テラーノベル
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こういうタイプのお話は、作ったことがなかったので、3日間で一気に走り抜けました…
それと、かなり長めのお話になっています💦
そして、キャラ崩壊があります…!!
来馬軸❌
kgmさんとkidさんの職業が違います!!
後、kgmさんの一人称が俺です…!!!!
そして、めっっちゃ長いです…1万文字を突破しています…
それでもよろしければ、ぜひ🙌🏻💖⬇️
出来心だった。
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仕事で上司に理不尽に怒られて、終電逃してホテルに泊まって、そのまま仕事行って、終わった時、明日から久しぶりに、何も予定のない休日が始まると思っていた。久しぶりに、自宅の布団でゴロゴロできると思っていた。
何も予定のない休日、仕事用のスマホが鳴った。
電源を切りたい所だが、そんな事した暁にはこちらが職を失ってしまう為、それはできない。
俺は、その電話に出た。内容としては、「急な仕事が入って、人手が足りないから来て欲しい。」というもの。
俺は、癖でそれを了承した。
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休日出勤を終え、時計を見れば午後5時。何をしようにももう時間は無い。
休日も碌に休めない。平日も勿論残業ボランティア。
俺は、死ぬまでこの生活をしないといけないのだろうか。
家に帰って、スーツのままベッドに飛び込む。
蓄積された疲労で、俺はそのまま眠りについた。
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雨の音で起きた。
時計を見ると、午前4時。「変な時間に起きてしまったな。」と少し反省する。
だが、今日は日曜日。別に変な時間に起きてしまったって、なんのダメージもない。
雨で濡れた窓を見つめる。つーっと一粒、下に落ちていく。何か遮るものがないと、あの一粒は、間違いなく重力に従って下に落ちてしまう。
俺だってそうだろう。
仕事という重力に従っているから、傷が治らず今でもじくじくしたままなのだ。
全て雨で洗い流せれば、どんなに良いか。
そう思った途端、俺は昨日から着ているスーツのまま、傘もささず、裸足のままで雨空に出た。
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雨の中、傘もささず、裸足のままで、歩いていく。一歩一歩歩く毎に、足元からピシャッ、ピシャッと音がする。
うるせぇ、黙っとけ。
でも、とても心地良い。最初は煩わしかった雨音も、今では外出BGM。気分が上がって、スキップなんてしてしまう。
スーツ、高かったのにな。帰ったらすぐ洗わないとな。
なんて、どうでもいい事を考えてしまう。
もう良いんだ。人生捨てちまえ。仕事なんか辞めちまえ。いつかは辞める気だったんだ。
それが今日になるだけさ。
俺は、上司に電話をし、捨て台詞。
「今までお世話になりました。私は、今日で退職します。」
返事も聞かず切った。
いつも、部下の俺に八つ当たりしてきた上司に、最後くらい暴言を吐きたかった。全部吐露したかった。
だが、それが俺にはできなかった。俺は、仕事に塗れた駒だから。
今俺の頬に伝うのが、涙なのか雨なのか、多分周りは気づいていない。ただでさえ、裸足のサラリーマンが傘もささずにスキップしている所を目撃して困惑しているだろうから、泣いているか泣いていないかなんて、気づく人の方が少ないと思う。
建前、十割雨。
本音、七割雨、三割涙。
上を見上げると、分厚い雲が俺を濡らしているのが分かる。ぽた…と、俺の頬に当たる。湿らす、伝う。
思ったより温かかった。
