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⚠こちらは番外編です。先に本編①〜から読んでいただけるとより楽しめると思います。
⚠視点がころころ変わります。
本編から2年後の2人に関する話です。
第1話『否定はしない』
「こゃなぎく……ほんとにおめれとぉ…!」
「……分かったから早く乗れって。」
白い耳のような物が付いた帽子をぽんと撫でて、火照った星導の身体をタクシーの奥へと押し込む。
有り難いことに仕事が山積みの俺と、本格的に天文学の研究を始めた星導。本当に久しぶりに休暇が合って、なんとか2人で食事に来れた。
それでテンションが上がって飲みすぎてしまったのがこのザマだ。明日からまた多忙になる俺は、同じく多忙になるであろう星導を家まで送っていく余裕もない。
「また今度、オフの日決まったら連絡するから。」
「んー…?わかりましたぁ……!」
……本当に分かってるのかこいつ。運転手に星導の住所を教え、俺は歩道の端に立つ。ひらひらと手を振ればへにゃりと笑いながら手を振り返される。その姿に愛おしさが溢れて思わず頬が緩んだ。
というのが、1週間前の出来事。そして今俺の目の前にある週刊誌に載っているのは……。
【熱愛】人気アイドルが派手髪彼女と密会!?
お察しの通り、この「派手髪彼女」とやらは星導だ。タクシーの後ろから撮られたであろう写真には頭を撫でている俺、そして長い髪と帽子のせいでまぁ女性にしか見えない星導の姿が映っている。
メンバーはこれを見てけらけら笑っているが、俺としてはそれどころじゃない。マネージャーや社長には、先ほどなんとか説明して納得してもらえたが……問題は星導と世間に対する対応だ。
星導にはさっき連絡したがまだ既読がついていない。……俺が週刊誌にすっぱ抜かれたことを知ったら、星導はきっと自分を責めるだろう。それを機に別れを告げられる、なんてことは絶対に避けたい。
あと、この記事が出ると知って覚悟していたことだが……ネットは根も葉もない噂で大いに盛り上がってしまっている。俺がどうこう言われるのはいいとして、星導に矛先を向ける声が少なからずあるのが許せない。
そんなことを考えていると、不意に着信音が聞こえた。相手は案の定星導だ。よし、電話に出たらまず謝ろう。それから解決案を考えよう。
「もしもしほしる「小柳くん……俺のこと売ってもいいですよ。」
「……え。」
偶然流れてきたネットニュースに、思わず本を読む手が止まった。いつもは流し見程度にスルーするけど、今回ばかりはそうもいかない。
【小柳ロウ 熱愛】
でかでかと並んだその文字から目が離せない。見て確認しなくちゃという気持ちと、見たくない知りたくないという気持ちで心がぐちゃぐちゃになる。意を決して震える指先でその記事へのリンクをタップした。
「…………………俺?」
ちらりと自分の髪に目線を配り、すぐにまたスマホの中の写真を凝視する。かなり珍しい紫と水色の長髪。……いやこれ完全に俺だな。
理解するとともに安堵の気持ちが押し寄せてきた。それと同時に小柳くんに対する心配の気持ちが募る。この写真だけ見れば、俺が世間の人たちに女性だと勘違いされてしまうのもまぁ納得がいく。急いでメールを開くと、ちょうど小柳くんから連絡が来ていた。
「ごめん。週刊誌に取られた。」
ごめん、か。小柳くんが悪いわけじゃないのに。
事務所はこれにどんな処置をとるんだろう。炎上が落ち着くまで黙秘?それともこれからのために完全否定?
きっと、優しい彼のことだから、俺が1番傷つかなそうな選択をしちゃうんだろうな。俺は小柳くんにも傷ついてほしくないのに……。
そんな事を考えていると不意に、ある解決策が頭に浮かんだ。これなら……ひとまずこの騒動を落ち着けることができるかも知れない。まぁ……小柳くんの事務所が許せばですけど。思い立ったら即行動、俺は小柳くんに電話をかけた。
彼からの謝罪なんて聞きたくないから、開口一番に本題へと入ろう。低くて安心する声が聞こえたと同時に俺は言った。
「もしもしほしる「小柳くん……俺のこと売ってもいいですよ。」
翌日、事務所の方針で作るだけ作って全く動かしていなかった俺のインスタに、1つの写真が投稿された。
全身鏡越しに撮られた2人の自撮り。1人はもちろんアカウントの主である俺。そしてもう1人は……週刊誌に撮られたときと同じ帽子を被り、呑気にダブルピースを決める星導の姿。
星導の顔の部分は、本人の希望によりタコの絵文字で隠されている。……なんでタコ?
