テラーノベル
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土曜日の午前中、寝不足の体を引きずってリビングへと向かう。勢いよくソファにダイブすると、俺は無意識のうちに配信アプリを開いていた。
「………やっぱフォローされてる」
一夜明けても、彼のプロフィール欄に表示されている『フォローされています』の文字。
「夢じゃなかったんだ」
小さく呟くと、悶々とした気持ちが広がっていく。
何でフォローしてくれたんだろう。
いつもギフト投げるから?久し振りに配信に行ったから?俺のこと覚えてたから?
「まぁ、とりあえずってこともあるよな」
彼の中で、数回配信に来てくれた人はフォロー返すってシステムがあるのかもしれないし。きっと特別なことではないんだろう。
「やべ……ねむ…」
さすがに疲労が限界に達していたのか、急激な眠気に襲われた俺は、そのままソファで意識を手放した。
「…………ん」
次に目が覚めたのは昼過ぎ。
腹が減ったと体を起こすと、スマホに通知が来ていた。
「……………………えっ」
それは1件のDM。あの配信アプリから送られたものだった。
『ひろぱさん、昨日は配信に来てくれてありがとうございました!!ギフトもすっごく嬉しかったです。
お休み、ちゃんと取れてますか?今日の配信もぜひ遊びに来てくださいね〜!!』
紛れもない、りょっピーからのDMだ。
「え…え?……なんで?」
俺に送ってきたんだよね?これ。
マジで?これ返信して良いのか?
「こちらこそ、ありがとうございました。久し振りに配信観られて楽しかったです」
震える指で文字を打ち込むと、しばらくして返信がきた。
『本当ですか?良かった〜』
「返ってきた……え……俺、りょっピーとDMしてる?」
せっかく寝たのに、もう頭がパンクしそうだ。
しかし、そんな俺の混乱を知ってか知らずか、その日の配信後もDMが送られて来た。
『今日も来てくれてありがとうございました〜!!いつもギフトすみません…無理しないでくださいね!!本当に来てくれるだけで嬉しいので』
もしかして、配信に来ていてフォローしている人みんなに送ってるんだろうか。まぁ、そうなんだろうな。俺だけに送る意味ないだろうし。
しかも、いよいよギフト送る為にアプリに課金し始めてることもバレてる。
「いつも配信で楽しませてもらってるので。気にしないでください。今日も観られて嬉しかったです」
『ひろぱさん良い人…!!そういえば、お仕事って何されてるんですか?』
「会社員です。まだ2年目なんで、勉強の為に色々やらされてます」
『わぁ…大変ですね…。出張とか頻繁にある感じですか?』
「多くはないんですけど、大体若手が行くみたいですね」
まるで、配信の続きを2人だけでやってるような会話。
この日から、りょっピーと個別でやり取りをするようになっていた。
もちろん、変わらず配信には通っている。
『最近、中華料理食べたいなぁって思うことが多くてさぁ。青椒肉絲とか、回鍋肉とか!!』
【青椒肉絲大好き〜】
【めっちゃ辛いエビチリ食べたい】
【りょっピー中華好きなんだ?】
「駅前に新しい中華料理屋できましたね」
『あ、知ってる!!めっちゃ大きいお店ですよね!!そう、あのお店に行ってみたいんですよ〜。辛いエビチリかぁ〜いけるかな?』
ただの雑談配信だというのに、彼に惹かれる人はどんどん増え、今となっては200人以上のリスナーがいる。
そんな中でも、りょっピーは何故かいつも俺のコメントを逃さず拾った。
『今日配信で言ってた中華料理屋さん、行きました?』
「いや、行ってないですね。職場で話題になってたんで気にはなりますけど」
『そうなんだ〜行ってみようかな』
「感想教えてくださいね?」
配信が終われば、DMの続き。
平日も彼とやり取りをするようになる頃には、もしかして俺って特別だったりする?なんてまるでアイドルにリアルに恋する、所謂リアコのような発想に至っていた。
そんなある日の金曜日、俺は幼馴染であり、会社の同期であるヤツと宅飲みをすることになっていた。
「仕事、どうよ?ってか出張どうだった?」
「死んだ」
「ですよねぇ、俺も怯えてたんだけどさ、直前でなくなったのよ。先方の都合で」
「ラッキー過ぎんだろ。お前も同じ苦しみを味わえ」
俺はビールを1缶だけ飲んで、次にノンアルコールのチューハイに手を伸ばした。