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歩き始めてから、どれくらい経っただろうか。
行く宛もなく、ただひたすら歩いていたら、全く知らない場所に着いたわけだが、この後どうしようか。
「あの…どうかしましたか?」
誰かに声をかけられた。
「…え?」
「家とか…分かりますか…?」
まぁ、普通はそういう反応になる。裸足×スーツ×傘無しは、記憶喪失とか何とかを想像するだろう。
「…分かります。大丈夫です。」
「ではどうして…」
「何もないです。気にしないで下さい。」
「それは…できません!」
「それより、ここはどこですか?」
「はぐらかさないで下さい!!」
「どこですか?教えてください。」
「…〇✕町です。」
「…え、嘘。」
〇✕町とは、俺が住んでいる市の隣にある町だ。徒歩30分ほどあるが、そこまで俺は歩いてきたのか…
「どこから来たんですか?」
「えっと、隣の✕△市です…」
本当なら、仮にも初対面なのだから、良く知らない人に住在地を言うのはあれだろう。
ただ、この人になら言っても大丈夫だと、何故か思ってしまった。
「えぇ…!?徒歩でですか?」
「はい…」
「どうして?!」
「それは…」
「あっ…すみません。気にしないで下さい。僕達、初対面ですもんね。」
「嫌になったんです。このままの生活を続けていくのが。」
「…!!」
その人は最初は驚いていたが、すぐ真剣に俺の話を聞いてくれた。
「じゃあ、座ってお話しましょう?」
その人は、近くの公園のベンチを指さして言った。
俺は吸い寄せられるように、ベンチに凭れかかった。ベンチも、雨の所為で濡れているのに。思ったより、歩いた疲労が溜まっていたのか。
俺は、話を進めた。
「俺が勤めてるのが、ブラック企業で…昨日も急に呼び出されて…休日なのに。」
「それは大変ですね…」
「俺、その会社に就職して、今年で4年目なんです。3年間、ずっと残業代は出ないけど残業して、休日出勤もちらほらって感じでした。」
「…」
「でも、辞めたいと思わなかったんです…いや、思えなかった。その、発想すら出てこないほど、俺はその会社にこき使われてたって事ですね。」
「…」
「…笑ってください。」
「え?」
「哀れな男を…笑ってくださいよ…いっそ、大きな声で。」
「…なんで、そんな事言うんですか?」
「え…?」
「笑えないですもん…今まで、たっくさん頑張ってきた人に向かって。」
「…頑張っ…てた?」
そうか。ずっと俺は、頑張ってたのか。
「そうですよ!僕が想像できないくらいたっくさん!」
「…」
温かい。雨粒とはまた違う、人の温もり。触れずとも、この人をよく知らずとも分かる、この人の優しさ。
「…!??!泣いてるんですか…?!」
「な、え…?泣いてる?」
「気づいてないんですか?!」
周りは、誰も気づかないと思っていたのに。
万が一、雨の中で泣いてしまったとしても、涙だって、分からないと思っていたのに。
この人には、分かってしまうんだ。
「…お腹減ってませんか?」
「え?」
「僕の家、飲食店なんですよ!」
「でも、財布とか持ってませんし…」
「お金貰おうとなんてしませんよ!特別にタダでいいですよ!!」
「そういう訳には…」
ぐぅぅ…ぎゅるぎゅるぅ
「「…ぷっ、あははははっ!」」
「恥ずかしい…⸝⸝」
「ふふっ、こんなにお腹が減っている人は、見過ごせないですね。」
その人は、子供のようにはにかんで笑っていた。
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「お邪魔します…」
「どうぞどうぞ!」
老舗のいい雰囲気の飲食店なのに、人が一人も…
「今、「飲食店なのに、誰いないなー。」って思いました?失礼なっ!今日は休業日なんですぅー!」
「あっ、そうなんですね。」
「ほんとに思ってたんですね…?!」
