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第一章 神ノ黙然
これは忘れられた神の復讐の話-
今夜は流星群が来るらしい。僕はカーテンを思いっきり開き、窓の外を覗いた。しかし窓は雨も降っていないはずなのに不自然に水滴がつき、赤みを帯びていた。僕は不思議に思いながらも夜空を見上げる。何かがおかしい、生臭い。ふと下を見るとそこには水ではない何かが滴り落ちていた。血だ。血の匂いで吐き気が込み上げてきた。僕は恐怖で小さく悲鳴を上げ、咄嗟に窓を閉めた。おかしいおかしい。息も乱れ胸が熱くなる。こんな事があって溜まるかと、僕は震える手でパソコンを開き、ネット掲示板のサイトを押した。
無名
雨も降っていないのに窓が濡れてて生臭かった。それは水じゃなくて血だった何かがおかしい誰か助けて
僕は誤字をしながらも必死に書き込んだ。しかし今は深夜の二時だ。こんな時間に見てくれる人がいるのかと半分諦めていたが数分後、薄暗い部屋に「一つの返信」という通知が光った。
リン
夜中に失礼します。それって近くにガラスの破片落ちてなかった?
ガラスの破片…僕は気になって恐る恐る窓の下を見下ろした。確かに赤っぽいガラスの破片が一つだけぽつんと不自然に落ちていた。
無名
ありました。でもなんで?
そう掲示板で聞き返したがリンさんから返信は来なかった。窓からオレンジの灯りが差し込む。夜明けだ。僕は少しでもいいからとパソコンを閉じてサイドテーブルに置き、布団を被った。
結局僕は怖くて一睡もできなかった。何回もあの現象について調べたが一件もそれらしいものがヒットする気配はなかったのだ。今日は仕事だというのに朝から憂鬱だ。僕は重い腰を起こしておぼつかない足取りでキッチンへ向かい、パンに雑にジャムを塗りながらネットニュースを見ていた。すると一つの記事が目に飛び込んだ。
「佐堂駅、猫により運休見合わせ?」
僕は思わず重かった瞼を開いた。佐堂駅は僕の仕事の最寄駅だ。今日もこれから乗るはずだったが、運休見合わせらしい。記事によると猫が突然線路に飛び出してきたらしい。なんとも運が悪い。僕はふと時計を見てパンを持つ手が止まった。
「いやいや今は昨日のことなんかどうでもいい。仕事に行かないと。」
カチカチと急かすように動く秒針を見つめながら残りのパンを詰め込んで急いで家を出た。
しかしあのニュース、人身事故じゃない分少しはホッとしたが猫でも死んでしまったのは悲しい。とりあえず僕は会社に遅刻の電話を入れ、バスで向かうことにした。
バスには無事に乗れ、僕は一息つき空いていた席に座った。
バスはゆっくり出発し、木々が通り過ぎる。僕は昨日の疲れが足からゆっくり上がってきたように感じ、バスに揺られて少し目を閉じてしまった。
その時
「う、うわああ!!」
突然運転手さんが叫び、思わず窓の外を覗く。そこには何羽ものカラスの死骸が落ちていた。スマホを持つ手は固まり、息を呑む。運転手さん曰くもう死んだ状態で突然落ちてきたらしい。何かが引っかかる。まるで僕の暮らしを邪魔するように不可解なことが起きている。僕は次のバス停で後ろの席に移動し、ヘッドフォンをつけて掲示板を立ち上げた。この時間なら誰かいるだろうと助けを求める一心で書き込んだ。
無名
至急。僕が会社に行こうとすると邪魔するように猫が轢かれて電車が見合わせになったりバスに乗ってもカラスの死骸が落ちてきたり。誰かわかる方いますか?
