この恋、魔法のせいにして。
⚠️ ネス×潔 ⚠️
❶ 忠実
僕は潔世一が大っ嫌いだ。
カイザーの好意を無下にする上にバカにする。
大人しくその好意を受け取ればいいものの本当に腹が立つ。
「ネス、なんか怒ってる?」
「世一、カイザーの何が嫌なんでしょう。」
試合の空き時間、コートの隅で水を飲んでいると隣に黒名が座った。
「難しいな。けど潔は俺のことちゃんと認めてくれてると思うよ。ネスは今俺を好きになれって言っても難しいでしょ?」
「…つまり人それぞれ好みがあると?」
黒名にそう問いかけると頷いた。
黒名はよく分からない。黒名も潔の味方でカイザーを敵視している気がする。
けどたまにこうして僕の考えに手助けをしてくれることがある。
僕はカイザーの味方なのに。
「潔、多分サッカーの技術的な面では尊敬してるよ。カイザー、普通に上手いし。」
黒名の目線の先には潔とカイザーがいる。
サッカーボールに足を乗せて世一をからかうカイザーを見るのは嫌ではなかった。
潔のあの迷惑そうな顔も不快には思わない。
もし僕がカイザーの1番になれるならなってみたいものだ。
「ネスはカイザーが好きなのか?」
黒名の突然の問いかけに顔をあげられない。
「ネスはカイザーが好きだから潔をそんなにも嫌うの?」
それでも黒名の言葉は止まらなかった。
「好き…ってよりも僕はあの人に忠誠心があるんです。僕にとってカイザーは夢を見せてくれる。そんな魔法使いなんです。」
そう、カイザーは魔法使いだ。
人間だって魔法が使えるんだって教えてくれた。
だからカイザーには幸せになってもらいたい。
潔に好意を受け取って欲しい。
だって、カイザーの幸せは僕の幸せだから。
「なんでそんなことを急に?」
「興味があっただけ。深い意味はないよ、」
黒名はさっきから潔たちから目線を動かさない。
「そんな黒名はどうなんです?潔が好きだったりして。」
そんな冗談混じりの僕の言葉に黒名は反応しなかった。
その代わりに立ち上がってタオルで汗を拭うと僕の方は見ずにこう言った。
「冗談でもそんなこと言うなよ。」
いつもよりも低く威圧感のある黒名の声に周りの雑音が聞こえなくなった。
そのまま黒名は氷織たちのもとへと行ってしまった。
「…そんなに怒らなくても。レッドカードですよ……ばーか。」
誰にも聞こえないようにそう呟く。
内心はてなで頭がいっぱいだった。
「ネス、後1点取るぞ。練習とは言えど手は抜くなよ。」
「もちろんです、カイザー。」
今ボールはカイザーのもとにある。
潔が僕へのパスを警戒して守りを固めてくる。
仕方なくカイザーは他のチームメイトへとボールをパスする。
「ほんと邪魔ですね、僕へのパスを警戒するのは構いませんけど、隙がありすぎます。」
僕は潔よりも少し早く横に躍り出るとカイザーに目で合図を送る。
するとカイザーは口角を上げた後、ボールを僕へと飛ばした。
すかさず潔がボールに足を伸ばす。
「それを待ってました…ッ!」
潔の足がボールに届く瞬間、僕は一瞬の隙をついた。
それは潔がボールを止めた瞬間、ボールはわずかに上に弾かれる。
予想通り足で止められたボールは目の前の潔のつま先で上に弾かれた。
僕はそのまま構えていた姿勢を固め、ボールを思いっきり頭で前に飛ばした。
「よくやった、ネス。」
待機していたカイザーは僕の弾いたボールを胸で受け止めてドリブルをし始める。
「…どこでそんな技…ッ!」
潔は必死にカイザーの背中を追う。
その背中を立ち止まって見守る。
それでも神様は残酷だ。カイザーのボールはキーパーの横を通り抜け、シュートが決められる。分かっていたことなのに決して喜べる結果ではなかった。
