「は──」
呼吸が一瞬、止まった。
下履いてへんて。その上こんなとこ触らせるとか、…なんやその百戦錬磨みたいな誘い方。
だが思い直す。
「…ッ酔ってても、やってええ事とあかん事あるやろ…」
そう、この人は酔っとるんや。酔った勢い。本気にしたらあかん。朝起きて後悔するんは目に見えとる。
………こんな事で、心臓がうるさくなるなんて。酔っぱらい上司相手にドキドキするなんて。
…有り得へん。
「…?ほし」
押し倒されていた体勢をひっくり返し、今度は自分が押し倒す形になる。ついでに、触れていた内股からはさりげなく手を離しておいた。
「鳴海隊長」
「っぁ…?」
「ダメですよ、僕みたいな危ない男に簡単にそないなこと言うたら。僕かて人並みに性欲ありますし」
なるべく笑顔でそう告げる。
「…ほし、な、?」
そして、戸惑う鳴海の耳に口を寄せ、ゆっくりと言葉を発する。
「せやないと──」
「アンタ、いつか僕に犯されますよ?笑」
「ッ…!?」
「ん?望み通りちゃうんですか?」
「そ、…れは、」
言い淀む鳴海。
やっぱりな。あんだけ言っときながらいざセックスとなると怖気付くタイプや。
「…ね、中途半端な気持ちのまま抱いてもお互い嫌な思いするだけやし。やめときましょ」
「…とかいって、ほんとはボクとヤりなくないだけだろ」
少しイジけたように顔を逸らす彼に、諭すように喋る。
「あんなぁ、もうちょい自分大切にした方がええですよ」
「…たいせつに?」
自分でも見当違いな説教始めようとしとるなぁとは思うが、この際だから言っておくことにする。
「受け入れるって、言うほど簡単なことやないし。負担やってかかる」
てか今ローションもゴムも無いし、と付け足して、鳴海の頬を撫でる。
「それに、初めてが酔った勢いとか嫌でしょう?」
「…うるさい」
それだけ言うと、鳴海は黙ってしまった。
…耳、赤いなぁ。初めてってバレたん恥ずかしいんやろか。
「こういう事は、ちゃんと好きな人とした方がええですよ。分かりました?」
「…おまえもけっきょく、せっきょうか」
「ふふ、すみません」
最後に頬を人撫でし、体を起こす。
「てか、僕が理性ある男で良かったですね。やなかったら鳴海隊長、絶対襲われとったやろうし」
茶化しながらそう言うと、鳴海は何やらモゴモゴと口の中で呟いているようだった。
「?すみません、何て?」
「…なんでもない」
「そうですか」
深く追跡はせず、ベッド傍に置いてあった下着を鳴海に渡す。
「ん、履いといてくださいね。僕風呂入って来るんで」
「…ん」
今度は大人しく履いたので、ほっと胸を撫で下ろしながら自分の分の下着を手に取る。
そしてシャワールームへ向かおうとしたところで、ふと気が付く。
…え?鳴海隊長て、ネコなん?
…受け入れることに、抵抗とか無いんやろか。いや無いわけ──。
そこまで考えて、ようやく思い出した。
…彼は、Ωだ。子を孕むことのできる、受け身側の人間だ。男だ女だという前に、彼はΩだった。
だが、自分は彼の第2の性を懸念して断ったわけではない。性別に対して、壁を感じていたわけでもない。
ただ、傷付けたくなかった。彼の身体を壊してしまいそうで、怖かった。
大切だから。
「…」
…ちゃう。そっちやない。僕にとって大切なんやなくて、防衛隊にとって、日本にとって大切な存在や。僕なんかが壊したらあかんって、そう思ったから─。
モヤモヤした思いを抱えたまま、今度こそシャワールームへ歩き出した。
コメント
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うわー!テストお疲れさまです!! めちゃくそ良い話で朝から元気がでました!!
テストお疲れ様です!! いや本当に、語彙力が、、、、最高すぎて♡♡♡る( ゚∀゚)・∵. グハッ!!
うはぁ、うへへ