「すみません笑」
その人は、拗ねたように頬を膨らませ口をとんがらせて、腰に手を当てている。
さっきまでにこにこしていたのに、この人は表情がコロコロ変わって、見ていて面白い。百面相って、こういう人の事を言うんだな。
「また失礼な事考えてませーん?」
「考えてないですよ?」
人とこんな他愛のない話をしたのは、いつぶりだろうか。最近話した事と言えば、「A社の株価がどうとか」「うちの株価がどうとか」みたいな、汚れた話しか聞いていないな。
こんなにも楽しいのか、人と話すのって。
「まずは、びしょびしょの服をどうにかしましょう!脱いでください!」
「…!?」
俺は、反射的に自分の体を手で隠した。
「いやいやいや!そういう意味じゃないですから!!」
「冗談ですよ。」
「冗談かよ、びっくりさせんな…!!」
…揶揄うのも良いな。
「取り敢えず、それ脱いだら、この籠に入れといてくださいね。洗いますんで。その間に、お風呂入っちゃってください。」
「そんな…」
「あなたは疲れてるんですよ。だから…こんな、高そうなスーツで、濡れてここまで歩いてきたんでしょ?」
「…」
「しかも裸足で。」
「…あっ。」
そうか、靴…履いてなかったのか。忘れてた…
「痛くなかったですか?アスファルトとか。」
「いや…」
「本当ですかぁ?僕に見せてください!」
その人は、俺を風呂場で座らせて、足の裏を見た。
「血は出てないですね…でも、薄皮が剥がれちゃってます。お風呂入ったら、薬を塗りましょう。」
「こ、こんな…至れり尽くせりで…良いんですか…?」
「…!?…良いんですよ。そうじゃないと、世間の暇人と、頑張り屋のあなたとの差が広がっちゃうでしょ?」
「…!?」
「…今まで頑張った分、せめて今日はゆっくり休んでください!」
「…甘えて、いいんですか…?」
「はい、いいんですよ。」
「…お風呂いただきます。」
「ふふっ、どうぞ。」
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久々の湯船は、誰かに抱きしめられているように心地よかった。
気分が上がって鼻歌を歌った。
…そうだ、俺は音楽が好きで…フェスとか行ってたりしてたんだったなー…
最近は特に忙しくて、フェスも行っていないし、音楽自体、自然と聴いていなかった。
「好き」とか、「楽しい」とかって、思ったより忘れてしまうものなんだな。
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しっかり温まった後、風呂場から出ると、着替えらしきものが置いてあった。服のサイズはちょっと小さい。確かにあの人も、身長は俺とそんなに変わらない。
洗面所の扉を開けると、台所に立っているあの人がいた。
「あっ、おかえりなさい。」
「た、ただいま…?」
「ははっ…あの、聴こえちゃったんですけど…さっきの鼻歌って…✕✕ですよね…?!」
「え…知ってるんですか?」
「はい!僕も好きで、良く聴いてるんです!」
「私は…」
好きなのに、最近聴いてないのは…変かな?
「?」
「…良いですよね!」
「…ご飯できましたよ。好みが分からなかったので、色々作りました!」
「美味しそう…」
餡がたっぷりかかった天津飯、たねがぎっしり詰まっていそうな餃子、大きいエビが和えてあるエビチリ等々…どれも美味しそうだ。
「中華料理店なんですね。」
「はい!両親が、中国に行った時に中華料理の美味しさに驚いて、「自分達も作ろう!」って!」
「美味しいですよね。」
「…..苦手なものとかありますか?!」
「…?いや…この中にはないですね…」
「では、好きなだけ食べてください…!僕は、明日の営業の準備してますんで、何かあったら、何でも言ってくださいね…!」
「…はい…?」
何か…おかしい。
「あの、」
「はい?」
「何か…ありました?」
