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どういうことなの?
私の本心を言えば、そうなる。
グニーヴ城に魔物が侵入した。しかも警備の目を躱し、レクレス王子の寝室にまで潜り込まれた。警備の見直しが急務というのもわかる。
「すまんな、アンジェロ」
「いえ、殿下」
私は、レクレス王子の部屋にいる。
当直二人体制。ハルスは外、そして中に私。椅子に座り、寝ずの番である。
先ほど襲われたばかりだから、今夜のうちに二度も襲撃してこないだろうが、それはちゃんと警戒しているからであって、来ないだろうと手を打たねばそれは敵に付け入る隙を与えてしまうだけである。
理屈はわかるのだけど、何故私?
「正直、落ち着かない」
レクレス王子はベッドに横たわり、天井を見上げている。
「ラミアは魔物だ。あそこまで密着されるなど……しかも女の……おぞましい」
体質でさらにダメージ入ってしまっているレクレス王子である。
「誰かがそばにいてくれないとオチオチ眠れん」
王子は、椅子に座っている私を見た。
「だがこんな姿を、誰にでも見せていいわけじゃない。青狼騎士団の団長ともあろうものが魔物に怯えて眠れないなど、格好がつかないからな」
「そうですね」
王族は、常に堂々を胸を張れ。大衆はその姿を常に見ているのだから。
「こんな姿を見せられるのは、アンジェロ。お前だけだ」
「……! それは……はい」
お前だけ、と言われると、どうしようもなく胸が締め付けられた。この場合、どう振る舞うのが正解かしら? 少し迷い、私は小さく首を傾け、安心してもらおうと笑顔を浮かべた。
「大丈夫です。ボクが見ていますから、殿下はゆっくりお休みください」
「レクレスだ」
王子は私をじっと見つめた。
「名前で呼んでくれないか? お前には、名前で呼んでほしい」
「あ……はい、でん――レクレス様」
「うん」
そう言うと、レクレス王子は再び正面へと顔の向きを戻した。
名前で、と言われると、何故だろう。少し気恥ずかしい。そう感じたのは、彼の声音がとても優しかったからかもしれない。
お疲れなのかもしれないが、少し元気がないようだった。
目を閉じて、お休みする王子様。私はその寝顔をじっと見つめて――
「眠れない」
レクレス王子は目を開けた。
「お前がオレを見ていると思うと、モヤモヤする」
「すいません! じゃ、じゃあボクは後ろ向いてます」
「馬鹿。それではここにいる意味がないだろう」
王子は半身を起こした。
でも、見張りと言っても常時見ていなければいけないわけではないだろうから、こう机で作業しながら、顔をずらしたら見えるようにするだけでもいいような――
「お前はオレを常に視界に入れるか、感じられるほどの距離のどちらかでなければならない」
「は、はい」
そこで黙り込むレクレス王子。沈黙したままじっと見られるとつらいのですが……。警備なのに、視線を逸らしたらだめだよね。顔が火照ってくるのを感じた。
「アンジェロ、我が儘を聞いてくれるか?」
「な、何なりと」
反射的にそう言っていた。王子はそこで爆弾を発した。
「お前、一緒に横になれ」
「はいぃっ!?」
声が上ずった。いきなり何を言い出すんだ、この王子様は!? 物凄く真面目な顔に、私の赤面度が限界突破!
「ええ、えーと、わた、ボクも横にって……! ボ、ボク、男の子なんですけど!」
ということで、私は王子様のベッドにいる。さすがに王子専用だけあって、余裕で三、四人くらい横になれそうだが……いやいやそうじゃなくて!
近い近い近い!
私のすぐそこにレクレス王子が横たわっている。寝間着ごしにでもわかる鍛えられた胸板、お腹は見えないけれど、きっと腹筋も凄いんだろうなって……そうじゃなくて!
「緊張しているのか……?」
向かい合っている王子が私の肩を撫でた。
「お前は男だと言ったが、そうしていると女みたいだ……」
「……っ」
私、顔真っ赤。熱を感じられるほど熱くなっている。きっと王子にもわかるくらいに。
「ボクは……男です」
「わかっているさ。でも怒らないで聞いてくれ。お前が女のように見えているほうが、オレは、あのラミアのことも、女が苦手な体質も忘れられそうなんだ」
レクレス王子の囁くような声。これ本当、私が女だってバレてない? 心臓のドキドキは距離が近いせい? それとも性別バレの危機感のせい?
「アンジェロは、可愛いな」
ふと、王子の手が私の頬に触れた。思わず目を閉じてしまう。
「はは、本当に生娘のようだ」
ごめんなさいねぇ! 私、こんな距離で殿方に触れられたことなんてないもの! あ、お父様はカウントしない。
「熱いな……照れているのか、アンジェロ?」
「殿下――レクレス様は女の何を知っているのですか?」
何を言っているの私ー!
「幼い頃から、この距離で女性に触れたことないでしょうに」
「それは――そうだな。オレは女に触れたことがない。でも、お前には触れられる」
レクレス王子の目はどこまでも真っ直ぐで、優しかった。
「お前が女だったなら……。触れられるのに」
「本当の女だったら、たぶんダメだったと思いますよ」
「確かにな。今でも女を直視すると拒否反応がでて、おぼろけにしか見えていない。だがそのイメージを重ねても、アンジェロは男というより女に近い」
私は視線を逸らす。男装しているだけで、女ですもの。王子の指が私の頬から首筋へと移動した。そして胸の近くに――
「殿下、それ以上はダメです……!」
さらしを巻いて隠している胸。その感触で巻いていることに気づかれるかもしれない。バレたら、本当におしまいだ!
「うん、すまない。……この距離で言うのもなんだが、オレは別に同性に目覚めたわけじゃないからな。お前がその……あまりに可愛らしくて」
そこまで言ったレクレス王子の顔が赤くなっていた。私がまじまじと見たので、王子は向こうを向いてしまった。
「何でもない。もう寝る」
レクレス王子の背中が目の前にある。手を伸ばせば届く距離に。
「アンジェロが女だったらよかったのに……」
その呟きは私の気のせいだったか。彼の背中に抱きつきたい衝動にかられたが、何とかこらえた。