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今日は、天気の良い日だ。
雲ひとつ見えない晴天の日。
窓の外はよく晴れていて、カーテンが少しだけ揺れている。
昨日まで胸の奥に残っていた重さが、ほんのわずかに薄れた気がした。
近付いたり遠ざがっていく足音を聞いていると、その音が俺の方に向かってきている気がした。
ひとつ、間が空いて扉を叩く音が聞こえる。
「……あ、起きとる…………?」
その声は、扉の向こうから少し控えめに届いた。
「入っても、ええかな?」
返事をすると、そっと扉が開く。
顔を覗かせたのは、穏やかな笑顔の男の人だった。
全体的に柔らかくて、空気そのものが優しい。
この人が——みことさん。
「起きてて良かったぁ……」
小さく息を吐いて、安心したように笑う。
「えっと!おれ、みことって言います。
らんらんとかなっちゃんから話は聞いとるよ!」
そう言いながら、俺の様子をうかがうみたいに、少し離れた位置で立ち止まる。
「……近く、行っても大丈夫?」
遠慮がちなその一言に、思わず頷いた。
「ありがとう」
そう言って、ゆっくりベッドの横へ。
「すちくん」
その呼び方が、妙に自然で。
胸の奥が、ふっと緩んだ。
「何も覚えてないって、聞いた」
責めるでも、決めつけるでもない声。
「無理しなくていいからね」
その言葉に、喉の奥が少し詰まる。
「……俺、」
何か言おうとして、言葉が見つからない。
すると、みことさんはふわっと笑った。
「無理に思い出さなくていいよ!」
「おれらな、すちと一緒におった時間、ちゃんと覚えとるから」
胸の奥が、じわっと熱くなる。
「すちくんは……」
少しだけ、言葉を選ぶみたいに間を置いて。
「おれのことも、皆のこともいっつも気にかけてくれたよな」
その時、
頭の中で、何かが小さく弾けた。
並んで立つ感覚。
視線を交わして、息を合わせる。
歌い出す直前の、静かな時間。
「……っ」
シャボン玉が消えるまでほどの短い記憶だったが、それでも充分だった。
「……あ、ごめん……!」
そのみことさんの声に、現実に引き戻される。
「無理させるつもりはなかったんだけどっ、大丈夫……?」
首を縦に振る。
「今の……嫌じゃ、なかったです」
「少し……思い出せた気がしました、」
その言葉に、みことさんはほっとしたように笑った。
「そっか……よかった」
少し照れたように、視線を逸らして。
「おれ、すちくんが隣におると、安心したんよ」
「作業中も、ライブの時も、いつも」
「大丈夫、って、思えた!」
その一言が、胸の奥に静かに落ちる。
安心。
その感覚だけが、はっきりと残った。
「また来てもいい、?」
控えめにそう聞かれて、すぐに頷いた。
「……はい。来てほしいです」
みことさんは、嬉しそうに目を細める。
「ありがとう!」
「また……一緒に歌おうな」
その言葉を聞いた瞬間、
胸の奥で、また一つ、ピースが音を立てた気がした。
失った記憶は、まだ形にならない。
それでも。
俺の隣に、確かに“誰か”がいたことだけは。
はっきりと、分かり始めていた。