テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
wki × fjsw
意識がゆっくりと浮上して、時間を確認しようと無意識に手探りでスマホを探す。
寝ているときはいつもこの辺に充電器に挿しておいてあるはず、と手を動かしたが一向にスマホは見つからない。
うーん、眠る前の自分はどこか遠くにでもスマホを放り投げたかなあ。とまだ重たい瞼をあげた。
「…え」
小さく、驚きの声が口をつく。
目の前、ものすごく近い距離に、良く見知った顔。
すやすや安らかに寝息をたてて眠っている。
化粧をしているときはちょっとキリッとしたクールで綺麗な印象だけれど、そういう装飾や施しを一切していない顔はなんだかとても幼い。寝顔、というのが一層、その幼さというかあどけなさ、無垢さみたいなものを引き立ててる。
あ、ちょっとよだれたれそう。
端正な顔立ちで、子どもみたいな寝顔でくしゃくしゃになった髪の毛とか、口の端から垂れそうな涎とか…ギャップとギャップしかなくてぎゅっと胸の内が掴まれたような感覚。
かわいいなあ、と声に出てしまいそうで、慌てて口元を抑えた。
こんなにぐっすり眠っているのに、起こすのは可哀想。だし、目の前の顔を見て、一瞬で寝る前の状況を思い出したから。
そうだ。そうだ。
そおだったああぁあ…。。。
あっという間に、頬というか、顔全体に熱が広がるのが分かる。
昨夜、このあどけない寝顔のひと…若井と一線を越えてしまったんだった。
ああ恥ずかしい。
今まで一緒にふざけてお風呂に入ったりしたことなんて数えきれないくらいあるし、ルームシェアしてた頃なんてパンイチで寝ぼけて起きてきた、なんてことだってあったし(僕はないけど)お互いの裸なんて見慣れてる、というとおかしいけれど。
お互いに裸で、すごく近い距離で向き合って寝ていて、一枚の薄いリネンをわけあうようにかけて、その下で絡まっている互いの足が、なんだか、すごく、とても恥ずかしい。
『…涼ちゃん、』
なんて、すごく熱っぽい声で求められたら、断れない。
断れるはずがない。
昨夜の、僕を見下ろす若井の顔がフラッシュバックして映像として見てしまった。
その記憶に音声まで脳裏で再生されて、やだやだこんなの変態じゃん!と両脚をじたばたしたい衝動にかられる。
起こす、と思って、何とかぐっと堪えたけれど。
堪えた途端、ちょっと体に力を入れただけで、なんとも言えない箇所がジン、と痺れるような鈍痛。
あー、そうか。そうだよね。そうなるよね。
一線を超えてしまった、というとすごく語弊があるけれど、ちょっとした勢いだったことは否めない。
勢いがだめって言ってるんじゃないんだけどね?
完全に勢いが占めてた。若井のぐいぐいした勢いに、勝てなかった。
勝つ気もなかったような気もするけれど。
明日は久しぶりに休みだからって、マネージャーが押えてくれた隠れ家的なところに飲みに行って。
羽目を外した若井が、元貴と僕に日頃の感謝とか想いとかを呟き出して、泣き出してべろべろになっちゃって。
めんどくさいから涼ちゃん任せた。って優しい顔して苦笑しながら元貴が若井を僕に押し付けてきた。
きっと元貴は若井の本音を聞いて嬉しくて照れ臭かったんだろうなー。僕も、涼ちゃんいつもありがとう。だなんて、なかなか言われないような言葉ばかり投げられて、嬉しいようなこそばゆいような気持ちになったんだけど。
場が何とも言えない空気に包まれたので、お開きとなったのは0時を過ぎたころ。
じゃーねーって早々に元貴は退散していって、僕はマネージャーが呼んでくれたタクシーに若井を押し込んだ。
行き先を告げようとしたところで、若井にぐっと腕を引っ張り込まれて一緒にタクシーに乗る羽目になって、乗ってしまったら最後。お客さん、吐いたりしないようにきちんと最後まで連れてってくださいね。なんて少し嫌そうな運転手さんの言葉を聞いてしまったら、結局若井の家で僕まで降りる事になってしまった。
