⚠暴力・流血表現🈶
「オマエ、オレの下僕な。」
『……は?』
そんな言葉で始まった初対面。私たちのすこし…いやかなり変な関係のはじまり。
「変だ」と文句をつきつつも、何となくズルズルと紐を引きずるように12歳から続いているこの“下僕”と“王”の関係は案外悪くないなとさえ思い始めている。
「肉まん食う?」
『…食べる』
彼の──黒川イザナと過ごす時間は楽しかった。時間で表せばほんの短い時だったけど、少しも退屈だなんて思えなかった。
彼と出会ってからも家のことも、喧嘩も、相変わらずで何の変化も無いが、彼と居るとそんな“寂しさ”なんてすべて無かったかのように忘れられて、自然と湧き出る幸福感で笑顔が浮かんだ。
─その瞬間だけ、黒く汚れた自分が少し“普通”に思えた。
口調は少し荒く、私の事を“下僕”だなんて言うくせに下に見るなんてことは一切なくて、人との関わり方があまり上手くない私のことをいつも優しい目で見てくれる。
「うまい?」
『うん、美味しい』
手元に握った、半分に分けられた肉まんからまっすぐに立ちのぼる湯気から一度視線を切り、一瞬だけ視線をイザナへと走らせるとまたすぐ湯気へと戻す。
その一瞬の動作になぜか胸が激しく波打ち、肉まんを握る手は訳もなくドキドキと震え心の奥から揺り動かされるような衝動を感じる。
前はこんなんじゃなかった。
男の人に何かを貰うことも、こうやって2人でなにかを喋ることも、育った環境上多かったし、こんなに脈打つスピードが大きく変わるなんてこと一度も無かった。
そんな私のすぐ隣ではもうとっくに肉まんを食べ終え、静かにどこかを眺めるイザナの姿。
そのいつもと変わらない、平然とした姿に私だけこんなに動揺してしまうのかと「焦り」、なのか「悔しい」のか「嬉しい」のか「悲しい」のか「恥ずかしい」のか…恐らくそのすべての感情が複雑に絡み合い、思考を混乱させる。
そんな自分と何の変化も示さない彼に腹立たしさと言い知れぬ寂しさを覚える。イザナと出会う前の暴力に依存したあの感情とは違う、別のなにか。
私の言葉に出来ない疑問は時と共に段々と大きく、風船のように膨らんでいった。
この感情はなんなんだ?そもそもなんで私に構うんだ?会ったのだって偶然だったのに。
胸で疼くこの感情の名前が分からず、頭の中で疑問符が激しく乱舞する。
『…イザナ』
「あ?」
『……やっぱ何でもない、ごめん。』
そんな出口のない考えに頭痛がし、私は止まらない思考に終止符を打った。
それから数カ月後。
いつもの様にブラブラと人気の少ない道を放浪しているときだった。
「オラァ!!!」
複数人の乱暴な足音と、怒りと緊張を含んだ男の叫び声がすぐ後ろで聞こえ、しまったと焦った時にはもう頭に固い一撃があった。
『…え』
頭に一瞬、鈍い痛みが走ったと思うと視界の回りをチカチカと白い火花が飛び、そのまま固いアスファルトの地面に体を打ち付ける。
酷く高い音を聞いたときのようなキィンとする頭の痛みを我慢し、顔を少し動かすと段々と狭くなっていく視界に3人組の男の姿が映った。大きめのマスクをつけ、黒いパーカーの帽子を顔の深くかぶっているため顔があまり見えない。
「復讐だよ、ざまぁみろ!」
こちらを震える目で睨みつけ、男は子供の負け惜しみのような言葉を吐ながらまた一撃、もう一撃と錆の匂いと血の匂いが混じった鉄パイプを何度も私の体に振り落として来る。
あ、これやばいやつだ。そう脳が危険を察知したころにはもう遅く、今迄よりもずっと思い一撃が脳天を揺さぶった。
─気絶していたのだろうか。頭にうっすらと眠気の靄がかかっている気がする。
『…ん』
起きて最初に機能した嗅覚がおもわず鼻をつまみたくなるような悪臭を拾い、「またゴミ捨て場か」と、表情に力が抜けていく。頭が焼かれているかのように痛い。吐き出しそうな異臭に喉の奥がチクチクとする。そういえばお腹もすいた、最後に食事したのっていつだっけ。
体中の痛みを出来るだけ感じないようにとゆっくりとゴミに埋もれていた体を起こし、まだ半分寝かかっている脳を起こそうと五感を研ぎすましたその瞬間。
「ね、ねぇ。あの子、ボロボロだよ。警察か救急車呼んだ方がいいんじゃない…?」
「駄目よ、ああいうのは関わらないほうがいいの。…行きましょ。」
2人の女性の声が覚醒しかけの聴覚を刺激し、何となく声が聞こえた方へと視界を映す。
親子のような雰囲気を纏う二人組の姿が見える。娘であろう、私とそう変わらない年の少女は哀れみと心配を含んだ同情の目を私に送り、もう一人の母親と思われる女は自身の親と同じあの体の芯まで凍っているような冷たい目で私を、ゴミを見る様な目で睨んでいた。
『…こっち見てンじゃねぇよ、鼻っ面へし折るぞクソが。』
その瞳が嫌で、血も凍りそうな冷たい声を吐き、怒りをこめて目の前の女を睨みつける。
あぁまた汚れてしまった。
続きます→♡1000
コメント
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んえ、ちょっと待ってフォロワー様60人超えてる❕❕❔ ちょやだみんなだいすきありがと😿💞