にお祝いされて愛されて僕は本当に幸せ者だ。
そのまま靴を脱ぎ捨てると、プレゼントの傍にしゃがみこみ一つ一つ丁寧に中身を開ける。自分のことを考えてプレゼントを選んでくれた皆の優しさに胸が暖かくなるも僕の心はなんだか物足りなくて、それでいて寂しかった。
ゴソゴソとポケットからスマホを取り出しひとつのトーク画面を開く。そこには一言、ジェミンからのメッセージが映っている。日付はもちろん今日だ。
『愛するジェノヤ、誕生日おめでとう。』
『本当は直接会って言いたいんだけど、忙しくて会えそうになくて…』
『本当にごめん。埋め合わせは絶対するから。』
そんな言葉と共にうさぎが涙を浮べたスタンプが並んでいる。そんな言葉に対して僕の返信は『気にしないで、祝ってくれてありがとう。』という言葉と犬がお辞儀をしているスタンプ。
会えなくてもメッセージをくれるだけで嬉しい。本当にそう思っている。でも、やはり会いたいというのが一番の本音だ。
だからと言って会いたい、だなんて言えるわけが無い。きっと優しいジェミンのことだからここで会いたいと駄々をこねれば、無理やりにでも時間を作って会いに来てくれるだろう。でもジェミンの少ししかない休息を僕は邪魔したくなかった。
なにより、僕のわがままでジェミンに無理をさせたくない。
しかしせっかくの誕生日に…だなんて思ってしまう気持ちが少なからず僕の中に居てそんな状況に自分自身が一番びっくりしている。
誕生日だなんてただ歳を重ねるだけの日。それぐらいの認識だった僕がジェミンと出会って変わった。毎年沢山甘やかしてくれて、愛をくれるジェミンのおかげで誕生日が待ち遠しくなっていた。
昔はこういったメッセージだけでも飛び跳ねるほど嬉しかったのにいつの間に強欲になっていたのか。メッセージだけじゃ満足できなくなり会いたい、触れたいと思ってしまう。しかしそんな淡い期待を抱えながら迎えた僕の誕生日は少し寂しいものになってしまった。
あんなに色々な人からお祝いしてもらったのにそう思ってしまう自分の薄情さに打ちひしがれながらも、何もやる気が起きなくてプレゼントを片付けるのもほどほどにソファへ寝転がる。
何かジェミンから連絡はないか、度々確認するもやはり何も来ていない。
我ながら女々しいな、なんて自傷気味に笑いを浮かべるとスマホをテーブルの上に置く。
「眠た…」
慌ただしい1日のせいで溜まりに溜まった疲労はいまになって突然訪れ気を抜けば瞼が落ちてしまいそうになる。そのまま脱力しきった体をもぞもぞと動かすと全てを忘れ去るように眠りについた。
………
「ん、…」
何時間眠ったのだろうか。目を開けずに体を動かすと体のあちこちが痛い。やはりベッドで寝るべきだったか。寝起きのこのだるさはやはり今になっても慣れない。やはり寝なきゃ良かったと少し後悔した。
それでもさすがに、シャワー浴びないと…と鉛のように重い体に鞭を打ち目を開けると
「、!!じぇ、みに…」
「あ、おはよう、ジェノヤ。」
会いたくて会いたくてたまらなかった人が、そこにはいた。
ずっと顔を眺めていたのだろうか、ソファのそばに座り込んでこちらを見つめているジェミン。驚きのあまりソファからずり落ちそうになった僕の体を支えながら「慌てすぎだよ」とジェミンは笑っている。
え、なんで、?今日忙しかったんじゃないの?会えないって…
「な、なんでいるの…」
「え?そりゃ…」
大きいジェミンの手が僕の頬に添えられる。すりすりと親指で頬を撫でられて少しくすぐったい。
「会いたかったから。」
ニコリと笑みを浮かべてこちらを見つめるジェミンに不覚にもきゅんとしてしまって先程の寂しさがあっという間に満たされるような気がした。
「一応連絡したんだけど。」
僕は弾かれたように動き出し携帯を手に取ると画面を確認した。するとあんなに待っていたジェミンからのメッセージ通知が画面に映し出されている。
『今仕事終わった、会いに行ってもいい?』
そんなメッセージの数分後にもうひとつのメッセージ。
『家の前着いたんだけど…合鍵使うね?』
「ほんとだ…気づかなかった…」
あんなに待ち焦がれていたジェミンからの連絡なのに寝ていて気づかないなんて。数時間前の自分の行動に深く後悔した。やはり昼寝なんてしなきゃ良かった。
「まあでも無事会えてよかった。」
「で、でも今日は忙しかったんじゃ…」
「え?あー…巻いてきた。」
指をくるくる回しながらナナに任せればそんなものちょちょいのちょいだよ、だなんて笑うジェミンにこちらも自然と笑みが浮かんで。
「なにそれ。」
「会いたかったんだから、当然だよ。」
「…ジェミニは魔法使いだね。」
「魔法使い?」
会うだけでこんなに僕のことを幸せにするジェミンはきっと僕の魔法使いだ。笑いかけられるだけで、名を呼ばれるだけで、心が弾んで自然と幸せな気持ちで満たされる。そんなこと恥ずかしくて死んでも言わないけど。でもそれぐらい僕の人生にとってジェミンの存在は大きく、とても大切な愛しい人なのだ。
「ジェノヤ。」
「、?なに?」
なんてことを考えていたからジェミンの呼び掛けにワンテンポ遅れて反応する。そんな僕の頬をジェミンがまた撫でたかと思うと優しく重なる唇。
「誕生日、おめでとう。」
「…ありがとう。」
あまりにも熱烈にこちらを見つめるものだからなんだか気恥ずかしくて目を逸らす。
「目、逸らさないで。」
顎をすくわれまたジェミンと瞳が合った。覗き込まれるようにしてこちらを見つめるジェミンの瞳は優しくてそして澄んでいる海のように深い。
「…好きだよ、ジェノ。」
再び重なる唇。もう僕は、ジェミン無しじゃ誕生日を迎えられないかもしれない、だなんて馬鹿みたいなことを考えながら口内に入ってくるジェミンの舌の動きに応える。
キスをするときの、目を細めるジェミンの視線が僕は好きだった。恥ずかしいのにその視線と目が合ってしまえば逸らすことを許されない。愛おしいという感情が溢れ出るジェミンの瞳に僕は毎度の事ながら骨抜きになってしまう。本人には絶対に言わないつもりだけど、ジェミンのことだから気づいているのかもしれない。だって毎回毎回、僕の好きなキスをしてくるのだから。
唇を離し呼吸を整えながらジェミンを見上げる。
今日はなんだか凄く甘えたい気分なのだ。
__誕生日だから、仕方ないよね?
なんて都合のいい自己解釈をしジェミンの首に腕を巻き付けるとジェミンの耳元に唇を寄せ
「今日は、…いっぱい、甘やかして…」
数秒の沈黙。自分でそんなことを言ったもののジェミンのため息が聞こえ一気に顔が熱くなる。なんてことを口走ってしまったのか。恥ずかしさと後悔が限界に達し今すぐに離れようとするがそのままいきなり抱き抱えられてしまった。足がつかなくなった感覚に焦ってしがみつくようにさらにジェミンと密着する。
恐る恐るジェミンを見上げるとジェミンは妖しく笑みを浮かべ甘ったるい声色で呟いた。
「そういう素直になっちゃうとこ、まじで好き。」