僕は早く早くと無意識に貧乏揺すりをしていた。思い出す度、鼓動が高鳴り頭が痛む。するとヘッドフォンからピコンと通知音が鳴った。
アカネ
こんにちは、趣味で神話を調べてるものです。それってハイナ様だと思います。
ハイナ様?僕は気になって検索にかけたがやはり引っかからない。ここまで引っかからないのはどうも怪しい。この人が適当に言ってるだけでハイナ様なんて存在しないんじゃないか?僕は不審に思いだしバタンとパソコンを閉じた。
無事に会社に到着し、そこから退勤まで特に奇妙なことは起きず、平和に仕事をすることができた。僕はあの現象たちについて調べるために早歩きで雨上がりの歩道を歩いた。
家のドアに手をかけると謎に水槽のような匂いがした。朝はこんな匂いはしてなかった。そして床に目をやるとそこには金魚が数匹死んでいた。
「う、うわあ!?」
僕は思わず後ずさり金魚を避けて玄関へ飛び込んだ。鼓動が早まる。足が震えて立てないほど驚きと恐怖が混り胸の奥で響いていた。なんなんだ、この現象を引き起こしてるなにかは僕に恨みでもあるのか?僕はどっと疲れて玄関に座り込んだ。
なんとか立ち上がりなにか食べようとキッチンへ向かった。
「ひっ…?!」
僕は腰が抜けて座り込んだ。なんでこんなものが家に…そこには見るに耐えないものがあった。猫の頭だった。僕はどうしようもできず寝室に逃げ込み布団にくるまった。どうしようどうしよう誰か助けて。掲示板に聞く気にもならず僕はひたすら朝まで隠れるように丸まっていた。
またしても朝になってしまった。今日は仕事がないのでまだいいが、今日もあの気味の悪いことが起きると思うと気が気じゃなかった。
僕はあのハイナ様たるものを教えてくれたアカネという人物がまた来てくれないかという思いで掲示板を立ち上げた。
僕は昨日から起きていることを全て書き込み、誰かの返信を待った。すると今日は休日だからか、たくさんの人が僕の体験に返信してくれていた。
リン
それってやっぱハイナ様じゃね?
ガラクタ
>>>リン それな。でもあんま話題にすんじゃないぞ。
話題にしちゃだめ?ハイナ様、その存在をみんな知っているようだ。
無名
この現象を止めるにはどうすればいいんですか?
リン
儀式をしなきゃいけない。でもほっといたほうが身のため。
ほっとけだと?こんな事件まがいの事が起きていてほっとけるわけがない。
儀式…でも踏み込むなと言われたら聞く気が起きない。するとまた返信が来た。
・・・
feuxj03t/9
…なんだこれ?意味不明な文章が謎の人物から送られてきた。すると掲示板に反応があった。
ガラクタ
やばい。
リン
うp主今すぐここ閉じろ。
そう言われて焦ってすぐさまパソコンを閉じた。
なんなんだ。あの意味不明な文章、どういう意味なんだ?僕は意を決してもう一度パソコンを開いた。
無名
僕はどうなってもいいのでその儀式とやらを教えてください。
リン
まじか
ガラクタ
>>>リン どうする?
リン
>>>無名 わかった。教えるけど絶対冗談半分でやるなよ。
こうしてリンさんが儀式を教えてくれるとのこと。
要約するとこうだ。
一、最初に落ちていた赤いガラスの破片に動物の血液を垂らす。
二、そのガラスを白い布で包み、蝋燭を準備する。
三、分かれ道があるところに行き、その真ん中に蝋燭を立て、火をつける。隣に先ほどの包みを置き、「これは私の血ではありません。ハイナ様お返しします。忘れられし神の名をここにお返しします。」これを3回唱える。
四、絶対に振り向くな。
僕はスーパーで鶏肉を買ってきてそこから血を抜き、赤いガラスの破片に血を垂らし、白い布で包んで蝋燭を持った。雨上がりの薄暗い空の中、近所の分かれ道に向かった。ハイナ様が僕を見ている。背後からそんな感覚がして無意識のうちに早歩きになっていた。
僕は蝋燭を中央に立てて火をつける。そして僕は震える声をなんとか抑えようとした声で言った。
「これは私の血ではありません。ハイナ様お返しします。忘れられし神の名をここにお返しします。」
「これは私の血ではありません。ハイナ様お返しします。忘れられし神の名をここにお返しします。」
「これは私の血ではありません。ハイナ様お返しします。忘れられし神の名をここにお返しします。」
僕は背を向けて帰路に着いたが様子が気になって分かれ道を見た。しかし僕は忘れていた。