あれ以来、酒はもう懲り懲りだと思っていたけど、気の知れた友達と飲む酒は気が楽だ。
「あ、今何時?」
「ん?20時前」
「あっぶねぇ〜セーフ」
俺は慌ててポケットからスマホを取り出す。
「え、なに?」
「推しの配信」
「なにそれ、きしょ」
「うるせぇ」
アプリを開くと、まだりょっピーの配信は始まっていなかった。
「若井推しとかいんの?誰?アイドル?」
「いや、りょっピー」
「……誰それ」
「元貴も一緒に観よ。マジで癒されっから」
ページを更新すると、配信中の欄にりょっピーのアイコンが表示された。
『おぉ〜始めた瞬間みんな来てくれるじゃん!!嬉しい〜ひろぱさんこんばんは〜!!今日もありがと』
画面の向こう側にいるりょっピーに手を振りたくなる気持ちをぐっと堪えてスマホを見つめる。
「え、このひろぱって…」
「俺」
「マジか」
「認知されてる」
「ニヤけんな、キモイ」
一々悪態をついてくる元貴を放置して、俺はいつものように配信に集中した。
『今日晩御飯作ってる時に砂糖と醤油間違えちゃってさぁ』
【え、そんなことある?】
【りょっピー料理するんだ?】
「砂糖と塩じゃなくて…?」
『あれ、僕今なんて言った?そうそう、砂糖と塩間違えたの!!』
物腰柔らかな話方がピッタリな天然発言の数々。ほんわかした空気が、日頃の疲れを一気に癒してくれる。
「……お前毎週これ観てんの?」
「そうだよ」
「へぇ…」
「なに」
「別にぃ?」
俺以上にニヤついた顔の元貴は、残った酒を一気に飲み干した。
『あ!!そうだ忘れてた!!今日はね、ちょっとやりたいことがあって。リスナーさんからね、リクエストもらったんですよ。企画ってやつかな』
そう言うと、りょっピーが一瞬画面から消える。すぐに戻ってきた手には、サイコロが握られていた。
『じゃーん。今からね、このサイコロ3回振るんで、みんなに数字当ててもらいたいのよ』
【何か始まった!?】
【楽しそう】
コメント欄が一気に湧き上がる。俺も初めての出来事に、画面を食い入るように見つめた。
『えっとねぇ、何だっけ?…あ、そうだ、数字1個当たった人は、僕に何でも質問OK。2個当たった人は、なんと僕がフォロバしちゃいます!!それでね、3個全部当たった人は〜』
【もったいない振らないで!!はよ!!】
『僕と個別通話しちゃいましょう!!』
りょっピーはこれでもかと楽しそうに声をあげた。
「……通話」
ぽつりと呟く声は、見事に元貴に拾われていた。
「数字なんにする?」
「えっ……いや…」
「3つでしょ?914で良いじゃん」
「それ何の数字?」
「俺の誕生日」
「なんでだよ…ってかサイコロは6までだろ」
「あ、そうじゃん」
アホみたいなやり取りをしている間に、説明はどんどん進んでいった。
『今日は見てくれてる人が多いから〜10人、数字言ってくれた人をランダムでピックアップするね!!』
次の瞬間、たくさんの数字コメントが滝のように流れていく。この中に本気で通話狙ってる人ってどれくらいいるんだろう。
「ほら、早くしないと10人埋まるよ」
「えぇぇ……」
アルコールでふわふわしている頭を動かして、適当に数字を考える。
『お、めめるさん〜531ね!!ダニキさん、444?え、その数字大丈夫?呪われない?んーと?あ〜なつヒコさん、サイコロだから8はないなぁ〜6までの数字にしてね』
次々と人が選ばれていく中、俺は画面をタップしてコメントを打ち込んだ。
『あ、ひろぱさん〜423ね!!あと3人かな?』
りょっピーが持っているホワイトボードに、俺の名前と数字が書き込まれている。
「おぉ、拾われたじゃん」
「…当たるんかな」
「どうだろ?フォロバくらいは来そうじゃない?」
「ん〜………もうされてるしなぁフォロバ」
「は!?マジで!?」
「うん」
元貴は目を大きく開いて驚いた。
「まぁ、古参の特権ってやつ?」
「え、お前古参なの?」
「多分」
「やば」
なんか、今日だけで元貴にありとあらゆるネタというか、弱味を握られた気がする。
いや、別にりょっピーを推してることは弱味でもなんでもないけども。
『じゃぁサイコロ振っていくよ〜みんな当たるかな?』
りょっピーは手のひらで軽くサイコロを遊ばせ、テーブルに転がした。
『まずは〜4!!…おぉ!!当たってる人結構いる!!次いくね〜……2!!』
あれ、待てよ?
