テラーノベル
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今回は読み切りです!
だいぶほとけくんが口が悪いんで!
おきをつけ…?
水視点
「生きてんじゃねぇよ」
もう死んだくせに。
お前、ほんと最低だよ。
俺の中で、まだ呼吸してんの。
朝、目が覚める。
天井が歪んでる気がする。
右耳の奥で、声がする。
「おはよう、ほとけ」
もういねえよ。
お前、もう死んだんだろ。
なのにさ、
なに笑ってんだよ、頭の中で。
歯を磨こうとすれば、バスルームの鏡に映ってる。
俺の背後、ぼんやり立ってる“お前”の姿。
振り返っても、何もいねえのに。
なのに――匂いだけ、まだ残ってんだよ。
血の匂い。お前の首筋の、石鹸の匂い。
そして、
ナイフに滲んだ、お前の“声”。
「あの時、気持ちよかったでしょ」
「俺だけ見てくれて、嬉しかったよ」
「君の中に、ちゃんと死ねて、幸せだった」
やめろ。喋るな。もういねえんだ。
俺が殺したんだ。
俺のこの手で、
誰にも触らせないように、ちゃんと終わらせたんだ。
なのに――
俺の中のお前は、死なない。
「次は誰を殺すの?」
「僕だけじゃ、足りなかった?」
「また、僕を殺していいよ。何度でも」
いふの部屋に、夜な夜な通ってる。
遺品がまだ処理されてなくて、助かった。
ベッドに潜り込むと、まだ、お前の温度が残ってる気がして。
枕の裏に隠してた手紙も、全部読んだ。
くだらない。
全部、俺宛てだった。
「殺してくれてありがとう」とか、
「君に壊された僕は、一番綺麗だった」とか。
馬鹿じゃねえのか。
ほんと、お前って――
俺の人生をめちゃくちゃにしてくれたよな。
でも、だからこそ、愛してたんだよ。
それが全部なくなった今、俺はどうすりゃいいんだ。
お前を壊すことでしか、自分を保てなかったのに。
もう、俺を壊してくれるお前がいない。
だから。
今日もまた、ナイフを手に取る。
今度は、俺自身に向けて。
けど、刺せないんだ。
俺が死んだら、お前の“檻”が壊れちまう気がして。
「なあ、いふ」
「次の世界でも、またお前に殺されるの、俺なんじゃねえか?」
「それでもいいよ」
「お前じゃなきゃ、俺、壊せないからさ」
死んだはずのお前に、
今日も俺は、依存している。
「おかえり、って言ってよ」
いふが死んで、何日が過ぎたか、もう数えてない。
だけど、“あいつ”はまだここにいる。
俺の後ろに。
俺の耳元に。
俺の胸の奥に。
「さみしいよ、ほとけ」
その声だけが、俺を生かしてる。
だから俺は、今日も歩く。
いふのいる場所へ向かって。
街の音が、遠くなった。
俺だけが、透明な水の中を歩いてる気がする。
誰も俺のことを見ない。
そりゃそうだ。
俺なんか、もうとっくに人間じゃねぇ。
あいつを殺したときから、
俺の心臓はあいつのもんだ。
「こっちだよ、ほとけ」
夜の河川敷に、声が落ちる。
見慣れた後ろ姿。
白いシャツの裾が、風に揺れている。
「いふ……」
返事はない。
でも、あの背中がそうだと、わかる。
俺が一番、よく知ってる。
土手を下って、水辺に近づく。
目の前に立つあいつが、ゆっくり振り返った。
笑ってた。
死んだ時と同じ顔で。
「迎えにきたよ、君を」
「もう、十分生きたでしょ」
「俺を殺した時、君も一緒に死んだはずなのに」
「君だけ置いていかれるの、やだったんだよ」
ああ、そうだな。
やっぱお前、最低だ。
でも、ほんとに優しいやつだよ。
「行くよ、ほとけ」
「お前の手、冷たいな」
「もう、こっちの世界に慣れちゃったから」
指先が触れる。
たしかに、そこにある。
幻じゃない。
――これは、もう、現実そのものだ。
川の水に、足を踏み入れる。
ひやりとした感覚が、体中を貫く。
それでも、怖くない。
隣にはいふがいる。
手を繋いで、俺を導いてくれる。
「ねえ、ほとけ」
「なに」
「おかえり、って言ってほしい?」
「……うん」
「じゃあ、ちゃんと沈んできて」
水の底で、息が止まる。
でも、苦しくない。
目を開ければ、そこにいふがいる。
微笑んで、腕を広げて、待ってくれてる。
「おかえり、ほとけ」
最後に残されたもの
遺体は、数日後に見つかった。
自殺とされた。
川の中には、二人分の足跡が残っていたという。
でも、そこにいたのは――
最初から、一人だけだったはずなのに。
コメント
11件
てれてれれん♪てれてれれん♪てれれれれんれんてれれれれん♪
二人分の足跡に......一人の死体...... 事件だ!(?) てーへんだー!じけんがおきたぞー!