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-今日、2匹の猫が実験室に運ばれていくのを見た。
対のように眠る白と黒の2匹には薬液導管と手術痕が痛々しく刻まれていて、どうせろくでもない実験だろうと思った。
時空の観測と物質の枠を超えた融合によってアカシックレコードの掌握を目的とする大企業「Chronos.Inc」
その本質は違法な実験と倫理に反する行為を繰り返す地獄だった。
既に私の同僚も6人消えている。たった2週間の中で。
研究チームの違う私にはあの2匹の猫の実験内容を知ることも出来ないし関わることも出来ない。だからこそせめて彼らに安らかな死があることを願うだけだった。-「職員Tの日記」より
今日も真っ白な部屋の中で目を覚ます。つんとした消毒液の匂いが鼻を刺した。
ぼやけた視界の中で歪に変化した自分の体を見る。黒色の毛並みは人間の肌に、前脚も後脚も人間のようになってしまった。残された耳と尻尾を見て興奮していた職員のことを思い出して吐き気がした。もう猫だった時のことなんて思い出せなかった。
「S-75-04、移動だ。」
職員の声が聞こえた。足枷と首に繋がれた鎖だけを身にまとって、引きずりながら収容室の扉を開けて出た。辺りには血と消毒液の臭いが充満していて、色々な方向から悲鳴なのかよく分からない絶叫が聞こえる。
一体今日は何をされるのだろうか。脳に電流を流されるのか、よく分からない薬剤を打たれるのか、はたまた殺処分か。正直殺して欲しかった。
「今日からここがお前の収容室だ。個室は金がかかるからな。同じシリーズの実験体なんだ、暴れんなよ。S-75-03、新しいやつだ。」
そう言って職員は僕を収容室に放り込んだ。
体が擦れて痛かった。顔を上げると、部屋の角には僕と同じ耳と尻尾を持った人が部屋の角で蹲っていた。綺麗な人だった。
少し汚れてはいるものの、腰まである髪は雪のように白く、色素の薄い肌と相まって触れたら崩れてしまいそうだった。
いくら雌同士とはいえあまり身体を見るのは失礼かと思い、話しかけようとした。
しかし彼女は短い悲鳴をあげてこちらをじっとみた。透き通ったエメラルドグリーンの瞳は僕の尻尾や耳を映したあと、こう尋ねた。
「貴方も…猫だったの…?」
僕が肯定すると彼女は優しくて儚い笑顔を見せた。
この場所で初めて見た「本物」の笑顔だった。