俺よりも数cm背が高く、細身だがちゃんと男性らしい骨格のこいつの写真だけでも十分だが……念の為、端的に核心へ迫るコメントをつける。
「男です」
この投稿の効果はばっちりで、インターネットは前までの攻撃的なコメントから一変、俺や星導のことをもてはやすようなコメントが多く溢れていた。
《まぁ……人間なんてこんなものですよね。》
電話越しに星導の声が響く。呆れたように欠伸を漏らした星導に、今さらだが確認を取る。
「本当に……写真載せて良かったのか?」
写真の投稿を促したのは星導だった。仮にも一般人である星導を載せるのは……と渋った俺を押し切り、他のメンバーまで使って社長に交渉するよう説得してきた。社長も、相手がいいなら……とか言って了承した時は本当にびびった。
少しの沈黙のあと、電話越しでも分かるくらい跳ねた星導の声が聞こえる。
《俺は…むしろ嬉しいです。……だって小柳くん、俺の性別は訂正したけど、”恋人”ってとこは否定してないですもんね。》
……バレてたのか。本来だったら投稿に「男友達」とか書いたほうがいいのだろうが、それは星導との関係を無いことにするみたいで嫌だった。
職業柄こんな小さな抵抗しかできないが、それに星導が気づいて、喜んでくれたのならこれで良かったと思う。
《それに……》
星導が言葉を続ける。それは先ほどよりも更に楽しげで、笑いが堪えきれないというような声だった。
《本当は小柳くんが気づくまで黙ってようと思ってたんですけど……今度小柳くんと俺、共演しますよ。》
「……………は?」
第2話『これからも』
「ゲスト様」と書かれた楽屋の前で立ち止まること15分。そろそろ通り過ぎるスタッフたちの目が痛いので中に入りたい……そんな想いを込めて3回ノックをする。
今日はとある番組の撮影日。各回のテーマに合った専門家と旬の俳優や芸人が送るクイズバラエティー……っていうコンセプトだった気がする。
バラエティー慣れしているマナではなく、何故俺が抜擢されたのかは謎だが……それより謎なのは星導が出演するということだ。確かに今回のテーマは”星”だった。でも、「お世話になっている教授に代役を押し付けられた」とか……こんな偶然あるのかよ!!
「小柳くん!入っていいですよー!」
そんな声が聞こえたので迷わずドアを開ける。中にいた星導は、いつも下ろしている髪を上品に結っていて、芸能人だと言われても違和感がないほどのオーラを纏っていた。
番組側が用意したであろう黒っぽいシャツとフォーマルな上着のシンプルさが、より星導の元の素材の良さを引き立てている気がする。
「わ!小柳くんかっこいいですね…!」
お前がな…?という言葉を寸前で飲み込む。「どうゆう関係?」とでも言いたげにこちらを眺める他の専門家やスタッフの目線も気にせず、いつものようなマイペースさを見せれる星導が羨ましい。
「そろそろ収録時間だから。ほら、場所分かんないだろ?行くぞ。」
居心地が悪いこの場所から去るためにそう促す。星導はゆらりと立ち上がると、髪をセットしてくれたであろうスタッフにお礼を言ってから俺の方へと向き直った。
2人でスタジオまで歩くうちに、不意に星導の手が俺の手に触れた。そのままきゅっと絡められて、咄嗟に空いてる方の手で引き剥がす。
「……誰かに見られたらどうすんだよ。もう週刊誌の時みたいには誤魔化せないぞ?」
「それは……ごめんなさい。でも俺、今すごい緊張してるんですよ?ちょっとくらい安心させてくれてもいいじゃないですか!」
星導がいじけるように頬を軽く膨らませる。正直手だって繋いでいたいし、なんならこのまま連れて帰りたい。でも、それが起こしうるリスクに比べてしまうと……我慢せざるを得ない。
「今度2人きりのときに……な?」
不満げに返事をする星導を連れてスタジオへと入った。多少は現場慣れしている俺が!と思い、いつもより少し大きめに挨拶をした。
「よ、よろしくお願いします。」
少し上擦った星導の声に思わず笑いそうになるが、現場の空気がいつもと違うことに違和感を覚え視線を動かす。現場監督、ディレクター、スタッフや出演者など……この場にいる全員の視線が星導へと向いている。その中には思わず見惚れてる人や、まるで品定めでもするかのような目つきの人もいた。
「星導、台本忘れたから見せて。」
「えぇ!?何やってるんですか……!」
もちろんこれは嘘なのだが、今の状況で星導を一人にするのはあまりにも不安だ。星導に近づこうとしたが、隣にいる俺に遠慮して離れていく人たちの羨望の目線が突き刺さる。
始まらなければいいのに、なんて思っても時間は無慈悲なもので、現場監督が周りに指示を出し始める。専門家枠の星導とはちょうど反対の位置に座るように俺は指示を受けた。そうして流れるように番組収録が始まった。
番組収録は比較的順調に進んでいる……と思う。何もこんな機会初めてだから相場というものが分からない。とりあえず台本にある通りの出番に喋って後は適当ににこにこして過ごしていたが……とにかく疲れる!
