魔術師ギルドの導師にして竜殺しの一人であるエルフのエリアは仲間達を見送った後、その足で元老院の議員達の議会が行われている議事堂に向かった。
その白亜の建造物はエトルリア帝国の最高権力者であるはずの皇帝をも凌ぐとも称される力を持つ者達が集う場にしてはこじんまりととしており、派手な装飾を施されることもないいたって地味な代物である。
だが魔術に通じるものが見れば、その建物にはとてつもなく高度で複雑な術式が施され、強固極まりない結界が張られていることに驚嘆するだろう。
(あるいはあの震電の竜王の強烈な雷撃すら防ぐかもしれない)
エリアは改めてこの建物を守るエルフの長老達の叡智に畏怖の念を覚えながら
短く合言葉を唱えて門をくぐった。
「さあ、報告を聞こうかエリア」
耀くような金髪のエルフがエリアに問うた。他の人種が見れば若々しい青年のように見えるだろうが、六百歳をゆうに超えている。
元老院の議員は三十名。それぞれエルフ、ドワーフ、ノービットから十名ずつ選ばれることが習わしである。
この六十名こそがこの国を実際に動かしている影の支配者である。流石に感情の動きが乏しいエルフらしいエルフであるエリアも緊張の為に全身に汗が浮かんだ。
エトルリア帝国の表向きの最高権力者である皇帝はヒューマンによって構成される三大騎士団の団長が配下の騎士たちの擁立を受けて帝位に就くことになっている。
しかし実際はこの元老院議員達の承諾を得ねば決して皇帝となることは出来ないのは、この国の上流階級の者共は皆承知していた。
「ヴァレリウスとクォーツ以外の皆は竜の王国に行くことを承知しました。そしてクォーツの妹が兄の代わりに同行します」
エリアは包み隠さず詳細に報告した。この元老院議員達はその権力と異能でこの国の中で起きる事件、事象のほとんどを察知し、承知している。
だが魔術師ギルドの建物の中で行われた会話だけは知ることが出来ない。
この議事堂に匹敵する強力な結界が張られ、厳重に秘密保持されているからである。
故に直接報告を受けねばならない。
「まあ、大体予想通りだな。正式な騎士となったヴァレリウス、それに父の事業を継いだクォーツは残るだろうと思っていた。しかしあの妹の方が旅に出るのか。まだ子供では無かったか?」
ノービットの一人が言った。エリアから見ればほんの子供にしか見えないが、元老院の議員であるのだから、老年に近いのだろう。
「あの娘のことは私は良く知っているよ。白銀天秤商会とは古い付き合いなのでね。一応、成人しているはずだ。兄の方に引けを取らない程頭が回るし、何事も器用にこなす。竜殺し達の足を引っ張ることはないだろうよ」
もう一人のノービットがパールの能力について太鼓判を押した。
「追放者のラルゴめもやはり行くことを選びおったか。どこまでもドワーフの気風に逆らう奴めよ」
ドワーフの一人が忌々し気に呟いた。その声からは同胞の安全とさらなる武勲を祈る色は微塵も無い。
むしろ危険な竜王国で死んでしまえと言わんばかりであった。
他種族嫌いであり、代りに同族の結束が極めて固いことで知られるドワーフであるが、掟を破った者に対しては真に非寛容である。
今やドワーフの英雄となったラルゴであるが、過去の行いを未だ許していないらしい。
もっともラルゴはドワーフから許しを得て再び彼らから受け入れられたいなどとは全く思っていないようであるが。
(彼らのこういう執念深く非寛容な所にほとほと愛想が尽きたと言っていた。まあ、それも分かる)
「エリアよ。以前にも言ったが、今回のお前が果たすべき任務は極めて重要かつ危険な任務となるだろう。そしてそのことを仲間達に悟られてもいけない。竜王討伐よりもさらに厳しいものとなるのは明らかだ。本当に出来るか?」
黒髪のエルフがエリアに問いただした。エリアが知る限り、この国のエルフの最長老であり、魔術師ギルドの最高同士であるシャマールである。
神の域に達するほどではないかと思われる程の叡智と魔力の持ち主に真っ向問われ、エリアの緊張は頂点に達した。
体温が一気に上昇し、喉がひりつく程であったが、エリアは意思を振り絞って答えた。
「無論でございます。魔術師ギルドの導師にして竜殺しであるエリアの名に懸けて誓います。必ず元老院より承りし使命を命に懸けて遂行致すことを」
そしてエリアは自身が信仰する時間を司る神でありこの宇宙の知識全てを収集する者であるヒース神の名の元に誓約した。
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