『四、絶対に振り向くな』
僕はハッと思い出し、その場から逃げるように家へ飛び込んだ。恐怖で押しつぶされそうだった。ハイナ様が来たらどうしよう。僕を連れて行ったらどうしよう。そんな妄想が今夜中頭の中で渦巻いてまたもや一睡もできなかった。
ハイナ様とはなんなのか。僕の胸では明日もハイナ様が脅威を渡してくるだろう。
第二章 再ビノ怪奇
これは、生きたいと願った者を恵む神様、その名をガンマランマ様。そんな神様と生きたいと祈る僕のお話-
禁忌を破ってしまったことが怖くて僕は今日仕事を休んだ。相変わらずカラスや猫の死骸は増えていて僕はもう壊れそうだった。
水は全て赤黒い血の色に変わり、テーブルの上の赤いガラス片は困り果てる僕を笑うように光が反射し、ちらちら光る。まるで「ハイナ様」が僕で遊んでいるように感じた。
すると掲示板の高い通知音が寝室から響いた。僕はベッドに腰を降ろし、パソコンをそっと開いた。そして目に入ってきたのは一つのルーム。
「feuxj03t/9」
ルーム名はあの謎の文章だった。僕は頭を抱えて机に突っ伏した。その時腕に当たったものに目がいった。キーボードだ。何かピンと来た。僕はキーボードのひらがなと謎の文章のアルファベットを結びつけた。そうしてできた言葉に首を傾げた。
「はいなさまをあかめよ…?」
いや違う、「か」を「が」にすると意味が通る。
「はいなさまをあがめよ…ハイナ様を崇めよ?」
僕は掲示板にこのことを書き込んだ。
無名
この前の謎の文章解読できたんだけど「ハイナ様を崇めよ」になったよ?これってどうすればいいの?
そしていつも通りリンという人物から返信が来た。しかしただならない様子だった。
リン
お前それ解読したの?!それはハイナ様を呼ぶ暗号なんだよ!
僕は固まった。リンの焦り具合から本当だと察した。鼓動が高鳴る、今にも張り裂けそうなくらいに。顔が熱くなり、僕は恐怖で放心状態だった。
その時、あのハイナ様を教えてきたアカネという人物から返信が届いた。
アカネ
もうハイナ様は目を覚ました。
それだけが暗い部屋に光るディスプレイに映った。怖い。どうしたらいいのかわからない。僕は間違えたんだ。ハイナ様を呼んでしまった。
画面の奥から見られているような感覚に襲われ思いっきりパソコンを閉じてしまった。
すると部屋の空気が微かに揺れ、背筋に冷たい感覚が走る。
「…ああ、やっぱり…あなたは…」
ハイナ様は、僕をじっと見つめている。いや、姿は見えない。ただ、存在そのものが、視線のようにこちらを貫くのだ。
するとアカネから掲示板に投稿があった。
アカネ
ハイナ様は忘れられた神。人間に構ってほしい寂しい神。儀式を間違えるな。
アカネの言動には何か惹かれるものが隠れていた。儀式を間違えるな…僕は儀式をやり直す覚悟を決めた。
スーパーに行き鶏肉を買ってきて血をとる。そして赤いガラス片、白い布、蝋燭、ライターを持ってあの分かれ道へ向かった。
僕は深呼吸し、昨日の儀式を思い出した。振り向いたことで注意を完全に引いてしまったのだ。今度こそ、正しい手順で儀式を行わねばならない。
赤いガラスの破片を白布で包み、蝋燭を立てる。胸の奥で震えながら、声を震わせて唱えた。
「これは私の血ではありません。ハイナ様お返しします。忘れられし神の名をここにお返しします。」
三度唱え、振り返らずに家路を急ぐ。
後ろでは、かすかに風が笑うような音を立てた気がした。
家に戻ると何事もなかったように静寂に包まれた部屋が広がっていた。窓の血は消え、カラスの死骸も猫の頭も無くなっていた。
掲示板からはあのルームも消えていて謎の文章も削除されていた。
元に戻ったことを掲示板に書き込んだがリンもがらくたもアカネも誰もいない掲示板で僕は一人深呼吸をした。
でも僕は心の奥底で感じた。ハイナ様はまだどこかで僕を見ている。また人間と遊びたがっている。今だけは、満足してくれているだろう。
あとがき
ここまで読んでいただき本当に感謝です。
本作は、日常と非日常、現実と神秘が交錯する世界を描いた短編小説です。
主人公が遭遇するのは、目には見えない存在や儀式、そして神々の沈黙。物語の随所に現れる赤や水滴、流星群などの描写は、読者に視覚的な鮮烈さと不穏さを同時に与え、物語の幻想的な雰囲気を強めています。こちらはリメイク版となりますのでよろしければリメイク前もご覧ください。