小柳くんはいつもこんな大変なことをしているのか……なんて思っていれば不意に話しを振られた。
「ところで……気になってたんですけど、星導さんて小柳さんのインスタに載ってた方ですよね?」
うわ……覚悟はしてたけど本当に聞かれちゃった。盛り上がる周囲の人を背に、得意げな顔をする売れっ子芸人さんに何とか愛想笑いを返す。
「はい、そうです。小柳くんとは元々知り合いで……」
事前にこう言えと指示されていた事を、さも今考えたかのように言う。ちらりと視線を向ければ、俺に見せるような柔らかい笑顔とは違う、氷のような微笑を浮かべている彼がいた。ちょっと小柳くん、殺意漏れてるからしまってね。
長引きそうなのを察した現場監督さんが早めに切り替えてくれたのがせめてもの救いだった。番組自体の撮影は終了し、今回の出演者の告知ターンに入る。
小柳くんが宣伝してるCDは、もちろん既に購入&視聴済みです!サビのメロディーが良かったな、とか小柳くん衣装似合ってたな、とか考えていたら急に後ろから声をかけられた。
「あのー。」
振り向けば、今話題の美人清純派女優!……と紹介されていた人がいた。
「星導さんって、◯◯のライブハウスに通ってましたよね?」
予想外の言葉に思わず挙動が止まった。え、待ってください、なんでこの人が……?
「私もそこでライブしてたんですよ〜!✕✕っていう6人組のグループで……」
懸命に記憶をたどるが全く思い出せない。 ライブハウスの女性アイドル六人組?
…………あ!!思い出せた!初めてライブハウスを訪れた時に小柳くんの次に曲を披露してたグループの一人だ!奇跡的に2年近く前の記憶を引っ張り出せた俺を褒めてやりたい。
「あー……なんとなく覚えてます。あなたこそ、一観客のことよく覚えてましたね。」
「だって星導さんかっこよかったから……。」
彼女の腕が俺の腕に絡められた。……清純派って紹介されてた方ですよね??何とか自然を装って腕を外そうとするが、思ったよりぐいぐいこられて距離をとれない。
まずい。こんなとこ小柳くんに見られたら……
「おい。」
怒気を孕んだ低い声が背後から聞こえる。その声に反応し緩んだ腕から逃れ、ぱっと振り向く。不機嫌を前面に押し出した彼の表情は、初めて会った時のことを彷彿とさせた。
「小柳くん!楽屋戻りましょ……ね?」
俺のせいで小柳くんのブランディングを傷つける訳にはいかない…!と思い甘えたような声で彼に問いかけた。彼女を一瞥した後、小柳くんはこちらへ視線を戻しいつものように笑った。……いや違う、目が笑ってない。
関係者各位に挨拶をし、2人で足早にスタジオを去る。そのまま彼について行くと「小柳ロウ様」と札のある楽屋にぐいと引き寄せられる。そして部屋に入るやいなや、小柳くんは俺を強く抱きしめた。
「こ、小柳くん!?こういうのは外ではしないってさっき言って……!!」
「うるさい。」
彼の唇が齧り付くように重なった。さっきは手を繋ぐのも拒否られたのになんて理不尽!と思いながらも喜んでしまっている自分は、つくづくこの人が好きなんだなと思う。
角度を変えて幾度も唇が重なり、俺の方からも控えめにキスをすれば、満足げに頭を撫でられた。やっと唇が離れたので、薄々感じていたことを本人にぶつける。
「もしかして、小柳くん嫉妬してます?」
「いや……?」
分が悪そうに視線を逸らす彼にやっぱりな、と思う。いつもよりどこか落ち着きのない彼が気になっていたのだ。彼の首をゆるく引き寄せ、こつんと額をぶつけた。
「俺はずーっと、あなた一筋ですよ。」
しっかりと目を見てそう言えば、彼の不安に揺れていた瞳が安堵したように細められる。再び互いの唇が重なれば、俺の心の中は言いようのない多幸感で満ちていった。
きっとこの先の未来で俺たちにはいくつもの壁があるだろう。でも、あなたとなら乗り越えられるって、確証はないけどそんな気がするです。だから
これからもよろしくね、小柳くん。
スクロールありがとうございました。
以上をもちましてめちゃつえーアイドルパロ、kyng&hsrb編は完結となります!
また他のメンバーについての話なのですが……
①kyng&hsrb編が綺麗にまとまりすぎてしまった。
②アイドル的要素をほぼ全部盛り込んでしまった。
という点から、続きを書くのが若干難しいかなと思っています😢一応、現在hbc&inm編の内容を考えてはいるのですが……投稿するとしてもかなり先になりますし、没になる可能性も大なのであまりご期待なさらず🙇♀
最後におまけです↓
本編②のとあるシーンです。めちゃ画質悪いですね…。
kyngさん(通常髪型+アイドルパロボイス衣装)
hsrbさん(通常髪型+お料理ボイス衣装)となっています。
この小説を読んでくれて本当にありがとうございました🙇♀🙇♀
コメント
8件
あぁぁぁ!!なんて素晴らしい…最後の素敵なイラストに開いた口が塞がらないです…! というか逆に2年も隠し通せていた二人凄いな 笑
本当に最高でした😭✨