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最後の夜。
ベランダで煙草を吸う私の元に京之介くんがやってきた。
外は蒸し暑く、虫の鳴く声がする。
京之介くんに煙草を勧めるが、首を横に振って断られた。
部屋の中の鞍馬を見ると、裸のままベッドでぐっすり眠っている様子だ。
「――後悔してへん?」
月明かりに照らされる京之介くんの顔は、美しいという言葉がぴったりなくらい、絵みたいに整っていた。
「放っておいても京之介くんは死んでたでしょ。」
薄々勘付いていたことを指摘すると、京之介くんは否定も肯定もしなかった。
手元のライターを開いたり閉めたりする音が夏の夜のベランダに響く。
「私は置いていかれたくないし、置いていくこともしない」
「瑚都ちゃんは俺らを救うために自分を犠牲にしたはるように見えるけど」
自己犠牲?そうかもしれないね。私は死という形で鞍馬と京之介くんの全てをこの身で受け止めようとしているのかもしれない。
でも、それだけじゃないと今なら言える。
「私はあの夏死ぬべきだったんだよ」
京之介くんに死ぬべきだった夏があるように。
目を閉じれば今も思い出す。泣き喚く幼き日の自分と、遠くで怒鳴る京之介くんと、土手で泣き崩れるお姉ちゃん。
そして、いくら目で探してもどこにもいない、消えてしまった男の子。
毎晩のように夢に出て私を苦しめたあの男の子。
思えば、あの夢を見なくなったのは、鞍馬と再会してからだったな。
ゆっくりと目を開いて、京之介くんの手を握った。
「……京之介くんと一緒ならどこだって怖くないよ」
だって私が水の中で迷子になりそうになっても、きっと手を引いてくれるでしょう。
「瑚都ちゃん」
京之介くんが私の手を強く握り返した。
「俺のことを置いていかんでくれてありがとう」
京之介くんが私から煙草を奪い、強引にキスをして口を塞いだ。
幸せな、私たちがした初めての本物のキスだった。