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いつも通り、怠惰で無駄な土日を過ごし、いつも通りの月曜日の朝。
土日はアラームをかけていないのに朝おきてしまうが、月曜はアラームに起こされるまで起きず
アラームがめちゃくちゃ憎く思えるという海の中での七不思議がある。
ハワイアンという名前で設定したものの、1ミリも「ハワイアン」感を感じられず
ロコモコの気分にもガーリックシュリンプの気分にも、レイを首にかけられる気分にもなれず
スマホの反対側を向き、鬼のような形相をした後笑顔で振り向き
「いつも起こしてくれてありがとうね」
と言ってスマホのアラームを止める。ちなみに1ミリも
「起こしてくれてありがとう」
などとは思っていない。気怠く、鉛がついているのかと思うほど重い体を起こし洗面所は向かう。
歯を磨いてシェービングクリームを塗って髭を剃る。海は髭が濃い方ではないので、毎日剃る必要はない。
ただ金曜日の夜から月曜日の朝まで出掛けることがなければ多少伸びる。なので、ほんの少し伸びた髭を剃る。
そしてシェービングクリームを洗い流してその延長で顔を洗う。そして髪を水で濡らし寝癖を直す。
ドライヤーで乾かしもせず朝ご飯準備。朝ご飯の準備と言ってもトーストを焼くだけ。
たまにハムなどを乗せたりジャムを塗ったりもするが、海にとって朝ご飯は有って無いようなもの。
というのもお酒のつまみで食べ物を食べるとき以外、食というものに拘っていないからである。
お腹に溜まってエネルギーになって“不味くなければ”なんでもいい。
トーストを焼いている間にテレビをつけてスマホをいじりながらテレビを見る。
海の所属するコーポレートマーケティング部というのは
自社の商品についてのことはもちろん、商品に限ったことではなく
自社のブランド価値を高めたり、他社と差別化を図るための工夫を提案する部署。
企画開発部やPR、宣伝部と何が違うのかと問われると難しい。
企画開発部に関してはその名の通り商品を企画し開発する。
店頭に並び、それがお客様の手に渡り、世の評価を見る。そこまでが1セット。
そしてPR、宣伝部。その企画開発部が世に送り出した商品
またはまだ世に送り出す前の商品を世間に知ってもらうため
効果的、そして魅力的なポスターやスマホ、パソコンなどで表示される宣伝バナー
ときにはウェブ上のコマーシャル、テレビのコマーシャルまで
デザイン、誰を起用するか、こと細かに決めて世に放つ。そんな仕事である。
コーポレートマーケティング部はいわばそれを促す部署といえるだろう。
一度世に送り出した商品が世間で好評だった場合
自社を代表する商品になり得るので、慎重に別の種類を開発するように企画開発部に促す。
さらにそのPR、宣伝もPR、宣伝部に促す。
なのでコーポレートマーケティング部は世間のどうこうを知る必要はあまりない。
世間のどうこう、あれこれを知る必要があるのは企画開発部、PR、宣伝部である。
なので海もニュースは見ているものの、ほぼ流し見。スマホをいじっているが、SNSも流し見。
流行ってるものは薄っすら知っているが、興味も何もない。なんなら
空「ねえねえ。お兄ちゃんの会社の商品
宣伝するのAGP(Always Game Playerの略称)とかにしてもらえないの?
