テラーノベル
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客室に戻り、ベッドの端に並んで座った。部屋の明かりを少し落とし、テレビには映画を流している。
僕の手には缶ビール。ひよりさんの手にはノンアルコールカクテル。テーブルには、ホテルの隣のコンビニで買ったチーズとナッツ。それから、さっきのカフェで売られていた、ちょっとお高めのチョコレート。
カフェでの刺激的な空気はどこへやら、部屋には穏やかで心地よい時間が流れていた。
画面の中では、凄腕スパイの主人公と、相棒らしき男が雨の中で激しく言い争っている。隣を見ると、彼女はカクテルを飲む手を止め、妙に真剣な顔で画面を見つめていた。
「……面白い?」
「うん。すごく参考になる」
「参考?」
映画の感想としては、少し不穏な単語だった。
「この主人公と相棒、絶対に相性いいと思うの」
「相性?」
「うん。無自覚執着系の主人公と、強がりな相棒。表情、距離感、視線の逃がし方……全部、BL漫画の作画資料になるよ♡」
「……映画をそういう視点で見てるの?」
「もちろん」
真剣そのものだった。僕は画面の中で銃を構える男たちを見つめながら、どう反応するべきか分からなかった。
(この人、やっぱりズレてる……いや、これが通常運転なんだ……)
「でもね」
ふいに、彼女がこちらを見る。
「映画も参考になるけど、一番参考になるのは陽一さんかな」
「……え?」
「うん。困った顔とか、照れた顔とか、我慢してる顔とか」
楽しそうに目を細める。
「全部、可愛いんだもん」
「…………っ!」
不意打ちに、心臓へ余計な負荷がかかった。彼女はベッド脇のアメニティに視線を向ける。
「あ、ちょうど綿棒あるね」
「綿棒?」
小箱から一本取り出すと、いたずらっぽく笑った。
「ねえ、こっちにおいで」
「……え?」
「お膝、空いてるよ♡」
そう言って、自分の膝をぽんぽんと叩く。
「耳かきしてあげる」
目の前に提示された幸福度が高すぎて、回避コマンドが表示されない。
「……え、いいの?」
「いいの。今日は、陽一さんを甘やかす日だから」
促されるまま、僕は彼女の膝に頭を預けた。
「お客様、かゆいところはございませんか〜?」
「ホテルのサービスとしては手厚すぎない?」
「特別プランですよ♡」
綿棒が、耳の入口にやさしく触れる。
「……っ」
「痛い?」
「いや……くすぐったいだけ」
「そっか。よかった」
ゆっくりと、丁寧に耳を掃除されていく。画面の中では、きっと重要な局面を迎えているのだろう。けれど、今の世界は妙に静かだった。
百済るくあ【colorful】
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#執着
猫とろ
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臣桜
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映画の音。彼女の息遣い。髪を撫でる、やさしい手の感触。それだけで、さっきまで忙しく動いていた頭の中が、少しずつほどけていく。
「……そういえば、昔、たまにこうしてたよね」
「……うん」
恋人だった頃。仕事帰りに彼女の部屋へ寄って、夕飯を食べて。そのあと、膝枕で耳かきをしてもらうことがあった。最初は恥ずかしくて仕方なかった。
けれどあまりにも当然のように僕を甘やかすから、いつの間にか、その時間が自然なものになっていた。
「ゆずが生まれてから、全然してなかったね」
「色々忙しかったから仕方ないよ」
「うん。でもね」
指が、髪をそっと梳く。
「陽一さんは、いつも頑張ってくれてるよね。何も言わずに手伝ってくれるし、ゆずのことも、私のことも、ちゃんと見てくれてる」
「……それは、当然のことをしただけで」
「当然にしてくれるところが、すごいの。だから今日は、私が陽一さんをいっぱい『よしよし』する日なの」
「……よしよし?」
「そう。よしよし」
頭を撫でられる。ちょっと恥ずかしい。いや、ものすごく恥ずかしい。でも――。
「いつもありがとね」
その優しい笑顔は反則だった。どんな小悪魔的なからかいよりも、ずっと破壊力がある。
(……これは、まずい)
身をかがめた時、長い髪が、僕の頬をくすぐった。
「……っ」
次の瞬間。額に、そっと唇が触れた。こちらを覗き込む優しい瞳。少しだけ緩んだ口元。
「ふふっ。固まってる」
「……いや、これは固まるよ」
「甘やかされるの、苦手?」
「苦手というか……慣れてない」
「じゃあ、練習だね」
「練習?」
「うん」
映画はまだ流れている。だけどもう少しだけ、その優しい時間に甘えることにした。
コメント
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ああもう、尊すぎて倒れるかと思った……🥀🤍 映画見ながら「BLの作画資料になる」って言い出すひよりさん、完全に通常運転で笑ったけど、そのあとの耳かきタイムがもうね……陽一さんが甘やかされて固まってるの、こっちまで顔が熱くなったよ。「よしよし」って頭撫でられてるの、見てるだけで泣きそうになる。恋人だった頃の思い出と、今の距離感が絶妙で、静かに沁みた……