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朝
「もう起きないと遅刻するよ」
切迫感のある母の声で毎日目を覚ます。今日も憂鬱な1日が始まることを知らされて気分も体も随分と怠い。体が怠いのはきっと昨日学校から帰ってきて晩御飯までの間、学校という監獄から解放された安心感からかすぐ寝てしまった結果夜眠れなくてほぼ徹夜状態だからだ。このまま眠っていても仕方ないので、泣く泣く身体を起こして、おぼつかない足取りでまずキッチンに向かって、箸と茶碗を取ってリビングとキッチンの間にある炊飯器でご飯をついで、そのままリビングへと向かう。リビングには予め用意されているおかずが置いてある。自分の席に着いた瞬間即座に腰を下ろし、あぐらをかき机に並んだ朝ごはんたちを眺め、嫌いなものの順番を頭の中でランク付けしてそれに沿って食べ進めていく。ご飯は何かと一緒に食べないと食べれない派なので毎日適当なおかずと共に口に運ぶ。この時は体が勝手に動いてる感覚で、まだ頭は覚めない。現に食べている時の記憶などは全くない。途中で母が話しかけてくることはあるが、ほぼ単語か1文で返すしその内容も勿論覚えていない。気づいたら食べ終わっていて左上を見上げて時間を確認する。ここでこれからの過ごし方を決めるのだ。この日は前日の夜に風呂に入った甲斐あって、少し余裕があった。ともかく自分の部屋へ戻ろうと立ち上がった。ほぼキッチンの隣にある部屋の引き戸の凹みに右手の中指、薬指、小指を引っ掛け、左に引き扉を開ける。そして、入ったら少し右後ろに腰を回転させ、扉を挟むように右手でつまんである程度のところまでスライドさせ、残った僅かの隙間はもう一度凹みに今度は人差し指と中指を入れて押し、完全に扉を閉める。キッチンのすぐそばにあるこの部屋は家族が多く行き交うため、扉を開けたままにしておくと自分のプライベート空間が確保できない。それが嫌で毎回入っては閉め、出ては閉め、を繰り返していた結果、流れるようにその動作を行なうようになっていた。
自分の部屋まで辿り着いたら真っ先にベッドに飛び込む。そして何秒か経って我に返り、一度ベッドに座る姿勢になってから、少し寝転がろうと思い足はそのままで上半身を右に倒すと、左側の足が動き出してそのまま右の足も動き出してベッドと背中の隙間が右からどどん埋まっていき、完全に埋まったのと同時に、浮かせていた足をドンとベッドにおろしその状態の気持ちよさに心安らぐ。
少しの間はその気持ち良さに浸っていたが、これから1日が始まるということを思い出して心がリラックスできず結局休憩するつもりの5分があっけなく終わってしまった。実に無駄な時間だ。朝の時間は特に貴重なのに、と時間が過ぎ去ってから後悔しだす。そんなことを考えていたら数分過ぎてることに気づき慌てて用意を始める。学校で配布されたiPadを取り出し下の方にある丸いホームボタンを押して、ロック画面に設定してある時間割を撮った写真を見ながらいつも準備をする。大体置き勉をせずに持って帰ってるため準備は少し時間と手間が掛かる。無造作に辺りの床に置かれた教科書やノートの中から今日必要な物を探し出す。その状態のことを自分の中でリアルミッケ!なんて思っていて直す気は全く無い。ただし、母からはよく注意を受けていた。同様に制服も扱いは同じだった。ハンガーにかけるのが面倒臭くて洋服ダンスの上に垂らすように置いたスカート、そしてその上から重ねるように置いたセーラー服。それらを身に包む。セーラー服のリボンは置く場所を決めていないので毎日30秒くらい探す。その最中で毎回のように水着のズボンを手に取ってしまう。そもそも水着のズボンが片付いてないところから、部屋の散らかり具合が歴然としている。何やかんやで準備という工程を終えると丁度いい時間だったので、先ず自分の部屋の扉を開けて、部屋の中に戻り両手でスクールバッグを肘を伸ばしながら持ち上げて腰に負担を掛けながら膝を極力曲げずに小股で足踏みするように歩いて部屋の前で下ろす。それから、母がその場所に用意してくれたお弁当箱と水筒がある。先に水筒を入れて、それからお弁当箱を右手を曲げてその谷に掛ける。そして左手を、手のひらを上にさせてスクールバッグの紐に通して掴み、少し膝を曲げてそこから膝を伸ばす動力使いその手を耳の辺りまで持っていってそのまま下ろして肩に掛ける。そうしてすぐそこにあるマスク入れの蓋を開けてマスクを取り、とりあえず半分に追って本来耳に通すための紐を手首に通して玄関まで行き、私から見て右側にある色々な鍵が掛かってあるもののの中から、白熊の手縫いのキーホルダーが付いた鍵を探してそれを取り、人差し指に入れて右手でドアを持ち上半身の体重を掛けてドアを押す。
「いってきます」
鈴の音と床がカツカツとなる音がリズム良くシンとしたエレベーターホールに響いていた。
今日は珍しく早かった。というのは自分の中での話で、正しくは約束通りの時間だ。自分が時間に怠慢なことをよく知っている中学校からの親友は予定通りの時刻にほんの少し遅れてくる。よって今日は先だった。
「ごめん」
と言う声に全然いいよ。と答えて寧ろ自分がいつも遅く来てしまって申し訳ないと思う。特に何を話すわけでもなく自転車置き場まで向かって、まず自転車のハンドルの部分に右手に持っていたお弁当箱を通して、右手の支援を借りてスクールバッグを持ち上げて自転車のカゴの中に入れる。重さでコントロールができず半分放り込む形になってしまうためスクールバッグが変な向きになりやすい。今日もそのせいでスクールバッグが縦向きになってしまっていた。直したいが、その向きになっていて走行中に落とす可能性は無いので、取る時に融通を利かせればいいかと毎回モヤが残るまま諦める。次に、人差し指に掛けてあった鍵を左手に持ち直して、自転車のサドルの下にある鍵穴が見えるように少し屈んで鍵を通し、そのまま右に回転させる。そのガチャっていう音は今から1日が本格的に始まるというスタートの準備の合図のように思える。右足でスタンドの鍵を後ろにして両手でハンドルを持って前に押して自転車を動かす。いよいよ今日という1日が始まる。家で準備をしている時とは違い、比較的大きな音で目が覚めて体もシャキッとする。気分も完全にでは無いが少し前向きになる。
自転車置き場を出るまでは自転車を押して運び、マンションの駐車場あたりでサドルに跨って自転車のペダルを足で探り、右のペダルを上に上げてから、横目で親友が来たのを確認してペダルを踏み込む。今日という1日か始まった。