どうせなら軽いゲームも作ってさ、商品買った人だけがダウンロードできるようにしてさ
AGP最近グイグイ来てるし。起用するなら今じゃない?」
と海の妹の空のほうが世間の動向を知っているほどだ。
「AGPってなに」
と呟き検索する。
「へぇ〜。ゲーム好きのみで結成されたボーイズグループねぇ〜。知らな」
と言った瞬間、トースターが鳴いたのでトーストを取りに行く。
コーヒーを入れたマグカップの上にトーストを乗せて運ぶ。
テレビを見ながらコーヒーを飲みながらトーストを食べて髪をセットしてスーツに着替えて家を出る。
「このスーツは鎧か?」
と思うほどに体が重い。しかしそれも会社に行くまでの話。会社についてしまえば
「おはー」
風天(ふうあ)がいて、悪くない会社の環境で、やる気が出る!とまではいかないが
別に即帰りたいと思うほどではない。仕事は「さあ!始まりだ!」という感じで始まることはない。
職場について荷物を置いて、パソコンを起動して
後輩や同期の友達と喋っていたり、自動販売機で飲み物を買った後などで先輩や上司から
「あーそうだ。あの話どうなってる?」
とか後輩から
「あ、そうだ。先輩、あの件ですけど」
と仕事の話になり自然と、シームレスに仕事に入る。海も
「あ、水貝井先輩、こないだの宣伝についての件なんですけど」
後輩の落合 陽子(ようこ)に仕事の話をされて
「ん?」
と回転するオフィスチェアに座ったまま
落合のほうに体を向けるようにオフィスチェアを回転させ、落合と仕事の話を始める。
「CMの件はあれなんで、一旦バナー広告?っていうんですか?あのスマホとか見てたら出てくるやつ」
「あぁ、あれな」
「あれです。あれ。あれって駅前の板チョコみたいな電子広告板?みたいなのにも流せるみたいなんですよ」
「あぁ。…板チョコっていうかモノリスだろ」
「モノリス?なんですかそれ」
と落合が首を傾げると落合の同期で親友の長尾(ながお)将子(しょうこ)が入ってくる。
「モノリスってあれよ。なんか謎の黒い一枚板。デッカい」
「それがわからんのって」
そこに風天も参戦してくる。
「都市伝説のやつじゃなかったっけ?」
「オーパーツ的なやつですよね」
「そそ」
「オーパーツってなんすか?」
「現代科学を持ってしても作れるかわからない。当時の技術じゃ作れなかったのになぜかあったっていうやつ」
「へぇ〜。そんなのあるんすね」
「おもろいよ?オーパーツ」
「そうなん?しょうちゃん都市伝説とか好きだよねぇ〜」
「好き好き」
海が話を戻す。
「で?そのモノリスがなんだって?」
「あぁ。板チョコに映せるように縦バージョンと横バージョン作ろうかって話らしくて」
「はあ。まあ、いんじゃね?」
「てかさー」
風天が入ってくる。
「あれは?真新宿の地下通路に横長の電光掲示板あんじゃん?」
「あぁあれね」
「あそこに流せないの?」
「流せるけど、期間に対しての費用がエグいから」
「あぁ〜。宣伝効果すごいもんな。あそこ」
「ゲームの宣伝とかすごい流れてますもんね。で、写真撮ってる人多いし」
「待ち合わせ場所とかで利用されるもんねぇ〜。
改札出てすぐにあるから、私「あ、今日はなにかなぁ〜」なんてちょっと楽しみだし」
「でもうちでも流したことあったよね?」
「ありましたありました。私改札出てすぐに目に入って「うわぁ〜…」って思いましたもん」
とうげぇ〜っとした顔をする長尾。
「うわぁ〜って」
風天が苦笑いで言う。
「だってまだ会社でもないのに会社のことが目に入るんですもん」
「宣伝部と企画開発部は喜んで写真撮ってたけどな」
「そりゃー自分が企画開発したんですから嬉しいでしょ。宣伝部もデザイン案とか出してたんでしょうし。
私らは「あれしたらどうですかー」とか「こうしたらどうですかぁ〜」って言うだけですもん」
