テラーノベル
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夜。
いつもと同じように枠を立て、
さとみはマイクの前に座っていた。
ただ今夜は、胸の奥が妙にざわついている。
「やっほ~」
いつも通りの挨拶。
画面のコメント欄は、
あっという間に流れ始める。
さとみくんこんばんは~!
さとみくん今日何するのー?
さとみくん大好き!
普段と変わらない空気。
けれど、今日は
“話さなければ ならないこと”があった。
「……えっとさ。今日はちょっと、
みんなに伝えなきゃいけないことがあるんだ」
一瞬、コメント欄がざわつく。
え!?
えなに?
まってなに
さとみは深呼吸してから、
静かに言葉を続ける。
「俺には付き合ってる人がいます」
コメント欄が爆発したように流れ出す。
え!?
え?まじいってる?
え夢?
えまってどゆこと
だが、さとみは笑みを浮かべて首を振った。
「彼女じゃない。男。しかも……
お前らもよく知ってる名前だよ」
リスナーが一斉に騒ぎ出す。
男の子?
え誰だろ
リスナーさん?
「……ジェル」
一言。
それだけでコメント欄は嵐のようになった。
えほんとにいってる?
ええ
うそでしょ?
さとみは少し困ったように笑いながら、
画面の外に視線を送る。
そこには、照れくさそうに
手を振るジェルがいた。
「……ほんまに、俺やで」
その声に、さらに大荒れのコメント欄。
えほんとじゃん
なきそう
さとみは苦笑しつつ、真剣な表情を浮かべる。
「驚かせたよな。でも……本気だから。
俺も、ジェルも。だから心配しなくていい」
コメント欄の中には、
祝福の言葉も 混ざり始めていた。
二人で幸せになってね
えまだ信じられない
翌日。
呼ばれて集まったメンバーたち。
「おーい、さとみくーん!
なんか話があるって聞いたけどなにー?」
ころんの軽い声に、その場の空気が和む。
「お疲れさまで~す。
で、さとみくん、何の話?」
るぅとが首を傾げる。
「ねえねえ、俺も気になるー!」
莉犬はわくわくした様子。
「まあまあ落ち着いて。
さとちゃんが話すの待とう」
ななもりがまとめる。
さとみは少し照れながらも、真剣な声を出す。
「……俺、付き合ってる人がいるんだ」
一瞬、その場が静まり返る。
「……は?まじで?」
「えぇ!?」
「ほんとに誰!?」
矢継ぎ早に質問が飛んでくる。
さとみは小さく笑って答える。
「……ジェル」
「……はぁぁぁ!?」
全員の声が揃った。
「え、あのリスナーのジェル!?
毎回コメント欄にいる……?」
ころんが叫ぶ。
「うわ、すご。ていうか、逆にお似合いかも」
るぅとが感心したように笑う。
「いやいやいや、リスナーと配信者とか
危険すぎるでしょ!?」
莉犬が慌てて叫ぶ。
「…ふふ。でも本気なんでしょ、さとちゃん」
ななもりが柔らかく笑う。
「……まあな。あいつも俺に狂ってるけど……俺も同じくらい狂ってるから」
その言葉に、全員が息をのむ。
だが次の瞬間、ころんが吹き出した。
「ははっ、やばぁ! ストーカー同士の
カップルってこと?w」
「うるせぇ」
「最高じゃんww」
笑い声が広がり、莉犬も
「面白すぎるでしょ」と笑う。
るぅとは
「まあ幸せならいいんじゃない?」と微笑む。
ななもりは「二人らしいね」と頷く。
照れくさくも誇らしげに、さとみは笑った。
配信者とリスナー。
本来なら交わるはずのない関係。
けれど、お互いが同じだけ追い合い、
同じだけ執着していたからこそ
こうして堂々と報告できる関係になった。
「……ジェル」
「ん?」
「これからもずっと、隣にいろよ」
「もちろん。俺も、ずっとさとみくんとおる」
二人の声は重なり、もう離れることはなかった
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