「ごめん、まさかあんなわずかな隙間で頭を使うなんか思いもしなかった…」
「大丈夫や、あんなん誰も予想できへんよ。」
「ネスも成長してる。感心、感心。」
潔の謝りにチームメイトの氷織と黒名が慰めをかける。
その光景を目の前にした時、黒名と目が合った。
黒名は一瞬目を向けるがすぐに逸らしてポジションへと戻ってしまった。
「カイザー、人ってものはよく分からないね。怒ったり笑ったり汲み取れないよ。」
部屋でカイザーの横に座ってそう呟いてみた。
「ははッ!どうしたネス。気になる人でもできたのか?」
カイザーは無邪気に微笑み僕の肩に手を乗せる。
「昔から人から好かれるほうではなかったのでその感情がよく分かりません。」
そう言うとカイザーは口を閉じてまた開いた。
「そうだな、ネス。俺が世一を振り向かせたいのは好きだから…そんな単純な愛だけではないんだ。」
「というと?」
真剣な顔つきで数秒悩んだあとカイザーはやっと言葉を発した。
「嫌われたくないとか特別に思って欲しい。忘れられたくない。そんな想いがあるからだ。」
カイザーの言葉の意味は何となく分かる。
好きな人には自分のことで悩んでほしいものだろう。
僕にとってカイザーは宝物だ。
じゃあ世一はなんだろう。黒名はなんだろう。
そんなことを考えても出てこない。
「カイザーは本当に世一のことを愛しているんだね。」
「当たり前だろ!」
カイザーの言葉に嘘は感じられない。
あんなに幸せそうなカイザーを見るのはいつぶりだろう。
カイザーが幸せそうだ。僕も幸せ…なはずなのに、なんで胸が痛むんだろうか。
「カイザー、明日に備えて今日は早く寝ましょう。お風呂に行ってきますね。」
「分かった、他の奴と今日の試合映像の確認に行ってくるから後で向かう。」
「了解です、カイザー。」
部屋を出る前にカイザーに少しだけ頭を下げて脱衣所へと向かう。
「…僕は何がいけなかったのでしょうか。」
独り言のようにまたそう呟くと後ろから腕が回ってきて体が包まれた。
「ネス!!丁度話したいことがあったんだ!こらから風呂行くんだろ?一緒に行こーぜ!」
抱きついてきた相手は世一だった。
慌てて顔を伏せて頷くと世一は不思議そうに僕の手を引っ張った。
「…あの、世一。やっぱりカイザーが来るまで待ちませんか…?」
「カイザー来るの?なら尚更早くしねーと。」
隣で服を脱ぎ始める世一をなるべく見ないように渋々僕も服のそでを掴んで脱ぐ。
風呂場の中には誰もいない。
みんな疲れていたのか早めに済ませんだろう。
つまり今、ここには僕と世一しかいない。
「ネス?なんかお前おかしいぞ」
「カイザーの愛してる人と裸の付き合いなんてできません…ッ!」
「男同士なんだし大丈夫だって。てか俺はカイザーのこと愛してないし。」
「…僕はカイザーを応援します。」
「ふーん。」
世一は目の前の椅子に座って鏡と向かい合うようにシャンプーを流している。
目に入ったのか痛そうに擦っており何度も水を当てている様子だ。
「世一、擦ったら余計に赤くなりますよ。手に水を溜めて数秒目をつけておくんです。気休めですけど擦るよりはいいし。」
痛そうにしている世一を急いで止めてお手本のようにしてみせる。
すると少しだけ驚きながらもすぐに微笑み僕にこう言った。
「ネスが居てくれて良かった。」
世一は誰にでもこんなことを言うんだ。
ほんとに罪な人なんだ。
分かってるのに、自分を特別に感じてしまう。
ごめん、カイザー。
僕はカイザーだけに忠誠すべきなのに。
さっきから世一から目が離せないんだ。
世一が好きだ。
コメント
3件
最高だァァァッ
わぁ〜〜〜!めっちゃ美味いです!続き出す気があったら待ってます!