「まあな。だから転部したい人とか転職したい人が多いんだろーうちの部署ー」
と風天があっけらかんと言いながらオフィスチェアで一回転する。
「転部って。高校生か」
海がツッコむ。
「懐かしー」
落合もオフィスチェアで一回転する。
「私高校時代バスケ部で、結構強かったんすよー」
「へぇ〜。興味ねー」
と風天が笑いながら言う。
「酷すぎるでしょ」
「ちなみにオレも高校時代はバスケ部ー」
と風天が言う。するとお返しとばかりに
「聞いてませーん」
と返す落合。ふざけ合っている風天と落合を他所に
「長尾。落合が言おうとしてたことの話聞いてたりする?」
「あ、はい。アニメーションとか有名人を起用した広告じゃなく
商品をメインに据えたバナー広告にするとかなんとか」
「なるほどね。ま、オレらはいいんじゃない?とか言うだけだからな」
「そうですね。あがってきたものに対して肯定するだけ。ま、否定したら嫌な顔されるだけですしね」
「な」
と仕事の話をしていた。いつも通り仕事をし、たまに雑談などもしていたが
気づけばお昼過ぎ。各々のタイミングでお昼ご飯へ行く。
お昼休憩の時間をきっちり決めて仕事の途中でもお昼ご飯に行く人もいれば
仕事が区切りのいいところまであげてからお昼に向かう人もいる。
お昼も人それぞれ。社員食堂に行く人もいれば
自分の席でカップ麺やお弁当、飲むゼリーなどを食べる人もいるし、デリバリーを頼む人もいる。
もちろん外に食べに出る人もいる。海や風天も外に食べに行くタイプ。それは
「お昼くらい社外行きたいもんな」
という理由のためである。社外で食べるというのは、お昼の休息を会社の外で取れるというメリットがある。
しかしもちろん社内で食べるのもメリットがある。第一にほとんど動かなくていいこと。
そして社員食堂で食べる場合、ある程度いい食事が社員割で食べられるということ。
さらに野菜などの栄養バランスも考えられているため
独身の一人暮らしで自炊をしない者にとっては非常にありがたいのである。
もはや食堂で働いている人は保護者のようなものである。
さらに同期で別の部署で働いている友達と時間を合わせやすい。
だからといって外に食べに出たら同期の別の部署で働いている友達と会わないかといえばそんなことはない。
会社のエレベーターでエレベーターが閉まる直前にエレベーターの扉が開いて乗り込んできた
「お。福じゃん」
「お。マジだ」
「あぁ〜。海と風天だぁ〜」
とこのように同期の別の部署の友達とばったり会うこともある。
彼の名前は浮秋(ふあき)福(ふく)。海と風天と同期入社で同い年。仲良し。
しかし福はPR、宣伝部に所属していてお昼ご飯を共にすることは頻繁にはなかった。
「福、昼?」
風天が聞く。
「そうそう。コンビニでなんか買おうかと」
「え。したっけ一緒に食おうよ」
と風天が提案する。
「お。マジ?いい?」
「そりゃーいいって!ヘンバガー(ハンバーガー)だけどいい?」
「いいいい。ヘンバガー大好き」
ということでその日は福を含めた3人でひさしぶりにお昼ご飯を食べることになった。
注文を終え、商品の乗ったトレイを受け取り、席に座る。
「え。福お昼はいつも会社で食べてんの?」
「そう。自分のデスクで。MyPipe見ながら」
「1人で?」
「そ」
「え。同期いたっしょ」
と風天が言うと福は同期の同性の同僚が転職していたことを話した。
「マジで!?いつ!?」
「今年の4月よ。年度変わるときに別の会社行った」
「ガチか。それで福は1人寂しくご飯を食べているわけか」
「まあそうだね」
「よし。今度から一緒に食べよう!社食でもいいし、どこでもいいぞよ」
「2人はいつも一緒に?」
福に問われて海と風天は頷く。
「だいたいここ?」
頷く2人。
「時間はだいたいこの時間?」
