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❷ 協力
「そんなことより話をして下さい。何のために僕を呼んだんですか。 」
先に湯船に浸かって頬杖をついていると体の泡を流す世一と目が合ってすぐに逸らした。
「今日の試合だよ。なんで頭を使ったんだ?」
予想外の質問に少し戸惑うがすぐに話す。
「足で蹴るのが普通でしょうけどそれじゃすぐに奪われてしまう。頭なら優しい世一は僕に触れない。そう判断したんです。」
そう話すと世一は納得したように頷いてすぐに次の言葉を探した。
「サッカーに優しさなんか必要ないよな…」
世一はそう呟きながら自分の隣に並ぶように湯船に入った。
そして横に座ると前髪を掻き上げた。
「ネスはなんか心から支配してくる感じがする。その人の武器よりも性格的な?」
きっと褒めているのか人差し指をかけて僕に向かって微笑んだ。
「僕のことなんかいいんです。世一はカイザーだけ見てて下さい。」
「なんでそこでカイザーが出てくるんだよ 」
「それが僕の幸せだから。カイザーが望むことは僕が叶えてあげたいんだよ。」
そう話すと世一は興味なさそうに目を瞑って「お前らしいな〜」と眠そうに温まっている。
タイミング良くカイザーが入ってきた。
「世一、風呂でのぼせるなんかまだまだ子供だな。俺に部屋まで運べと言うのか。」
「のぼせてねぇよクソ野郎。煽るだけなら帰れ。💢」
仲良さそうな雰囲気の2人。
空気を読んでカイザーに微笑んで頷くとカイザーはすぐに世一のほうへと向き直った。
「邪魔しちゃ悪いので先に上がりますね。」
「逃げんなネス!」
「お前はまだ浸かるだろ。そんな子供じゃないんだからな。」
「お前ってやつは💢」
2人を背中に1人寂しく脱衣所で体を拭く。
カイザーの笑い声と世一の怒った声が中で響いて耳に届いた。
逃げるようにして風呂場を後にすると廊下で丁度潔のチームメイト、氷織羊と会った。
流れるようにして2人で外のテラスに並ぶ。
「話すのは初めてですね。ネスです。」
「気軽に行こうや。氷織や。」
「…黒名は部屋にいるんですか。」
突然の黒名の名前に少しだけ動揺する氷織。
「?」
僕が首を傾げると氷織は覚悟を決めたような真剣な顔つきで僕の手を握る。
「ネス君は好きな人おるん。」
聞き覚えのある質問にも慣れてすぐに言葉が出た。
「…居ません。居るのかもしれないけどまだ確証が持てないんです。 」
「そっか」と溢すようにして吐き出すとさっきよりも力を込めて手を握る氷織。
「黒名と話をしてやってほしんやわ。僕から言えることはこれ以上もこれ以下もない。」
氷織は真剣な顔つきのまま僕の目を真っ直ぐに見つめ返してきた。
「…分かりました。」
そう返すと満足したように氷織は笑ってそのまま僕たちは解散した。
氷織から黒名と話す時の条件も聞いた。
1.黒名から無理に聞き出さないこと。
2.黒名のペースに合わせてあげること。
そして3.ネス自身の想いを隠さず伝えること。
これが氷織からのお願いだ。
正直理解はできていない。
でも黒名に会いたいのはたしかだ。
世一に会いたくなるのとは違うような心配する気持ち。黒名が泣いてる気がしてその日の夜は眠れなかった。
「氷織さん、黒名はどこに?」
「ネスくん、それが朝起きたらおらんかったんや。一応次の試合まで時間はあるから絵心は放っておけって。」
次の日練習部屋に入るとそこにはドイツ組のチームが集まっておりそこには世一もいる。
珍しくカイザーとはおらず、世一は他のチームメイトと笑っていた。
「カイザーもおらんしよぉ分からんのや。けどなんか嫌な予感がしてならへん。」
氷織も僕と同じく嫌な予感を感じていた。
そのまま額に手を当てて悩むような仕草を見せる氷織。
「探しに行ってきます。カイザーも居ないし黒名も。」
そう言って氷織の声を遮るように部屋を走り出た。
なんでかさっきから嫌な妄想ばかりが浮かんでくる。
(黒名…僕はやっぱり君がわかりません。)
「カイザー、お前にこんな話持ちかけるのはほんとは腹が立つけどな。」
「要件はなんだ。お前らと違って忙しい。」
涼しげな顔で余裕そうに腕を組むカイザー。
「…俺は___。」
「…なるほど。つまり協力を持ちかけようとしているのか、俺に?」
カイザーの言葉にゆっくりと頷くとカイザーは口を横に広げて目を細めた。
「いいだろう。その話乗ってやる。」
カイザーの真っ青な瞳が窓から差し込む光に照らされていた。
これで良かったのか後悔する気持ちもある。
でももっと後悔する選択肢だってあった。
俺は自分に正直に生きたい。
例えそれが上手くいかなくても、好きな人には幸せになってほしい。その考えには同意するから。