「…僕のことはいいから。あなたは、自分の事だけ考えて下さい。」
「…でも、」
「大したことじゃないですから…ご飯食べ終わったら、足の裏に薬塗りますからね。」
「…」
大したことじゃなくても、それでも、聞く勇気が無かった。
絶対に何かあるはずなのに、大したことじゃない訳ないのに。
「…名前とか、聞いてもいいですか?」
「…甲斐田晴です。あなたは?」
「…加賀美隼人です。」
「加賀美さん、気なんて遣わなくて良いんですよ?」
「あ…すみません。」
後ろで、食器の音がする。その音だけが、空気に充満している。
「…俺、さっき仕事辞めてきたんです。」
「え…?」
「外出てすぐ、電話で「辞めます。」って。」
「…」
「なにか、モヤモヤしているなら、思い切って断ち切ってしまうというのも…一つの手かもしれませんよ…?」
「…」
甲斐田さんは、ゆっくり俺の方に近づいて、俺の隣に座った。
「加賀美さんの話はこんなに聞いてるのに、僕の話はしないのは、フェアじゃないか…長くなるかもしれないけど、聞いてくれますか…?」
「…はい。」
「この店は、僕の両親が始めた店なんです…でも、その両親が、この前他界してしまって…僕の弟は、この町には住んでいないし、他に家族が僕しかいないので、僕がこの店を継ぐことにしたんです。弟からは、定期的にお金を貰っています。「手伝えない代わりに!」って…いいのに笑」
「でもやっぱり、こんな古い店のバイトをしようとする人はいないんです。その代わり、皆ここに通ってくれて…本当に助かっているんですけど…でも、最近見かけてなかった、元常連さんに会った時に、「まだやってたんだ笑」って言われて。」
「小さいことだけど、僕、すっごい腹が立っちゃって…「できる限り残していきます。」って言い捨てちゃって…」
「…」
「でも、本当は…一人で営業するのとか大変すぎて嫌だし、「畳もうか。」と思った時もありました。でも、常連さんに相談すると、「それはダメだ!」って…「じゃあ、手伝いますか?」って言ったら、「それとこれとは違う。」って…」
「…」
「「違うってなんだよ。違くねぇだろ。」って、思ってしまって…何を優先すればいいのか、分からないんです…「自分」なのか、「家族」なのか、「常連さん」なのか…」
「…甲斐田さんは、どうしたいんですか?」
「…え?」
「もう、辞めたいですか?」
「…何を?」
「何でも。」
「…」
甲斐田さんは、困った様な顔をした。
俺は、取り箸でエビチリのエビを掴んで、甲斐田さんの口に運んだ。
「一緒に食べませんか?一人より、二人の方が良いですよ、きっと。」
「…!?ふっ…」
エビチリを咀嚼している甲斐田さんの瞳から、一粒涙が零れた。俺は、あの時家の中で見た雨で濡れた窓の、あの一粒を思い出した。
重力に従って、その涙は、強くズボンを握った甲斐田さんの手の甲に落ちた。
「一緒に決めたらどうですか?弟さんと、常連さん達と。」
「…」
「あなたも私も、大概一人で抱え込むタイプですね。」
「…!?」
そう言って、笑ったのはまずかったか…?
甲斐田さんの驚いた様な顔を見て、俺はそう思った。
「…簡単な事でしたね。色んな人に聞けばいいのに…」
「俺も、簡単な事…退職ができなかったですから。でも…何かきっかけがあれば、本当に簡単にできましたよ?」
「…ありがとうございます。」
「…甲斐田さんが、俺にしてくれた事をしたんですよ…こちらこそ、ありがとうございます。」
俺は、甲斐田さんに深々と頭を下げた。
「…!?顔を上げてください!あなたの姿が自分と重なっただけで、僕そんな大層な事してません…!!」
「しました。雨の中から、俺を救ってくれた。」
「…」
「雨が降っているのを見て、「全部洗い流せたら」って思ったんです…でも、流せなかった。確かに気持ちよかったけど、スーツは濡れるし、足は痛いし…やっぱり、人の温もりなんでしょうね…人を助けるのは。」