「いや。時間はまちまちだな」
「だな」
「そっか。合わせづらいな」
「たしかにそうか」
「福は?いつも同じくらいの時間に?」
「ま、人のこと言っといてあれだけど、オレもまちまちなんだよね」
「んだよぉ〜。マジ人のこと言えねぇな」
と笑いお昼ご飯のヘンバガー(ハンバーガー)を食べる風天。
しばらく雑談を続け、全員ヘンバガーを食べ終えサイドメニューと飲み物のみになる。
サイドメニューをつまみながら残りのお昼休憩も雑談して過ごす3人。
「福ー。宣伝部もう慣れた?」
風天がスマホをいじりながら聞く。
「なんか入社1年目くらいにもこんな話したよね?」
「したっけ?ま、したかもなぁ〜」
「なっつ」
「ま、慣れたーかな。さすがに」
「ま、もう6年だもんな」
「こっわ。やめて年数言うの」
自分で自分の肩を抱き、怖がる海。
「ヤバいね」
福も怖がる。その後笑いながら続ける。
「それこそ最初は広告バナーのデザインの発注とか納期とかてんやわんやで
あわやクビっていうレベルのミスもしたけど、今はどんなデザインあがってくるかなーとか
CM撮影のときは同行していって芸能人生で見たりとか
やっと忙しい半分、楽しみ半分って感じにはなったかな」
「へぇ〜。いいなぁ〜。CM同行とかオレらも行きてぇよな?」
風天が海に言う。
「行きたいなぁ〜。ずっと会社だもんな、オレら」
「来ればいいのに」
「行けるかよ。部長になんて言うん?
「生芸能人見てきたいんでCM撮影同行してきます!」とか?ホッチキス投げられるわ」
「コーポレートマーケティング部の部長そんな怖いのか…」
と苦笑いする福。
「いや、でもさ」
「ん?」
「うちでプレゼン会議して「この商品はバナー広告だけ」とか
「この商品はCM打ちたいから、どんなCMにするか、そして誰を起用するか」とか話し合うんだけどさ」
「楽しそー」
「なー」
「結構デカい名前が上がることもあるのよ」
「俳優さんとか?」
「女優さんとか」
「そうそう。今グイグイ来てる若手俳優とかを起用しようとか。
あと最近Yotsuki(ヨツキ)ハイパードライのCM、世界的人気のグループ起用してんじゃん?」
「あぁ。はいはい。4人組の」
「さすがに海も知ってるか」
「バカにしてんだろ?」
「そうそう。そのグループを起用して流れってわけじゃないけど」
福がスマホを操作して、スマホを横にして海と風天に見えるように手を伸ばす。
「歌手、モデル、女優、声優、タレント、すべてが三流 Mrs,中途半端にならないように
音楽一本で踏ん張って なれた一流 今や世界がうちらをAlways need
“祭りの邪魔”と言われてたときから応援してくれたyou&you
“祭乃華”として華麗に咲いたのはきっとあなたのお陰 Thank you
誰かのプロデュースなんていらない 誰かのプロデュースなんてダサいこともしない
努力のday&night I through hard work for earned “music aka a knight”
最強の矛 最強の盾 切り開いてく バンバン
terrible oh god… Why U ugly,let tell Shut a f○ck up!! shoot bang bang
聞こえるかな?この歓声 待ち構えてるファン大勢
勘違い?nono 桁違い so much ugly いやいや so beauty&cutie
待ち焦がれたファンが会場でスタンバイ ファンの前ではいつでも全開
聞こえてきたファンの歓声と祭囃子 さあ祭の時間だ!!祭乃華、華麗に満開!!」
スマホからは音楽と歌声が流れ、スマホの画面には赤、青、黄色の法被を着て
おかめのお面や狐のお面、ひょっとこのお面を被った女性たちがお面を被ったまま踊ったり
