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純の言葉が、
姫子の胸の奥に触れた瞬間だった。
「森野さん……
あなたのことが──」
その続きが聞こえる前に、
姫子の胸が、
ぎゅっ と強く締めつけられた。
息が止まる。
(……まただ)
夢の中で、
影が手を伸ばしたときと同じ痛み。
でも今回は、
もっと深いところを掴まれたような痛みだった。
純が驚いたように姫子を見た。
「森野さん……?
大丈夫ですか」
声が優しい。
触れられていないのに、
その声だけで胸が震える。
姫子は胸に手を当てた。
痛みは苦しさではなく、
懐かしさと、
どうしようもない“会いたさ”が混ざった痛み。
「……すみません。
ちょっと……胸が」
純の表情が変わった。
驚きでも、心配でもない。
“覚えている人の顔”だった。
「……俺も、同じ場所が痛むことがあります」
姫子は顔を上げた。
「え……?」
純は胸に手を当てた。
姫子と同じ位置。
「理由は分からないんです。
でも……あなたの前だと、
ここが……ずっと、ざわつく」
風が止まった。
二人の胸の奥で、
欠片が共鳴する音がした。
──会いたかった。
夢の影の声が、現実の空気に重なる。
姫子の視界が揺れた。
(……この人だ)
理由なんて分からない。
でも胸の奥の欠片が、確かにそう告げていた。
純が一歩近づく。
「森野さん……
俺、あなたに──」
その瞬間、姫子の意識がふっと遠のいた。
風の音が消える。
光が揺れる。
そして──
夢渡りの森の匂いがした。