タクシーを降りて、夜風が思ったよりも冷たくて。
感じる空気が少し湿ったような、肌に纏わりつくような感覚があって、明日はせっかく休みなのに雨かなあ。だなんて思う。
相変わらず、ふらふらの若井を支えながら、エントランス前に着いた時だった。
『りょーちゃん』
若井が僕を呼んだ。
すっかり意識は低空飛行になっているかと思ったんだけど、割としっかりした声色で。呂律は回っていなかったけれど。
起きてるんならちゃんと歩いてよ、と声を掛けようとしたところで、俯いていた若井がパッと顔を動かし、ねえ見て。と空を見上げた。
その動きに習って空を見上げる。
黒い雲がわさわさと湧いている曇天の夜空のその隙間に見える満月。雲が邪魔だと言わんばかりに光っているけれど、薄黒い雲の向こう側で霞んでいる。
それなのに。
『月が、きれいだね。涼ちゃん』
若井がぽつりと呟いた。
全然はっきりとした輪郭も見えないし、正直、きれいじゃないよ。と思った。どちらかと言うと儚い感じの、今すぐ消えちゃいそうな光を持った月だ。
けれど。そう言葉にすることが出来なかった。
『え…』
思わず、動きを止めて何度も瞬きをしてしまう。
若井の表情が伺えない。
肩を貸しているのもあるし、最近買ったという底の厚めのブーツを履いているのもあって、ちょっと背が僕より高くなっている若井を下から見上げる。
すぐそこ、密着して若井がいるのに、こっちを見てくれなくて。
こんな曇天の最中にある満月が、きれいだと本当に思っているんだろうか?
それとも、そうじゃなくて。
ねえ?
僕は、その言葉を知っているけれど、若井もそうなの?ただ単に、酔いが回って月がきれいだなーって感情を共有したいだけなの?
言葉の真意が読めなくて、ぐるぐる思考が回る。
僕もアルコール入ってるから、そうそう正常な思考じゃないかもしれないのに。
『…なんか、言ってよ』
くすんだ儚い月を見上げたまま若井が、またぽつりと言う。
急に声色が落ち着いたトーンになった。
少し迷ったような仕草の後で、若井がこちらを向く。
深夜の闇の中、エントランスから漏れてくる淡い光。
びゅん、と一瞬吹き抜けていった夜風。
さらりと流れた赤茶色の髪。
真っ赤な顔はお酒のせい、じゃ、ないんだよね?
僕の都合のいいように、言葉を拾っても、いいのかな?
急に、言葉の意味が正しく伝えたかったのだろう想いとなって胸の内に入り込んできて、困惑していた僕は、胸が跳ね上がった。
けれど、まさかそんな。ね?
どこかで疑うような気持ちが捨てきれず、すぐさま言葉を返せない。
ねえ、だって。
こんな令和の時代にさ。そんな古めかしくて回りくどい言葉を囁かれるとは、夢にも思わなかったし。
まあ有名だけれど、若井がそういう文学のジャンルの知識があったというのも意外だし。
今、数センチの距離にある若井はじっと僕を見ていて、何かしらの言葉を待っているようだ。
そのお酒で緩んだとろんとした眸に、頬を赤くした僕が薄っすらと映り込んでいる。
頬が赤いのが、もう答えのようなものだ。
そもそも、僕が一方的に、若井を好きなんだと思ってた。
いつからか、なんて考えたこともないから、僕自身もわからないほど前からだと思うけれど。
元貴と一緒にふざけて笑う顔がかわいいなあ。それなのに、真面目な顔をしてギター弾いてるときは息を呑むほどきれいでかっこいいなあ、なんて。
テレビによく出てるようなアイドルの女の子よりかわいい、とか、ランウェイを歩くようなモデルさんよりかっこいい、とか。そういうんじゃなくて、ただただ僕のアンテナに若井の表情や仕草のすべてが引っ掛かった、っていうだけなんだけど。
気付いたら、そういう意味で好きだというのが心の中にあったから、僕は驚きもしなかった。
ばれちゃだめだ、と思ってたし、ばれてない自信もあった。
これからもずっと彼の傍にいられるなら、彼と一緒に、元貴の世界観で音楽ができるなら、ただのメンバーっていうカテゴリで、全然いいと思ってた。