「…僕も、雨を見て、思った事があるんです。いつか、一回くらいは…傘をささずに外を出てみたいって。」
「…」
「一回やったことがあります。加賀美さんみたいに、傘ささないで、寝巻きのままで。外に出た瞬間、弟に止められました笑「おじいちゃんみたいだ。」って言われたんです…..また行きたいなぁ…」
「…」
甲斐田さんは、まっすぐ窓の外を見ていた。雨は、さっきより弱まって、小雨になっている。
「なんか…神様から…ご加護を頂いているような…雨で浄化されて、極楽に行けるような…そんな感じ。」
「…」
甲斐田さんから紡がれる言葉は、汚れがなく綺麗だった。
「まぁ、一緒にご飯食べましょうか!冷めちゃう冷めちゃう!」
「…ですね。」
いつか、甲斐田さんと、雨の中を歩けたら…
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「「ご馳走様でした。」」
「お味はどうでしたか?」
「全部美味しかったです!!」
「良かったー!」
久しぶりの人が作った料理。冷凍食品も美味しいけれど、何周回ってもやっぱり、家庭料理に戻ってくる。
「じゃあ…片付けたら薬塗りますから、待っててくださいね。」
「いや、自分で塗ります。大丈夫です。」
「だから!疲れてるんですから!ゆっくり休んでください!!」
「それは、あなたもでしょ。」
「…!?」
「あなたが動いていたら、私も動きます。特別扱いしないでください。」
「…左の棚の2段目の引き出しに入ってます。」
「ありがとうございます。」
引き出しを開ける。引き出しの端に、塗り薬っぽいものが置いてある。
これを塗れば、俺はここに用はなくなる。でも、そうはなりたくない。
甲斐田さんの、外を見つめる表情、雨が止むのを名残り惜しく、一瞬一瞬を見逃さないようにしているように見えた。
少しは、この足から血が出てもいいかな。
「…甲斐田さん。」
「…?はい。」
「外、出ませんか?」
「…え?」
俺達は、傘は持たずに靴も履かずに、外に出た。
「でも、加賀美さん足…」
「良いんです。」
「嫌です!せめて靴下履いてください!」
「…甲斐田さん、泣きそうですね。」
「…だって、痛いでしょ?」
「気分ですよ。俺、今日は靴下履かない派なんです。」
「…少しだけですよ…?」
そんな泣きそうな顔されたら…申し訳なくなってくるでしょ。
「「…!?」」
上を見上げた瞬間、俺達は息を飲んだ。それくらい、美しかった。
雨が降っているのに、空は晴れていた。
「これが…天気雨、ですか…」
「…加賀美さん、知っていますか?天気雨は…狐の嫁入りとも呼ばれているんですよ…」
「狐の嫁入り…」
ふと、下のアスファルトを見た。アスファルトの小さい隙間一つ一つに、小さな雨粒が入り込んで、太陽の光が反射して、星屑のように光っていた。
綺麗だった。
何もかも。
ピシャッ
ピシャッピシャッ
「加賀美さん。少し、歩きましょう?…雨が止まないうちに。」
「…はい、そうしましょう。」
ピシャッ
ピシャッ
甲斐田さんは、楽しそうに手を大袈裟に振って歩いた。それを見て、俺は思わず笑ってしまった。
ピシャピシャッ
雨音が織り成す音色、素足に触れる雨は冷たい。でも、太陽の光だけは、温もりをくれる。
「ふふっ、冷たっ。」
そう笑った甲斐田さんは、天から降り立った、太陽の末裔の様だった。
「〜♪」
甲斐田さんの鼻歌が聴こえる。それは、俺がお風呂の中で歌っていた、あの曲だった。
甲斐田さんは、くるくる回ったり、水溜まりにジャンプしたりしていた。それと一緒に、甲斐田さんの髪の毛もふわふわ踊っていた。
「「〜♪」」
一緒に、水を大袈裟に蹴りながら、鼻歌を歌った。
「んわっ…!!」
「おっ…と…大丈夫ですか?」
甲斐田さんが、水に滑って転びそうになった所を、俺が受け止めた。
思ったより危なっかしいのか?この人。
