テラーノベル
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あの激動の週末が明け、新しい一週間が始まる火曜日。
洸くんとシフトを変わってもらったあの日から、ピッタリと陸さんのお出迎えも、お誘いも、会うことすら無くなった。
彼なりに何か作戦があって、一度引いてみたんやろか。
よし。いつまでも受け入れてばかりじゃ恋愛じゃないからな。
もとちゃんとのやりとりを経て俺は学習した。感情をぶつけ合ってこそ、自分の気持ちに気づくんやと。
こっちから上手い事駆け引きして、早い事終わらせんと。「待っとけ」とは言うたもんの、いつまでももとちゃんが大人しく待ってるとも思えへんし。
ひとつ深呼吸をして、いつものようにマンションのエントランスへと降りる。
今日はいないのかと、少しホッとして玄関を出ると、久々に、あの端正な姿が目に飛び込んできた。
心臓が少しだけ冷たく跳ねるが、俺は努めて平然を装いながら歩み寄る。
「おはようございます、陸さん」
声をかけると、陸さんはいつもと違って少しだけ肩を強張らせ、どこかバツの悪そうな、迷いのある表情でこちらを振り返った。
「……おはようございます、秀太さん」
その声には、あのBARでの冷徹な威圧感はこれっぽっちもなかった。
「あの……先日は、すみませんでした。しばらくの間、BARでの自分の振る舞いについて、ずっと反省していたんです。あなたをあんなに追い詰めるつもりは……」
いつも完璧な陸さんが、小さな子供のように視線を泳がせて素直に謝罪してくる。
その姿を見て、俺の頭の片隅で冷徹なまでの計算がひらめいた。
……陸さん思いの外ダメージ受けてんのか。
じゃあ、もうちょっと気持ちを下げるような事して、一気に上げたら、俺への本気度もあがるやろ。
彼の機嫌を取って、陸さんの言う通りに動く段階は、もう終わった。
俺だってモテてきたんや。もとちゃんがおる事で恋人の必要性がなくなって、そう言う感情が枯渇していた俺やけど、それまでは、それなりに、いや、だいぶとモテてはきたからな。
その気持ち思い出して、本気でいったらな、「本気になりませんでした」終わり。じゃ陸さんにも失礼やろ。
「いえ、あの日は僕も調子に乗りすぎました。ごめんなさい。それと……陸さん、毎朝の見送りのお気持ちは嬉しいです。でも……」
「これからは……これからも朝は洸くんと電車で二人で行きたいんです」
「……あ、」
BARでの俺と新くんの会話を思い出したかのように、陸さんの目が、驚きで目に見えて大きく見開かれる。
今まで通り、俺が仕方ない顔をして車に乗り込むと思っていたのだろう、明らかな拒絶に、陸さんの端正な顔がみるみる焦りで強張っていくのがわかった。
どうや、これで第一段階は済んだ。第二段階はこれからや。
今度はふっと、わざと柔らかく、思わせぶりな微笑みを陸さんに向ける。
「その代わり──今度、前に約束してたケーキ屋さんに連れてってください。その後、カフェに行ったり……たまにはそういう、普通のデートがしたいです」
「普通のデート、ですか……?」
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#オリジナル
モノクロナツキ
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「はい。だめ、ですか?」
一歩引いてから、相手が一番欲しがっているエサを差し出すように。
陸さんは、俺の突然の甘い提案に完全に魂を持っていかれたかのように「……いえ、喜んで」と照れたように笑った。
「それじゃ、また」
「はい、次はデートで」
そのまま駅へと歩き出す俺の背中を、陸さんがどんな表情で見つめていたのか、振り返らなくてもなんとなく想像がついた。
これは、80%くらいはいったやろ!
一ヶ月ちんたら、偽装恋愛なんてしてる場合じゃない。
俺にはもう、本命の世界一カッコよくて可愛らしい幼馴染がいてるんやからな!
早く気持ちを伝えて、彼と甘いやりとりを心置きなくしたい!
語彙力0で、好き好きちゅっちゅっとかあほみたいにデレデレしながら言い合いたいんや!
なんてったってひっさびさの恋人やからな!
「あ!!俺、陸さんの連絡先しらんわ……まぁえっか!」
朝の少し冷たい空気の中、俺は軽やかな足取りで、駅へと向かって歩き出した。
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