気が付けば、元貴も俺の隣でおつまみを食べる手を止めて配信に見入って居いる。
『じゃぁ最後いくね〜!!……はい!!』
「…うわ」
「………マジか」
彼が握っているサイコロには、3つの黒丸が書かれていた。
『あれ…えぇ!!凄い!!ひろぱさん全部当たってる!!』
ホワイトボードを見ながら、りょっピーが声をあげる。
【ひろぱさんすげぇ!!】
【幸運の持ち主いた】
【おめでとうございます!!良いなぁ〜】
コメント欄にも俺の名前が溢れかえっている。正直、恥ずかしがるべきなのか喜ぶべきなのか分からない程、脳の処理が追い付かない。
『わぁ〜通話当ててくれた人がいるの嬉しい!!ひろぱさん、お話しましょうね〜』
俺だけに向けられた言葉。
ひらひらと振られた手。無意識のうちに、俺もポカンとした表情で手を振り返していた。
「えっと〜…通話?おめでと」
「……え、マジ?これマジなの?」
「知らんよ。お話しましょうねって言ってるからそうなんじゃね」
「え、通話?俺と?りょっピーが?なに話すの」
「知らんて」
好きな食べ物でも聞いとけ、と元貴は再びおつまみを口に運び始める。
配信では、既に数字を1つ当てた人からの質問コーナーが始まっていた。
「へぇ、りょっピー生姜苦手なんだってよ」
元貴が発する声も、どこか遠くから聞こえるような感覚で、俺は今の状況を飲み込むのに精一杯だった。
配信が終わったあと、しばらくしてりょっピーからDMが来た。
『今日も来てくれてありがとうございました!!しかも通話当ててくれたの凄く嬉しいです〜』
「まさか当たると思ってなくて…びっくりしました。でも俺も嬉しいです」
『通話、いつにしますか?ひろぱさんのご都合に合わせます!!』
あ、本当にやるんだ。
今までどこか半信半疑の気持ちだったが、現実だと突き付けられた途端にバクバクと心臓が音を立て始める。
「通話……いつにしよ…」
「え、今やれば?話そうぜ」
元貴はこれまで以上にニヤけた顔で俺を茶化してくる。
「ざけんな。やるなら一人でやるわ」
「なんでよぉ、りょっピー独り占めすんなし」
「馴れ馴れしくりょっピーって呼ぶなや。さっきまでキモイとか言ってたくせに」
「あれは若井に言ったんだよ」
「お前もう帰れよ」
結局、通話は明日の日曜日の夜にすることになった。
もちろん、俺は眠れる訳もなく、元貴と寝落ちするまで宅飲みを続けていた。
ーto be continuedー
コメント
2件

こんな配信者いたら沼に落ちますね 💙さんの心まで奪うなんて流石です
うわっ、通話当てちゃったか…!サイコロ企画でしっかり全部当ててしまうところ、運命感じちゃうなあ。りょっピーからのDMのやり取りも自然で、推しとの距離が縮まる高揚感と戸惑いがひしひしと伝わってきたよ。そして宅飲みで一緒に配信観てた元貴が最後には「独り占めすんなし」って言い出すの、親友あるあるで微笑ましかった(笑)。次回の通話、どうなるんだろう…ドキドキしながら待ってる!
kurara
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