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僕はずっしりとした足取りで
教卓から真正面に座る彼女の元へと向かった。
── 大喜多にちか。
ここにいるクラスメイトの中で1番人当たりが良さそうな印象だ。
超エリートの名前しか上がらない「 英才学園スレ 」で5本指に入るほどの人気を誇っていたのをよく覚えている。
正直…死ぬほど緊張している。
心臓が口から飛出そうとは、こういう時に使う表現なのだろう。
教卓の目の前の席に腰掛ける彼女に僕は勇気を振り絞って声をかけた。
いきなり呼ばれて驚いたのか、少し眠そうな目を擦りながら、でも朗らかに明るく僕の声に返事をする。
「 はっ…!?えっと、名前なんだっけなんだっけ…待ってね…絶対言わないでね!?」
必死そうに頭を抱えながら僕の名前を思案する。どうやら人の名前を覚えることが得意らしい。いきなりクイズ大会になるとは思わず、僕も驚いてしまう。
「 大喜多絶対覚えてる…!!当てれる自信あるもん!!」
頬杖をついては、体制を変え、
また頬杖をして、と相当参ってる様子だが
諦めるような素振りはどこにもない。
しばらくして、雷でも落ちたような表情に突然変わり自信に満ち溢れた、ニヤつきが漏れた顔で勢いよく僕に指を指す。」
「 新くんでしょ!?!」
「 う、うん!僕の名前で合ってるよ…!!」
「 良かったあ…外してたらどうしようかと思っちゃったよ〜 」
いやあ、参った参った、と続けてつぶやく彼女。…当てている時点で彼女の勝ちで間違いは無いとは思うが。
「 職業病っていうの〜?先輩とか共演者さんの名前間違えたら、もうそれはそれは鬼のような形相で………」
頭に左右の手で作った角をそえて
僕に威嚇してみせる。
その恐ろしさ伝えたかったようだが、
正直言って怖さはあまり伝わらなかった。
思わず軽くこてん、と首を傾げてしまう。
「 た、大変なんだね………」
と、よく分からず雑な相槌を打ってしまい申し訳なくなる。ただ家でゆるく小説を書いているだけの僕には見ることの出来ない世界だ。想像力も上手く働かなかった。
そんな僕の顔をみて焦ったように彼女は口を開く。
「 ってごめんごめん!!職業病とか言ってたけど自己紹介してなかったよね!? 」
「 わたしは超高校級のフードファイターの
大喜多にちか!! 」
「 改めてよろしくね!新くん!!」
太陽の化身をも思わせるハツラツとした
自己紹介に思わず僕はたじろいでしまう。
──大喜多にちか。
彼女の名乗り通り、
超高校級のフードファイター。
アイドルのような容姿からは想像が出来ないほど大食いで早食いらしい。
なんてったって…ラーメンにおいてはこの若さで 世界王者‥‥。
底知らずの胃なんて言われることもあるのだとか。正直、沢山食べているところなんざ全然頭に浮かばない。
「 こ、こちらこそよろしく…にちかさん!」
精一杯の大声で返すもなんだか
慣れないことをしているからか変なカンジがした。
「 うんうん…!いい挨拶だよ新くん!!これなら、きっとフードファイター界でも生きていけるよ…!! 」
「 べ、別にフードファイターとして生きていくつもりは無いんだけどな…… !?」
思わず反射的に突っ込んでしまう。
これが芸能人……テクニシャンすぎるだろ。
そして、先程までのぼそぼそとした口調とは違い、大声ではっきりと話してしまったことに気づき口を抑える。
…やってしまった。
ネットのコメント欄とは違うんだよ、
日常会話は……と自分自身を強く叱る。
彼女はそんな僕を不思議そうにこちらを見ている。……ああ、失敗したな。
僕の思わぬ発言に目をまるくしたかと思いきやころころ鈴が鳴るような声で笑い転げた。
「 あっはははは…!!ごめんごめん……新くん、なんかやっぱり思ってたのと違って。ふふ…!」
涙を流しながら机を軽くバンバンと
叩いている。
「 どういう意味です……?! 」
少し眉をひそめて先程と同じ勢いで
突っ込んでしまう。
「 褒め言葉だよ!褒め言葉…!こんな面白い人だとは思わなくて……ふふ、話せてよかった!! 」
「 改めまして…!よろしくね、新くん!」
…褒められているのだろうか、
何だか物凄く全身が痒い……。
体の熱が急激に上昇しているような気がする。恥ずかしい、きっとそういう気持ち。
同年代の女の子と話したのはおろか、
褒められることなんてこの16年の人生ではじめてかもしれない。
僕は少し照れくさそうに、
「 …こちらこそ。 」
と呟いた。
彼女の笑顔が眩しかった。
さて、次は誰に話しかけようか。
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