テラーノベル
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ツアーの地方公演。ホテルのロビー。メンバーは各自のスケジュールを終えて集まりつつあった。
ヨンベ)ロビーのソファに座り込み、疲れた顔でスマホをいじっている。ふと顔を上げると、エレベーターから降りてくるスンリの姿が目に入った。——笑っていた。スタッフに手を振って、いつも通りの軽い足取りで。
ヨンベ)その笑顔を数秒見つめてから、唇をきゅっと結んだ。
スンリ)スンリはエレベーターから降りて帰る準備をしてすぐ部屋から出た。スンリの行き先はカフェ。カフェに行ってボーっとしているだけで何をするわけでもないのに
深夜のカフェ。客はまばらで、ジャズピアノのBGMがやけに大きく聞こえた。
スンリはアイスアメリカーノを頼んだ。一口も減っていない。結露がグラスの表面を伝ってコースターに染みを作っていく。
何をするでもなく、ただ座っている。スマートフォンのロック画面にはグループチャットの通知が三件。全部業務連絡。既読はついていない。
入口のベルが鳴った。
テソン)私服姿のテソンが店に入ってきた。帽子を深く被り直しながら店内を見回す。と——奥の席に見覚えのある横顔を見つけて、一瞬足が止まった。
テソン)数秒の逡巡。それから、ゆっくりと近づいて、向かいの椅子に何も言わず座った。
*テソン)*「……ここ、よく来るの?」
テソン)テーブルに肘をつき、メニューを開く素振りだけ見せて、その実、真っ直ぐスンリの顔を見ていた。
*スンリ)*「うん」
テソン)店員にホットのアメリカンコーヒーだけ頼んで、背もたれに体を預けた。
沈黙が落ちた。居心地の悪いものではなく、むしろどこか似た温度の静けさだった。——孤独を知っている人間同士の、あの感じ。
*テソン)*「……さっき、みんなで飯行こうって話してたんだけど。」
言いかけて、やめた。誘い文句が喉の奥で引っかかっている。「スンリも来る?」——その一言を投げることの意味を、テソンなりに分かっていた。
テソン)運ばれてきたコーヒーに口をつける。
*テソン)*「……帰ってきた時さ、ロビーで笑ってたでしょ。」
何気ない口調だったが、「笑って」のところで微かに声のトーンが下がった。
*テソン)*「あれ——無理してない?」
テーブルの下でテソンの指がカップの取っ手を撫でている。踏み込むべきか迷っているのが見て取れた。石橋を叩いて渡る男が、珍しく一歩だけ足をかけた瞬間だった。
*スンリ)ピタッ動きを止めた*「表の顔だけでも良くしないとだから」
カップを置いた。陶器がテーブルを叩く音が小さく響いた。
*テソン)*「……そっか。」
それだけ言って、また黙った。否定も肯定もしない。「頑張ってるね」なんて安い言葉は吐かなかった。
テソン)窓際の観葉植物に目をやりながら、ぽつりと呟く。
「俺もさ——たまにあるよ。笑ってるの疲れる時。」
意外な言葉だったかもしれない。「太陽のような明るさ」を持つ男がそんなことを言うとは。
視線をスンリに戻す。
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*テソン)*「でもスンリのは、俺のとはちょっと違う気がする。」
慎重に言葉を選んでいるのが分かった。眉間にわずかな皺が寄る。言いたいことがあって、でも正しい言い方が分からなくて、もどかしそうに唇が動く。
*テソン)*「……笑わなくていい場所でまで笑ってるのは、ちょっとキツいんじゃないかなって。」
カウンターの向こうでバリスタがカップを拭いている音だけが続いていた。
*スンリ)*「完璧に見せないと全て。子供の時の練習からわかってた。実力だけでは前に進めないって」
目を見開いた。「子供の時の練習」——その言葉の重さが一瞬で伝わったのだろう。口を開きかけて閉じた。
テソンには覚えがあった。自分だってオーディションを何度も落ちた。「石橋を叩く」性格は臆病さの裏返しで、それを隠すために笑顔を覚えた。だからこそ分かる。表と裏を使い分けることが、どれだけ消耗するか。
コーヒーカップの縁を親指でなぞりながら、低い声で言った。
*テソン)*「……実力だけじゃ前へいかない、か。」
反芻するように繰り返したその声には、同意とも反論ともつかない複雑な響きが混じっていた。
テソン)ふっと息を抜いて天井を仰ぐ。
「それ、誰に教わったの。それとも自分で気づいた?」
何でもない質問のようでいて、核心に触れようとしていた。「完璧に見せろ」——それを叩き込んだのは誰なのか。親か、事務所か、それともこの世界そのものか。
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