それだけで満足してた。
なのに。
『…月は、きれいだったよ、ずっと』
出会った頃から、ずっとね。
絞り出した言葉は、それで。
僕の方が、ずっとずっと前から。なんて、随分と重たい言葉を言えたものだな、と思う。
満足なんて、全然してないじゃない。って。
彼の言葉が、本当にそういう意味での言葉なんだったら、全力で受け取りに行く気満々なのを隠しきれていない。
若井はその言葉を受け取って、ひとつふたつ瞬きをする。
そのまま、当たり前のように顔を寄せてきて触れるだけのキスをされた。
ここ外だよ、と思ったけれど言えなくて。
そのまま、僕が肩を貸している筈なのに、連れられるようにマンションの中へ導かれてしまった。
そのあとはもう、流れるように、部屋に、寝室に連れ込まれて。
息継ぎの仕方もわからないくせに、窒息するかと思うほど夢中でキスをした。
いつの間に?って思っちゃうほど自然な流れで、服も肌けられていて、肌に直で触れられてびくんとしてしまう。
そういう意図を持った指先の熱にどきどきする。
漏れ出そうな声は全部キスの波に呑まれていって。その合間にちゃんと酸素を取り込んでる、ちょっとだけ手馴れてる若井にじりっと胸が焦がれた。
今まで彼を想ってきて、彼女がいても焦がれることなんてなかったのに。自分のことを好きなのかも、と思った途端にコレだから、自分の器の狭さにいたたまれなくなる。
ちょっと古びた愛の言葉の確認なんて野暮なことはしない。
ただただ若井にされるがまま。
丁寧に、だけど性急に体を開かれていって。
ごめん、ゴムないけど、いい?…なんて、またまた手慣れたように聞かれた。
なんだか悔しくて、そんなの要らない、そのままがいい。って目を見て言えば、若井は顔を真っ赤にして、グッと唇を噛んで何かを堪えるようにしたあと、あーもう!と抱き締めてきて。
我慢できないじゃん、と耳元で囁かれたあと、言葉のまま我慢なんてない勢いで、呆気なく軽々と一線を越えた。
ほんと、軽々超えてくれたよね。僕がどれだけの間、若井を好きだったか、聞かせてあげたい。
いや、うん、超えるきっかけは煽った僕なんだろうけど。
月がきれいだね、なんて。陳腐なのにどうしようもなく浪漫がある、そんな言葉に、なんだか気分が高揚して、らしくない言葉を言ってしまった。
今まで、数年もの間、知られることなくひっそりと閉まってきた想い。ルームシェアしていた時だって、思いが零れるようなヘマはひとつもしなかったのに。
いつから、若井は僕のこと?
もしかして、僕の気持ちも知っていた…?のかな?
いや、知っていたなら、もうちょっとストレートに言ってくれてもいいと思うんだけど。
そんなことを思いながら、起こしてしまうかもと身動きひとつとれず寝顔を見つめていると、あどけない表情の閉じられていた瞼がピクリと動いた。
うっすら目を開いて、すぐにぎゅうっと閉じ、うーーーん、と猫みたいに伸びをする。
ぐぐっと伸ばした足が僕と絡まっているもんだから上手く動かず、動かないことに驚いたように足の動きが止まって、重なる人の肌と体温に、ハッと開眼してがばっと片肘をついて体を起こした。
視線が絡む。
若井からすれば、自分の馴染んだ寝室のベッドに、僕がいる現状に、脳みそフル回転だろうと思う。
僕はといえば、寝起きの人の意表をつかれた一連の動きを目の当たりにして、なんとも言えない愛らしい感情が込み上げ、口元を押えて笑ってしまった。
と、同時に、じわっと胸の中で不穏な色が一滴染みを作るみたいに落ちる。
「そうだった…」
若井がぽつんと呟いて。
まんま、僕が昨夜のことを思い出した時と同じ反応だ、とさらに可笑しくなる。
可笑しくなったのに、今どういう気持ちでいるんだろう、と内心やっぱり不穏な染みが広がっていく。
「…忘れてたの?」
「いやっ、そう、じゃないけど…」
「んふふ、勢い?」
別に責めているわけではなかったけれど、若井の反応がなんだかかわいらしくて。
…昨日のことを、確かめたくて。
