「……どうしてこんなことになっているなの?」
「どこででも食べられるって幸せすぎるー! 剣であるあなたは食べないんだっけ?」
「必要無いなの。そうじゃなくて! こんな朽ち果てた城で、どうして呑気に料理が作れるなの!?」
旧バラルディア王国の城は、すでに廃れた城と化していた。しかしルティは料理の材料を持って歩いていることもあり、廃城に関係無く料理を作れる。
――ということもあり、張り切って鍋を振り始めていた。
「まずはお肉ですよー! アヴィ、お待ちくださいねー」
「はーい!」
「呆れて何も言えないなの……」
呑気に料理をするルティに呆れ、フィーサは廃城の中を一人でうろつくことにした。竜人娘が気付いていない何かの気配を一人で探る為でもあるからだ。
廃城内部は昼間でも薄暗く、壁や柱の所々に大きな亀裂が走っている。しかし、元々は巨大な岩山を精霊などがくり貫いて造った城だ。それだけに大きく崩れずに残っている強固な造りで良かったのだと、フィーサは思うしかなかった。
「むぅー、落ちても平気だけど、床の穴には落ちたくないなの」
精霊が多く暮らしていたバラルディア王城は、外界からの侵攻や攻撃を防ぐ為に岩を固めて頑強に作られている。いつ滅びてしまったのかは不明だが、食料や武具、魔石の備蓄場所として、古くから侵攻に備えていたような痕跡が残されているようだ。
外観と城の内部は大きく崩れておらず、崩れているのは底に抜けた床ばかり。足下を気にしながら、フィーサは一人だけで気配の感じた場所へ突き進むことにした。
「出っ来上ーがり! 溶岩焼きステーキが出来ましたよ! 召し上がれー!!」
「わーい!」
「さてっ、お次はフィーサの為の油スープを……あれっ? フィーサは?」
料理に夢中だったルティは、ようやくフィーサがいないことに気付いた。
「もぐ……どこか行ったんじゃないの?」
「えぇ!? アック様がいないのにまた怒らせた!? でもでも、どこを探せばいいの~」
「人間じゃないんだし、心配いらないと思うけどね~」
「はぅぅぅ……」
ルティの心配をよそに、フィーサは居住塔と呼ばれる所にまで進んでいた。痕跡を感じたようでそこには種族に関係の無い居住空間があった。
「興味深いなの。銀製の水差し、黒檀《こくたん》の机……ふむむ、身分の高い者もいたなの?」
宝剣として幾多の人間に使われて来たフィーサ。しかし、古代王国には来たことが無い。それだけに部屋中のあらゆる物に夢中になるのは無理も無かった。
「ふかふかなクッションまであるなんて、信じられないなの……なのっ!?」
そこで彼女の油断をついて、どこからともなく一本の矢が放たれた。古代の城にふさわしくないクッションに命中した矢は、明らかにフィーサを狙ったもの。
その気配に何となく気付いていたフィーサは、矢を放った何者かに向けて声を張り上げる。
「やっと出て来たなの? わらわには、矢なんて効かないなの! こそこそしてないで、とっとと出て来ればいいなの!!」
「――ちぃっ! 誰が来るかと思えばお前か」
「えっ? どこかで聞いたことがある声なの」
フィーサの言葉を聞き、矢を放った者はすぐに姿を見せた。その姿にフィーサも驚きを隠せない。
「ふん、人化の両手剣の娘が我を迎えに来るとはな。霧の村の奴らめ……我を陥れたつもりか」
「えーと、イスティさまについていたエルフの~……?」
「関わりが少なかったとはいえ、我の名を言えないとは……アックめ!」
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