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第五話
邸宅の中庭で、私はひとり静かに立っていた。夜風が少し肌寒く、月明かりが庭の木々を淡く照らしている。その静寂を破るように、ふいに足音が聞こえてきた。
「まのん」
低く、落ち着いた声が私の名を呼ぶ。振り返ると、メンバーである蓮が立っていた。鋭い目つきで、じっと私を見つめている。
「こんなところで何してるんだ?」
彼の問いに、私は軽く肩をすくめた。
「少し、空気を吸いたかっただけ。それに…ひとりでいる時間がほしくて」
そう答えると、蓮は少し驚いたような表情を見せたが、すぐに無表情に戻った。
「お前がひとりを好むとはな。煌といつも一緒だと思ってた」
その言葉に、心の奥が少しざわめくのを感じた。兄といつも一緒にいることが、私の立場であり義務だと思っていた。だけど時々、こうして彼から離れて、自分だけの時間を持ちたくなる瞬間がある。
「私も、ただの人間だから。たまには自由がほしい」
そう呟くと、蓮はふっと小さく笑った。その笑いはどこか私を見透かしているようで、少し落ち着かない気分になる。
「まあ、そうだな。お前が思っている以上に、自分は普通の人間なんだと思うぜ」
その一言が、なぜか私の心に刺さった。私は「普通の人間」だろうか?家族や周囲に期待される役割を果たすために、どれだけの自分を犠牲にしてきたか、ふと考えてしまう。
「ありがとう、鶴蝶。話を聞いてくれて」
「礼なんていらないさ。お前が自分の心に正直でいられるよう祈ってるよ」
彼の言葉は静かだったが、私にとっては重みのあるものだった。鶴蝶の背中が遠ざかるのを見送りながら、私は静かに目を閉じ、心に沸き起こる感情を整理しようとしていた。