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「あの、髪飾りは、コレをお願いします」
ヴィオラは舞踏会の準備の為に、朝からバタバタと準備を始めた。最後の仕上げに、髪と整えて貰う。その際に、ヴィオラは、侍女にある髪飾りはを手渡し、それをつけて貰った。
「本当、お美しいですわ。殿下は果報者ですね、この様なお方と御成婚されますなんて」
侍女は、頭から足の先まで綺麗に着飾ったヴィオラを見て、感嘆の声を洩らす。
「気が早いです。まだ、婚約のお披露目だけですから……」
「いいえ、そんな事はございませんわ。殿下は、今宵のお披露目後、直ぐにでも婚儀を挙げると、皆に申されてるそうですよ」
侍女は、愉しそうにくすりと笑った。
この侍女は、ヴィオラが城にきてからずっと、身の回りの世話をしてくれている侍女だ。大分、仲良くなり……彼女を見ていると、デラを思い出す。昨日までは、デラと話しているようで安心出来た。だが、デラが亡くなったと聞かされた今は、一緒にいるのが辛い。
「ヴィオラ様?如何されましたか……」
顔を曇らせるヴィオラに、侍女は心配そうに声を掛ける。
「いえ、何も……。そろそろ、時間ですね」
ヴィオラは、誤魔化すようにそう言って、部屋を出た。
「レナード様、何故」
部屋を出ると、扉の前にはレナードが待っていた。ヴィオラは、驚いた顔をする。
「勿論、君を迎えに来たんだ。……それにしても、今宵は一段と美しいね」
昨夜のテオドールの言葉が頭を過り、レナードから褒められたが、素直に喜ぶ事など出来ない。
レナード様が、ミシェルとデラを……。
レナードは、ヴィオラの前に跪き手を取ると口付ける。そして、優しく微笑む。
「さあ、行こうか。僕の、愛しいヴィオラ」
「あ、あの!レナード様‼︎」
「ん?どうかした?」
「私、自分で歩きますからっ」
レナードは、ヴィオラをお姫様だっこすると、そのまま大広間へと入場した。無論、広間中の視線を集め、騒めきが起きる。2回目ではあるが、今宵は王太子の婚約者のお披露目とあり、他国からの客人も多数招かれている筈だ。
「それは、ダメだよ」
それなのにも関わらず、レナードは何度言っても、聞く耳を持たない。
「何故ですか」
「だって、君に悪い虫がついたら困るからね。こうしていれば、その心配もない」
予想外の言葉に、ヴィオラはなんて返したら良いのか分からず、黙った。どうしても、レナードのペースに持っていかれてしまう。こんなんじゃ、ダメだ……。
「見目麗しい、お方ですな。羨ましい」
「ありがとうございます」
まさかと思ったが、レナードはヴィオラを抱っこしたまま客人達と挨拶やら話やらを始めた。
ヴィオラは、兎に角必死で笑顔を作った。
冷たく、白い目で見られている……当然だろう。
歩けなかったあの時は、恥ずかしさはあったが、周囲からの視線などまるで気にならなかった。それは、生まれて初めての舞踏会に、浮かれていて何も見えていなかったから。レナードの事も本当に紳士的で優しい人だと思ったのに……。
そういえば、テオドールも舞踏会に出席すると言っていたが。彼は本当に、一体何者なのだろうか。もしかして、舞踏会へと忍び込むつもりだろうか。
それこそ見つかれば、不審者として首を落とされ兼ねない。私なんかの為に、命をかけてくれているなんて……どうして、そこまで。
「レナード、ここにいたのか。こっちへ来なさい」
そんな時、国王のマティアスに呼び止められる。その顔は、呆れているというか、引いているというか……なんとも言えない。
「父上、何かあったんですか」
「…………」
とても、気まずい空気が流れる。ヴィオラは、居た堪れなくなり俯いた。レナードだけは、しれっとしている。本当にある意味、素晴らしい性質だ。
「……話がある故、先ずはヴィオラ嬢を降ろしなさい」
「嫌です」
考える素振りすらせず即答するレナードに、頭を抱えるマティアス。
「今直ぐに、降ろしなさい」
「だから、嫌です」
「降ろせ」
「嫌です」
当事者の自分がいうのも違うが、これがこの国の国王と王太子だと思うと悲しくなってくる。
暫くそんな下らない押し問答が続き、最終的にレナードが折れた。意外だが、マティアスの「降ろさないなら、式は挙げさせない」の一言が効いたようだ。
そして、不貞腐れた顔のレナードは、ヴィオラを降ろすと、何処かに連れて行かれた。