テラーノベル
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カチカチ、カチカチ…
シャーペンをいじりながら、気づけばまた高瀬先輩のことを考えていた。
「お前、ちょっと涼しいな」――
そんな偶然、あるはずない。そう思いたいのに、脳裏に焼きついたあの声と仕草が離れない。
はぁ…なんだか疲れる。寒いし。
カチカチ、カチカチ……
「寒川〜!お前、ボーッとすんなよ。次、数学の教室移動だぞ!」
山田の声が教室の後ろから響く。
「あ、うん……」
慌ててノートや教科書をカバンに詰め込み、立ち上がった。
「またどっか飛んで行きそうな顔してるな〜」
と原田が笑っている。
「ほら、置いてかれるぞ」
山田と原田が先に教室を出ていく。その背中を追いかけて、僕も廊下に飛び出した。
昼休み明けの廊下は、人の波でざわざわしている。
ちょっと急がないと、前の二人に置いて行かれそうだ。
「待ってってば……」
焦った拍子に、階段の前で足元がふらっとした。
「あっ――」
バランスを崩しかけたその瞬間、誰かの手が僕の腕をしっかりつかんだ。
「大丈夫か?」
振り向けば、少し身を屈めた高瀬先輩が、心配そうに僕を見ていた。
——胸の奥が、またドキドキしはじめた。
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