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到着後、山陽本線で尼崎(あまがさき)、言う所のアマで乗り換えた一行は、福知山線に乗り換えて一路目的の駅へと急いだ。
阪急宝塚線の駅に降り立ったコユキはんんーっと体を伸ばしてオンドレとバックルに言うのであった。
「もう少し歩いて山登りもしなきゃなんないけどアンタ等大丈夫? お腹とか減ってたら言ってよね」ムズッ
「いや、もう腹いっぱいですよ、何ヶ月ぶりにこんなに食べたか……」
「そうです! ありがとです、お姉さん、大丈夫ですんで、ってかお姉さんは大丈夫ですか?」
オンドレが答えバックルも慌ててその後を追うのであった。
「アタシ? 大丈夫だけど? んでもあんた等も問題無いのね! そっか、んじゃあ行こっか? 付いて来てねん♪」ムズッ
電車内で善悪謹製の顔サイズの、美味し過ぎる巨大おにぎりを七つ平らげたコユキはご機嫌で歩き出したのであった。
因み(ちなみ)に九個持たされたおにぎりの内、二個は男前兄弟に分けてあげたのだ、あのコユキが分けたのである、ジーン…… 本当に成長を感じる、良かった良かった。
一キロほど歩くと右手に上り階段、神社的な趣(おもむき)の建物が見え、逆に見える赤い橋の方へ迷わず進むコユキに黙って従うオンドレとバックル。
渡り終えると右に曲がり次の角を左に折れて暫らく進むと周囲は急に山っぽい感じになったのである。
そうここは大平山(おおひらやま)、兵庫県川西市にある源頼光(みなもとのよりみつ)が眠るとされる、多田神社から西隣に位置する山の中なのであった。
「は、は、ハクション! ハクション! ハクション!」
「大丈夫ですか? 姐さん、風邪、ま、まさかコビットじゃ!」
「んあ、グズッ、違うわよ多分花粉症ね、今年多いらしいじゃん花粉」
「あーそっちかー」
「一旦落ち着いたわ、進みましょう!」
花粉のふるさと、杉と檜(ひのき)の林の中へと歩みを進めるコユキ達。
暫く行くと少し開けた場所に出た所で、コユキが二人に言った。
「んんーだいぶ奥まで来たけど……ここら辺かな? んねぇ、ちょっと聞いてみるから待っててくれるかな?」
「「へいっ!」」
二人の心地よい返事を耳にしながら、コユキはスマホで善悪に電話を掛ける。
『ハァーハァー、は、はい、ナニコユキちゃん、オップッ、ど、どうしたの? ウップ』
何か辛そうな感じの善悪にコユキは言うのであった。
「ああ、善悪! オルクス君に聞いて欲しいのよね! っぽい所に来たからどれっ位ずれているか聞いてみてくんない? よろ! 」
「あ、ああ、ゴニョゴニョゴニョ、 ふぅ、センセンチだってよ、ふぅふぅ」
「ああサンキュ! じゃね!」 ピッ
コユキはスマホをツナギのポッケにしまいながら緊張した顔でオンドレとバックルに言うのであった。
「どうやら、目的の場所の半径十メートル以内に迫っているらしいわよ! どう? ビビルでしょ?」
オンドレは分かり易く周囲を見回して警戒し始め、逆にバックルは落ち着いた様子でコユキに確認するのであった。
「お姉さん、それで俺達は何をすればいいんですか? 指示して下さいよ」
「おま、姐さんになんて口を、すいやせん、こいつこう見えて馬鹿なんで、許してやって下さい」
コユキにはオンドレの方がちょっと馬鹿だなと思えたが、そこは黙っている事にした。
「アンタ等はビビッていれば良いのよ、んじゃサクサクッとクラック見つけちゃうからね、ちとお待ちをー(善悪風) なはは」
言いながら、素早く周囲から枯れ枝を集め始めたコユキは、小さな焚き火に火を燈すと次に青草、生木の枝をさっさと集めていった。
バサァ
青草は当然の様に水分を豊富に含み、派手目に燃えていた薪を沈静化させ、生木も焔(ほのお)を飲み込んでぶすぶすと白煙をその上方に焚き昇らせるのであった。
モウモウとたなびく煙に身を包ませながらコユキは呟くのであった。
「アヴォイダンス!」
瞬間、消えかけた焚き火の周りに綺麗な真円を描いた足跡からは、立ち昇る様に浮かび上がった白煙が、周囲に均等に撒かれて行くのであった。
ザザッ!
残像を吸収しながら姿を表し周囲を見回した後、一角を指差してオンドレとバックルに向けて、
「ほら見てみなさい、あそこが別の世界、領域への入り口よん」
言ったコユキの指差す先には周辺の白煙の中、四角くクリアな空間が広がっていたのであった。
「あの四角の先がオヤジやオフクロが姐さんに出会った魔界みたいな所、か……」
「へぇ~、お姉さんあれどうなってるんですかね? 何にも見えないのに」
オンドレは戦慄を覚え、バックルは疑問の声をコユキに投げ掛けた。
「さあねぇ? 悪魔とか魔力とか普通に出てくるから当たり前になってたけど言われてみれば確かに不思議よねぇ、んまあ、取り敢えず!」
パリンッ!
返事をしながら刺し込まれたかぎ棒によって四角なクリアエリアは小気味良い音と共に割れたように消え失せ、代わりに両開きの扉が山肌に張り付いて姿を見せたのである。