「あっ…だ、大丈夫です…ありがとうございます…⸝⸝」
「子供みたいに大はしゃぎしてるからですよ?」
「しょうがないじゃん!…それに、誘ったのは…加賀美さんだからね…?」
甲斐田さんと俺は、そのまま手を繋いで歩いた。お互い凄い濡れていたけど、離したくはなかった。
上を見上げると、雲ひとつない晴天がある。ぽた…と、俺の頬に当たる。湿らす、伝う。
思ったより温かかった。
そういえば、甲斐田さんの名前は、「晴」だったな。
俺達は、子供のように傘で水溜まりをつついたり、かけたりして遊んだ。
天気雨の中、じゃれ合って二人同時に倒れて、笑い合った。
天気雨が過ぎて、普通の天気になった。それでも水溜まりは、びしょびしょに濡れてる俺達を、鮮明に映し出していた。
「へへっ、濡れちゃったね。」
俺の肩に乗ってる水滴を払いながら、甲斐田さんは言った。
やっぱり、甲斐田さんの笑顔は、子供のようだった。
「甲斐田さんもね。」
俺も、甲斐田さんが俺にしたように、肩に乗ってる水滴を払った。
甲斐田さんの肩に乗っていた水滴は、ぽちゃんっと音を立てて、水溜まりに飛び込んだ。
何故か、俺はそれに目が離せなかった。
「大人気ないですね、僕達。こーんな、濡れちゃって。裸足だし。」
「放浪者だと思われちゃいますね。」
「それは…合ってるでしょ。」
「…確かに。」
俺達は、人生という道に彷徨っている放浪者であり、 分かれてもいない一本道に、外れてしまった共犯者。
「…止んじゃった。晴れになっちゃった。」
「…」
あなたも”晴れ”のくせに。
「あなたも、晴じゃないですか。」
「あれ?僕、晴れの字だって言いましたっけ?」
「ずっと名札ぶら下げてましたよ?」
「えぇ…!?仕事用の名札付けたままやんけ…!!はっず!」
「…ふふっ。」
あぁ、今日で終わってしまうのか。今日で甲斐田さんと、会えなくなってしまうのか。
「…もう、2時だよ。」
「え、もうそんな時間ですか…」
「でも、どうしよっかね。まだ加賀美さんのスーツ乾いてないんだよなぁ。」
「あっ、確かに。」
「…まだ、居る…?」
甲斐田さんは、首をこてんと曲げて、俺を見つめた。
「…じゃあ、お言葉に甘えて、そうします。」
まだ、二人で。まだ、このままで。
「というか!連絡先交換しちゃえばいいんですよ…!!」
「…え?」
「そんな寂しそうな顔しないでください!…僕だって、加賀美さんと、このままもう会えなくなるのは…嫌です。」
「…!?」
甲斐田さんも…同じ気持ちだったのか。
友達になりたい。友達になって、もっと色々な話をしたい。
「交換しましょ、連絡先。そんな…散歩行けなくなった犬みたいな顔しないで下さいよ笑」
「…僕そんな顔してた…?!!?」
「無意識ですか?」
「初耳ですよ…!!」
「そんな顔されたら、離れたくても離れたくなくなりますよね。」
「離れたかったんだ。」
「離れたくないですよ。孤独だと思ってた俺を、助けてくれた人だから。」
「…僕だって、同じですもん。」
甲斐田さんは、俯いて口をとんがらせている。やっぱりこの人、時折子供みたい。
俺は、甲斐田さんの頭を撫でた。
「…え?」
「…これまでよく頑張りました…偉いです。」
「…うぐぅ。」
「ん?」
甲斐田さんが、極限まで顔をぎゅっと顰めていたから、どんな感情?と思っていたら、甲斐田さんから涙が流れた。
沢山、流れていた。
「ふぐっ…加賀美さんだってぇ…ひぐっ。」
甲斐田さんは、背伸びをして俺の頭をポンポンと優しく撫でた。
「…!?」
「お前はっ、よく頑張ったぁ…!!」
「ふふっ、誰目線?笑」
「あんたは…ひっぐ…強いやつだっ…!!っふぅぅ…」
「…」
甲斐田さんは、涙を流しながら、精一杯、俺の為に言葉を紡いでくれた。
「辛くてもっ…っ苦しくってもっ…!!」
「加賀美さんはっ…ずびっ、たっくさん頑張ったぁ…!!」
「…」
ダメだ、泣いちゃう。今日は、何度も泣いたのに。