勢いなんだって、お酒で手を出しちゃったとかだって、やっぱり後悔したって言われたって、それでもいいかな。と思わないと。
昨夜、月はきれいだった。若井の中でなんだかそんな気分だった。それで血迷って勢いで事に及んだって言われても、それでも夢のような時間をありがとう、くらいにしか思わないから大丈夫。
何年も長く想ってきた分、予防線の張り方だって無数に知ってる。とりあえず張らせて欲しい、とそう思う。
僕の揶揄うような様子を若井は不貞腐れた顔で見る。
その表情のまま、僕に顔を近づけた。
「そうだよ、勢いだよ」
涼ちゃんと初めてセックスする時はゴムもローションも準備万端にしとこって思ってたのに。
全然ダメだった。すぐ欲しくなっちゃった。
耳元で低い声でそう囁かれた。
僕が、そういう、露骨な言葉に弱いことをわかっているかのように。
途端に、揶揄う余裕も消え失せて、くすぐったさと体の奥が疼くような甘い痺れに、んん、と声が漏れてしまった。
肩をぎゅっと竦める。
足の絡まりが解けて、若井が伸し掛るような体勢で僕の体を跨ぐ。肩を軽く押されて上を向かされれば、昨夜に組み敷かれた時と同じ景色が見えて、心臓が跳ねあがった。
昨日はどうだったっけ。こんなにドキドキしてたっけ?いや、もうそれどころじゃないくらい、もうずっとキスばっかりしてて、ドキドキなんてずっとしっぱなしで、僕を見下ろす若井が同じくらいドキドキしてるのも、触れ合った肌の下に感じて、知っていたから。
だから、一線を越えてしまった、なんて言葉が出てくるんだけど。それくらい、勢いで事に及んだ感が否めなくて、何を言ったか、何をされて、何をして、彼が、自分がどうだったか、っていうのは全部覚えてるのに。
なんで今、この瞬間が一番ドキドキしてるんだろう。
僕の顔の両側に肘をついているもんだから、ものすごく近い距離に、ちょっと口を尖らせた若井の顔がある。
ああ、うん。ものすごく拗ねてる時の顔だよね、それは。
そんな表情のまま、何も言わずに沈黙が続いたから…跳ねた心臓はまだドキドキしてるし、顔もきっと真っ赤なんだろうけど、やっぱりかわいい、と思ってしまって、どうしても口元が綻んでしまう。
僕の表情を見て、ちょっとだけ眉をあげた若井は、ちょん。と触れるだけのキスを落として
「冗談だと思ってる?」
なんて言う。
その言葉と響きで、若井の心情が何となく読めた。
僕が、予防線を張ってるのが、透けて見えるんだ。
だって、しょうがないじゃない?若井に対する感情に付随してまわる様々な可能性、幾多にも及ぶパターンをシミュレーションしてきた僕は多分、フラれる・避けられる・無かったことにされる、なんてことにはきっと想像慣れしすぎていて。
想いが重なり合うなんてパターンは考えてこなかったから。
ドキドキするのに、逃げ道を残すように笑ってしまう。
かわいいなって思ってしまうのは、本当にかわいいと思う気持ちと、そう思って自分に余裕を持たせたい気持ちが半々だ。
それが、気に入らないんだな。
「ねえ、ちゃんと、好きなんだよ」
若井が、ストレートに言葉をぶつけてきた。
ここで、それを言っちゃうの?
思わず、笑みを引っこめて、唇を噛む。
逃げ道無くなっちゃうよ。昨日の夜みたいに、月はきれいだよって、回りくどいけれど浪漫たっぷりに言ってくれてもいいのに。
曖昧にしてくれてもいいのに。
唯一用意してこなかったパターンが、この想いの先にあるとは想像もしていなくて、もう揶揄ったり、笑ったりする余裕はない。
僕がきちんと言葉を受け取った表情を見せれば、やっと若井は笑う。すごく優しい表情で。
「…ッう~…」
恥ずかしすぎる。すごく今更なのに。
なにこれ?昨日は隠語みたいに伝えられた言葉を、直訳して言われると、こんな気持ちになるの?
寝起きから、唖然としたりにやにやしちゃったり、赤くなったりドキドキしたり、かわいいなあと思ったり…
逃げ道作っていつでも笑って流せるようにしてた。
本当に、僕を好きで、それでいいの?