素顔を見せて歌ったり、祭りの櫓(やぐら)の上で歌ったりする映像が流れていた。
「祭乃華をうち(海、風天、風などが働いてる会社)のCMで起用できないかーみたいな話も上がってさ」
「マジか」
風天が驚く。
「へぇ〜」
「へぇ〜って。海知らんだろ」
「さすがに知ってるよ」
あまり世間の流行りなどの興味もない海も知っているという「祭乃華」というグループ。
その名の通り祭り会場にいるような出立ちで
衣装は法被、もしくは法被を模した服とそれぞれのお面は必ず着用。
メンバーは元々アーティスト志望の3人で、地方の芸能事務所に所属しており
グループ名の通り、祭り会場をメインに活動していたグループ。日本では見向きもされなかったグループが
日本全国各地のお祭りの活動、MyPipeでの楽曲発信を地道に重ねたところ
その日本のお祭り独自の楽器の音色を使用した楽曲と、法被にお面
下駄や下駄、雪駄といった日本っぽいビジュアルを魅力に感じた海外のイベント会社が出演をオファーし
その出演したイベントで一躍脚光を集め、海外にて多大な人気を誇り
現在“逆輸入”という形で日本に歓迎されている。
「なんか今や世界的グループに成長して、日本人も掌返したようにチヤホヤしてるけど
まだ地方で活動してたときにオレ見たことあってさ」
福が言う。
「マジ!?生で!?」
「うん。この「Thank you」って曲の歌詞であるように、祭りの邪魔って言われてたときかな?
地元の静岡のお祭りに来ててね。ま、正直応援って応援はしてなかったけど
当時から「頑張れ」とは思ってたからさ。
うちのCMに出てくれたら嬉しいなぁ〜って思ったんだけど、さすがに予算NGだったみたいでさ」
「うわぁ〜。それで会えて「実は静岡のときに見てて」
「え!ほんとーですか!?」って展開だったらアツかったんだけどな」
と風天が悔しがる。
「だねぇ〜」
「あれ?たしか祭乃華って姉妹グループいなかったっけ?」
「あぁ、風乃音(かぜのね)ね」
「風乃音」とはまだ「祭乃華」が世界的に売れる前
同じ事務所内で結成された「祭乃華」も公認の公式の姉妹グループである。
しかし「祭乃華」が世界的に売れても姉妹グループであることは公表しないという
「風乃音」「祭乃華」双方の意見の一致から
姉妹グループというのを否定はしていないが、認めてもいない。
衣装も法被、お面はしていないが、髪を簪(かんざし)でまとめており、下駄か草履、雪駄を履いていて
ビジュアルが「祭乃華」に似ているため「パクリだ」などといった批判も少なくない。
しかしガチファンなら過去に「祭乃華」と「風乃音」が一緒に撮った写真を投稿しているのを
知っているため、姉妹グループだとわかっている。
「祭乃華が無理なら姉妹グループ?の風乃音起用すれば話題になるんでないの?」
「ま、そうなんだけどさ…」
「ん?」
福がスマホで「風乃音」を検索してスマホを海と風天に見せる。検索欄には
Hoogle「風乃音 タトゥー」
と入っており
「「タトゥー?」」
海と風天がハモって言った。そして画像を見る。
「風乃音のリーダーの首にタトゥー入ってんだよね。首だけじゃなくて他のとこにも」
「Oh…」
「そっか。CMに起用するとなるとタトゥーはムズイか」
「そうなんよ。一応メイクとかでカバーできるっちゃできるんだけどさ」
「多様性を謳うこの時代にその人の拘りかもしれないタトゥーを消してまで出演させるってのも…」
「そうなんよ。あとファンからもおそらくバッシング来るし
そもそもタトゥー消すんならって断られる可能性もあるしさぁ〜…。
だから結局大物使わないんだったらギャラ多く使うのは勿体ないってことで
ギャラ安めの売れてないギャルタレントとか使うことになって」
「そうだ。聞きたかったんだ」
海が思い出したように福に聞く。
