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後からやって来たセドリックさんも交えて4人でソファに座る。クレハ様にお話があるとの事だったので、彼にはクレハ様の向かい側に座って頂き、私は席を移動した。


「セディ……だいじょうぶ? 会議は終わったの」


「ええ、とりあえずは」


いつもならびしっと伸びている彼の背筋が少し丸まっていた。そんなセドリックさんの顔をルーイ先生が下から覗き込んでいる。私は温かいお茶の入ったティーカップを彼の前に置いた。


「セドリックさん、これカモミールティーです。どうぞ」


「ありがとうございます……」


お礼を言いながらも、彼はなかなかお茶に手を付けない。ハーブティーは苦手だったのかな……紅茶の方が良かったかな。いつまでも動こうとしない彼を見かねて確認しようとすると、セドリックさんが口を開いた。


「クレハ様、リズさん……本当にご無事で良かった」


「セドリックさん……」


彼は深く頭を下げた。向かい合っているクレハ様と私からつむじが見えるほどに……


「レナードとルイスから聞きました。お預かりしているお嬢様をこんな危険な目に合わせてしまうなど、何とお詫びしてよいか……」


「セドリックさん達のせいではありませんよ。私もリズも何ともありません。どうか頭を上げて下さい」


「しかし……」


「クレハ達の話を聞く限り、サークスを侵入させたのは大した使い手ではなさそうだ。それでもサークス自体はシエルレクトと同種の力を持っている。人間が対処することは難しい。それを退けたってんだから優秀過ぎるくらいだよ」


「レナードさんとルイスさん、格好良かったです。おふたり共とっても強くて……ねぇ、リズ」


「はい。あの化け物達を簡単にやっつけてましたね」


セドリックさんは下げていた頭を上げて私達を見つめる。普段は凛とした茶色の瞳が、今は酷く頼りなげな色に見えた。


「リズが淹れてくれたカモミールティー、冷めないうちにどうぞ。カモミールは疲れに良いんですよ……って私もついさっき教えて貰ったんですけどね」


クレハ様に促され、彼はカップに手を伸ばした。『頂きます』と断りを入れ、ゆっくりとカップを口元に運ぶ。喉仏が上下してお茶が飲み込まれていく様子を、私は緊張しながら見守った。


「美味しいです。リズさん、とても上手に淹れられましたね」


『うちの店に従業員として引き抜きたいくらいです』なんて言いながら、セドリックさんはぎこちなく笑った。晴れやかとは程遠いけれど、少しだけ力が抜けたような表情をした彼に一安心する。










「今回の事件の実行犯と思しき人物は、既にレオン様が見つけておられます。追跡を行った部下からの第一報によると、現在市内のとある酒場に潜伏しているようです。やはり海外からの渡航者で、詳しい身元の割り出しにはもう少し時間がかかるとの事です」


「マジか。よく見つけたなぁ」


「レオン様は店を飛び出した後からほぼ途切れることなく、周囲の気配を探り続けていたそうです。それで、リザベッド橋の近くでその男を発見したのだと……」


レオン殿下は魔法使いが持つ不思議な力を見つける事が出来ると、レナードさん達が言っていた。だからクレハ様の危機をいち早く察して駆けつけたのだ。その力の出所を特定することで、犯人を探し出すことが可能なのか。


「犯人が見つかっているのなら安心ですね。早く捕まるといいのですが……」


「それが、そう上手くいかなくてですね……」


セドリックさんは眉を寄せ苦々しく呟くと、お茶を一口啜り深く息を吐いた。まるで、内にある激しい感情を必死に抑え込んでいるかのようだった。私もクレハ様と同じで、もう犯人の居場所まで分かっているのならと安心していたのだけれど……


「先程の会議で決定した今後の対策方針ですが、主に王宮周辺の警備強化……そして外国人の入国審査厳格化です。レオン様が見つけた男は引き続き軍が監視を行い、動向を追跡します」


「えっ、今捕まえないんですか? 犯人分かっているのにどうして……」


「証拠が無い。そうだろ、セディ」


「はい。その男を今回の事件と関連付けられるのはレオン様のみなんです。私達はもちろんレオン様を信頼しています。主が持つ、その特殊な能力も……しかし、対外的にそれを証明する術が無い」


「そいつ自身が王宮に侵入したわけでも、まして目の前で魔法を使ったわけでもないからね。橋の近くにいたってだけじゃ、側から見たらただの外国人観光客だわな。それを無理やり拘束でもしようものなら、国際問題になっちゃうねぇ。前科でもあればいけるかもだけど」


レオン殿下にしか分からない根拠で、外国人を捕らえることは無理なのだそうだ。魔法の力を識別して犯人と断定できるのは殿下のみ。私たちは殿下の持つ力を目の前で見て、凄さを知っているけれど……その理屈は他国には通用しない。そもそも『魔法』という力が、普通の人間には馴染みが無さ過ぎて説明が難しい。私だってよくわかんないし……


「お茶を頂いたら、私はもう一度レオン様の元に戻ります。私も心情的にはレオン様と同じです。しかし、それが実行できない道理も理解しています。悔しいですが……」


「レオンは何て言ってんの? キレてんのが目に浮かぶんだけど」


「だったら俺だって同じことをしてやるよ。俺にやらせろ。あいつの脳天に電撃ぶち込んでやる。証拠なんて残さない。フコウナジコデシタネーってしらばっくれればいい、だそうです」


セドリックさん……今の殿下の声真似? 身振り手振りまで似せてるから笑いそうになっちゃったじゃん。真面目な話をしてるのに、私ったら不謹慎過ぎるでしょ。頬の肉を内側から噛んで笑いを堪えた。横にいるクレハ様は下唇を噛み締めていた。


「また過激な……しかし、ほっとくとやりかねんな。セディ、ちょっといい?」


隣に座っているセドリックさんの肩に腕を回し、先生は彼に顔を近付けた。


「レオンのとこに戻ったら、あいつにこう伝えてくれる?」


クレハ様と私には聞こえないくらいの小さな声でセドリックさんに耳打ちをしている。びっくりした……私達の目の前で何をするつもりなのかとハラハラした。そういえば、このふたりのデキてる疑惑どうなったんだろう。


「先生……それは」


「よろしくね、セディ」









お茶を飲み終えるとセドリックさんは退室していった。会議は終わっているが、レオン殿下はジェラール陛下と執務室でいまだお話をしている最中なのだそうだ。セドリックさんはクレハ様の様子を見る為に少しの間抜けて来ただけらしい。


「ルーイ様、さっきセドリックさんに何て言ったのですか?」


「んー……」


私も内緒話の内容が気になっていたので、クレハ様と一緒に先生の答えを待った。


「レオンが暴れそうだったからさ。それを止める為にちょっと助言をね……」


殿下が手を出すまでもない、その男には近い内に天罰が下るだろうと先生は語る。天罰って……それはどういう意味かと聞き返すと、捻りも無く文字通りそのままの意味だと言われた。


「怒っているのはレオンやセディ達だけじゃないってことだよ。約束は守らないとね!」

リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした〜

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