正直、脳みそが、心臓が、爆発しそうだ。
僕の反応に気をよくしたようで、満足そうな様子の若井は
「やっぱ、俺には超ド直球が性に合うわ」
そう笑って、好きだよ涼ちゃん、と臆することなく言い、また触れるだけのキスをしてぎゅうっと僕を抱き締める。
夢じゃないよね?なんて、未だに思ってしまう逃げ体質が染みついた自分が厭になる。厭になるくらいには、若井の言葉をきちんと、受け止めてる。
全体重が僕の上に乗っかっているのに、重たいと感じなくて。
好きが通じ合うって怖い。
「…ほんと、に…?」
「昨日何回したと思ってんの?冗談とか嘘なわけないでしょ」
情けなく震えた声で問うた言葉に、若井の楽しそうな、それこそ揶揄うような色を含ませた言葉が返ってくる。
前半半分の言葉は、わざと。言わなくてもいいでしょ。
抗議する意味も含めて、だけど、ぎゅっとその背中に腕を回す。
「…ごめん、僕、その…重たいかもしれないけど」
よろしくおねがいします。
と小さく呟くと、若井はくすくすと笑って、今更だね?と言ってから、うん。と頷いた。
一線を越えてしまった。想いが重なってしまった。
欲が出てきてしまうかもしれない。長く想い続けて熟成された僕の感情が、ものすごく重いものと感じることもあるかもしれない。
けれど。
月がきれいだね、なんて情緒ある言葉じゃなくて、はっきりと好きだと言われたなら、ああ離し難い。と思ってしまったから。
なんだか、じーんとして色々な感情の波に浸って勝手に泣きそうになっていると、僕を抱き締めた若井の指先が、するっと肩を撫ぜて肌を辿って滑り落ちる。
「…っぇあ?」
何も身構えていなかった僕の口から、変な声が出た。
え、待って待って。昨日なんだか曖昧な感じで、雰囲気に流されたみたいな感じでいっぱいして、今それを確かめ合って、ちょっとしっとりするところでしょ?
そう思うのに、ひとつも言葉が出てこない。若井の指先と手のひらが、わざとそう言う熱を持って触れてきて、邪魔をする。
で、昨夜の名残がある僕の体も、すぐに反応して熱を帯びるから、駄目駄目だ。
「っわ、か、んんっ」
少し弾んだ吐息の合間に抗議のように名前を呼ぼうとすれば、すぐに唇を重ねて塞がれる。
若井って、キス好きだよね。
これは、ずっと彼を想ってきたけれど、初めて知ったことのひとつ。
密着してるから、若井の熱が硬くなっているのもわかるし、僕のもきっと気付かれてるし。
恥ずかしくてどうしようもない。
「抱いてる間に、聞かせてよ」
月はきれいだったんでしょ?
出会った時から、ずっと。
その意味と、重さ、ぜーんぶ、聞かせて。
ものすごく意地悪そうに、それでも愛おしそうに笑う顔も、初めて見た。
そんな表情で、そんなこと言われたら。
ねえ、僕なんかひとたまりもない。
僕のことを間違いなく好きなんだって求める指先に翻弄されながら、僕は、瞳を伏せることしかできなかった。
おわり
月がきれいだねって言ったのは、誰かさんの入れ知恵だという一節はどこにも入れられなかった。
ただのいちゃいちゃはむずかしい。
コメント
6件
はあ…素晴らしい✨ 朝いちエモセンを摂取して、良い一日を過ごせそうです、本当にありがとうございました😊笑 なぜこんなにも涼ちゃんは可愛いのか…でも、ゴ◯もロー◯ョンも無しで、初めてで、痛くなかった?ちょっとどうやってやったか、後学の為にも若井さん詳しく教えてくれる?ってなった私をお許しください🙇🏻♀️笑 もちろん、こういう勢い、大好き🥰
ねぇ、ちょっと、ねぇ……っ(語彙の消滅)。 こっちがエモセンシティブに悪戦苦闘しておるというに、なんてものをぶっ込むんですか……😇 弊社のセンシティブ、代わりに書いてくれませんか……1万字の予定はとうに超えているから、何字になってもいいから……かわいい尊い2人を書いてほしい……(五体投地)🫠お話が読めて嬉しいです……すき……。