「グループとかさ、やっぱ1グループで一律のギャラなん?」
「あ!聞きたい聞きたい!」
風天も食いつく。
「えぇ〜…。あんまギャラのこととか言っちゃダメなんだけど…」
「いいじゃんいいじゃん。99パー言わんから」
「100パーではないんだ?」
「そりゃー「おい。○○の出演ギャラ教えろ。さもないと…」ってオレの命の危機だったり
海、福、オレの家族の命がかかってたら言うよ」
「あぁ…。ありがとうございます」
と謎お礼を言った後
「じゃあ…言わんでよ?」
と声を小さくして言う。
「だいたいのグループは1グループで一律のギャラ。
グループ全員で使う場合も、個人でお仕事頼む場合も一律に同じ。
ただアイドルグループで1人だけめっちゃ売れてる場合とかあるじゃん?」
「はいはい。肥溜めの中にダイヤモンドあったみたいなね」
「どのグループ指してるかオレでもわかったわ」
という風天と海のやり取りに福が笑う。
「そういう場合は個別にオファー出すと別価格が設定されてたりする」
「マジで?」
「マジか」
「ただ内訳があって」
「内訳?」
「そう。ギャラ自体は他のメンバーと同じなんだけど、スタイリスト代とか衣装代、お水代とかいろいろ」
「お水代ってなに!?」
「いやごめん。お水代はテキトーに言った」
「なんだ」
「でもそんな感じで内訳がいろいろあって総額でいくらって感じで
他の売れてないメンバーとは別の価格設定があったりする」
「ガチか。ま、でもそうか。そりゃそうだよな。
1人イケメンが混じってて1人でグループ背負ってるようなもんなのに同じギャラなわけないよな」
「同じだったらその人ばっか使うからね」
「そうなんだよね。ま、起用する側とテレビ局も暗黙の了解みたいなもんよね。最初は驚いたけど」
と話が終わりかけたが
「いや、違くて。いや、違くもないけど」
と思い出して続ける福。
「コーポレートマーケティング部が「誰々を起用したほうがいいのでは?」とか
「○○ってグループを起用したほうがいいのでは?」って言ってくれたらアイデアが通りやすいと思うのよ」
「そおか?」
「他部署から回ってきた案は大きく変更できないもんよ?」
「そういうもん?」
「だから海か風天がうち(PR、宣伝部)に「祭乃華どうですか?」って提案してくれれば
検討くらいはしてくれると思うんだよねぇ〜」
「検討もされなかったんだ?」
「されないされない。「無理でしょー」ってムードで流れた」
「てかうち(コーポレートマーケティング部)も企画会議というか、あるからね?
そこで通らないと企画開発部にもPR、宣伝部にも案がいかないから」
「そっかぁ〜。どっちにしろ無理かぁー」
伸びをする福。伸びをしたついでに左手の時計を確認する。
「しかももう休憩時間終わりーかー」
「マジ?」
「マジマジ。戻るか」
「だなぁ〜」
3人ともトレイに乗ったゴミをゴミ箱に入れ、会社に戻る。エレベーターに乗る。
「そうだ。福。週末暇?」
「ん?週末?土日とか?」
「でもいいし、金曜の仕事終わりでもいい」
「んんー。ま、たぶん予定はないけど」
「んじゃ、飲み行かん?」
「お。いいねぇ」
エレベーターのドアが開く。
「んじゃ、また昼行けるときあったら」
「うい。飲み、LIMEして」
「おっけー」
「じゃまた」
「ん。またー。あ、浮秋(ふあき)ぃ〜」
とエレベーターを降りた福に風天が言うと
「「浮気すんなよぉ〜」」
と海が風天に声を合わせて、風天、海がニマニマした顔で福に言った。
「なっつ。てかそもそも彼女いねぇよ」
と笑いながら手を振る福が閉まるドアの向こうに消えていった。
「いやぁ〜。新鮮でした」
「それな」
「…」
「…」
ボタンの上にある電子パネルに表示された数字が増えるのを死んだ目で眺めながら
あぁ。この後仕事したくねぇなぁ〜
と思う海と風天であった。