甲斐田さんは、俺をぎゅっと抱きしめ、背中をさすった。
「よーしよし、もー大丈夫。」
「…!?」
あぁ、この人には敵わないなぁ。
俺は、甲斐田さんの腕の中で、声を上げて泣いた。
甲斐田さんは、何も言わず俺の背中を俺が泣き止むまでさすってくれた。
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「すみません…」
「い、良いんですよ!…めっちゃ周りに見られたけど…⸝⸝」
「恥ずかしい…⸝⸝」
俺の泣き声が大きすぎたのと、シンプルに裸足の男二人が目立って、周りに白い目で見られたのだ。恥ずかしい。
「スーツ乾いたかなぁ…あっ、加賀美さんは、家の中で寛いでてくださいね!」
「でも…また、俺濡れちゃったし…」
「ははっ、確かに。僕もじゃん。じゃあ…一緒にお風呂入ります?」
「…!?遠慮します…⸝⸝」
「冗談ですよー!タオルで拭いて何とかしましょう!お風呂もう一回入るの面倒臭いでしょ?」
「…はい、面倒臭いですね…」
「なら、風邪ひかないように、精神を研ぎ澄ませてください!」
「どうやって?」
「はい、これタオル!僕は、加賀美さんのスーツ乾いたか見てくるね!」
「…はい。」
冗談で、あんな事言っちゃうんだ…甲斐田さんって。
「…」モヤッ
…モヤッ?
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俺のスーツは乾いていた。スーパー乾きの早い、甲斐田さんの家のハイパー扇風機を屈指し、俺の15万のスーツは2時間で見事乾いてくれた。(「スーパー」とか「ハイパー」とかは、全て甲斐田さんが得意げに言っていたことだ。)
「はい、スーツ。乾いて良かったー…」
「ありがとうございます。」
「大事にしてくださいね!…かっこいいスーツなんだから。」
「…⸝⸝ありがとうございます。」
「…⸝⸝あっ、連絡先!」
「あぁ、交換しましょ!」
俺は、スマホを取り出した。画面を見ると、上司から通知があった。内容は、「どういう事だ!」とか、「今までお前が生活できたのは、俺のおかげなんだぞ!!」とか、そんな感じだった。
俺は、上司の連絡先をブロックした。
さようなら、クソジジイ。
もう俺の事は、気にしないで生きてくださいね。
「…?どうかしました?」
「いや、なんでもないです。」
俺には、甲斐田さんっていう友達がいるし。
甲斐田さんは、俺のQRコードを読み取って、友達追加のボタンを押した。
「…ふふっ、連絡しますね。」
「…はい、いつでも。」
甲斐田さんは、愛おしそうにスマホを眺めて微笑んだ。
甲斐田さんから、スタンプが届いた。「よろしくね!」って言っている、モルモットのスタンプ。
甲斐田さんじゃん、これ。
それに俺は、「よろしく!」と言っている、トリケラトプスのスタンプを返した。
「また…いつでも来てね。」
「…はい。」
「ご、ご飯とか!…ちゃんと食べてくださいよ…?」
「…善処します…」
俺は思わず、甲斐田さんに目を逸らして言った。
「僕の目ぇ見て言って!」
甲斐田さんは、俺の頭を無理矢理自分の方へ向けた。
「「…⸝⸝」」
甲斐田さんの、空色の双眸と目が合う。よく見ると、空色の中に、桜色が所々に散らばっているように見える。
次は、桜並木を一緒に歩くのもいいな。
なぬえ
ぁ
31
#ゐト。の宝庫
コメント
1件
うわあ、読み終わりました…。めちゃくちゃ良かったです。 雨の日の孤独なサラリーマンと、飲食店を継いだ甲斐田さんの出会い方がすごく自然で、最初の「全部雨で洗い流せたら」という加賀美さんの心情から、天気雨の下で二人が裸足で遊ぶシーンへの流れが、心にじんわりきました。甲斐田さんが泣いてるのを見破るところとか、「晴」という名前の意味が最後に効いてくる構成も好きだなあ。1万文字超えとは思えない没入感でした。続き、読みたいです。