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後日談うれしいです!!!砂糖の山も運び続けてたら無くなってしまうけれど、🏺の砂糖の山には日々新しい砂糖が継ぎ足されていってるので、いつまでも無くなることのなさそうなのが最高でした💕 惚気に付き合わされるハピセも、惚気に付き合ってくれるキセキも良かったです! 素敵なお話ありがとうございました!
大好きです……………… 砂場さんの書く甘々作品からしか得られない栄養素を摂取し、今日という1日が最高なものになりました。
「お砂糖の山」
🟦🏺の惚気を聞かさせられる人達
「爆弾と花束」の続編(ちゃんと考えていたやつ)とは別個の短編で考えてたのですが、あの世界線の続きっぽくなったのでここに入れておきます。
大型犯罪の対処が終わり、成瀬とマンゴーは青井と一緒に屋上でヘリの世話をしていた。世間話をしながら修理をしていると、青井の方から時々押し殺した笑い声が聞こえてくる。
「ふ、ふふ」
「どうしたノ?」
「キッショなんなんお前」
怪訝な顔で青井を見ると、スマホの画面を見てニヤニヤと笑っていた。二人に見られていることに気づき、笑いを噛み殺しながら画面を見せてくる。
「見てこれ、今朝のつぼ浦」
飼い猫の写真を自慢するようなノリだ。画面を見ると、なぜかベッドの横においてあるはずのスタンドライトを掴んで寝ているつぼ浦の姿が写っていた。いつもぴっちりキマっている髪の毛が乱れ放題で、幸せそうな寝顔でシーツにヨダレを垂らしている。
「いやもう本当にかわいい、今日はこれ壁紙にしよ」
今日”は”という言い方から気に入った写真を、もしかすると日替わりで壁紙にしているのだろう。なんとも言えない感情が沸き起こり、成瀬はペンギンマスクの下で眉をひそめる。
「それつぼ浦さんは知ってんのか?」
「あー、なんでか知らないけどライト掴んでた話はしたよ」
「ちげぇよ、壁紙にしてること」
「え?……あー、言ってはいないかな」
「うわ」
「ヒェ……」
自分の知らないところで撮られた写真が壁紙にされている、という事実を前に二人から小さなうめきが上がる。
「な、なんだよっ」
「いや言えよ本人に」
「つぼ浦サンなら許してくれるよ」
「え?別に悪いことしてないやん」
「一緒に住んでてモ、盗撮じゃないノ?」
「訴えられたら大差で負けるぞ」
「そうかなぁ……」
全く納得のいかない声が鬼のマスクの中から漏れた。
青井がハッピーセットこと成瀬とマンゴーの助力もあり、つぼ浦と長年の両片思いを成就させたのは少し前のことだ。色々あって二人は今、ひとつ屋根の下に住んでいる。それからというものの、二人はたまに青井からしょうもない惚気話を聞かさせられていた。
これも恋を後押しした以上、仲人としての義務か。二人は毎度毎度の砂糖のようにデロデロに甘い言葉を右から左に受け流すすべを身に着けた。
「でも寝てる部屋別々なんだろ?」
「エ、まだ別なの?じゃあ忍び込んで撮ってるってコト?!」
「そ、そんな急に距離縮められないよ!」
「なんで??そこで引くんだよ、わけわかんねぇ」
「テッキリ一緒に寝てると思ってた。わァ……」
恋人たちの生活模様など決して興味はないが、思ったよりちょっとおかしな状況にマンゴーはドン引きする。まさかこんなに槍玉に挙げられるとは思わず、青井は慌てる。
「あ、じゃあこれは?これは撮ってもいいでしょ」
カメラロールを操作してまた別の写真を見せる。小さい画面を覗き込むと、どこかの街角であくびをしている茶色い犬の写真が表示されていた。四角い顔つきにタレ耳はテリアの仲間だろうか。撮られていることになど気づかず呑気な顔を見せている。
「ハ?」
「何だこれ」
「これこれ、つぼ浦に似てるよね?本ッ当かわいいなぁ」
緩みきった声で、笑い混じりに青井は言う。少しの間のあとに青井が何を言っているのかを理解する。そのテンションと裏腹に、惚気を聞かされている二人の顔色は曇っていく。
「……目、おかしくなっタ?」
「いやもう本当にわかんねぇわ」
せめて無関係なものが恋人に見える歪みだと言ってくれ。そんな悲鳴が二人の心で上がる。
関係ないものにすら恋人の影を見出すほどには、この恋は甘いのだろう。そして吐き出した大量の砂糖の山の上で青井は幸せそうだ。それだけがこの甘い濁流の中での救いだった。
「まぁらだおが幸せならいいけどな、ウゼェけど」
「悲しんでるよりはいいけどサ、ウザいけど」
「安心してよ、お前らにしか言わないから」
「安心できナイ!」
「その信頼はいらねぇわ」
「えー」
本当に理解できていないときにしか出ないタイプの疑問の声が青井の口から上がる。まだ何か言おうとしたが、大型犯罪の通知が入った。客船強盗だ。
『らだおヘリ出しまーす。成瀬も出せる?』
『いいぜー』
成瀬は目の前にいるが、二人でヘリを出す旨を無線に流す。他の署員の返事を聞きながら青井はヘリポートにヘリを出す。整備された直後のマーベリックは活きがいい魚のように輝いている。
「多分俺がIGLだよね?」
「ああ、頼むぜ」
「じゃあマンゴーは成瀬の方乗ってね。先出るよ」
白黒のヘリは颯爽と夜明け前の空に飛んでいく。先ほどまで口から出た砂糖で無限に山を作っていたのに、無線にテキパキと返すさまはいつもの泣く子も黙るIGL、空の悪魔だ。
「なんか……まあ、息抜きとしてはいいのかもな」
「ソダネ、ウザいけどネ」
「ああ、ウゼェな」
笑いながら二人は親友への悪口をこぼす。そして新しく出したヘリコプターの機体に足をかけて乗り込む。
「まあ俺らも行くか」
「ウン」
青井が公私を混同しているとしたら、間違いなく二人は”私”の方に入っている。それは光栄なのか、厄介事なのか、おそらくその両方だろう。
背中を押した以上は惚気に付き合うしかない。二人は無線から聞こえるやたら真面目な青井の声に苦笑した。
*
オルカとまるん、いわゆるキセキの世代の二人は同じくそう呼ばれるつぼ浦を見つけた。本署の駐車場を見下ろす橋の上で、欄干にもたれて何やらため息をついている。
「どうした匠?ため息つくと幸せが逃げちゃうぞ」
駆け寄ってきたオルカを見てつぼ浦はまたため息をついた。
「いやアオセンがな……」
「喧嘩でもしたの?」
遅れて近づいてきたまるんに言われ、つぼ浦は手すりにもたれたまま眼下の駐車場を眺める。
「あのな、最近な」
「うん」
「オルカたちにも言いにくいか?」
「違うぜ!あのな、最近……また、アオセンがカッコよくなっちまった!」
絞り出すように言うと、欄干に突っ伏して何やらうめいている。もっと深刻な話かと思っていたので二人はあっけにとられる。
「チクショウおかしいだろ、30超えたオッサンのくせによ」
「匠、そ、それは言い過ぎじゃないか?」
「い、いないよね?らだおさん。聞かれてたらブレード飛んでくるぞ」
青井への年齢いじりでの大量虐殺は何度か前科がある。まるんは慌てて空を見回すが幸い、ヘリの気配はない。
「それぐらいじゃなきゃバランスが取れねぇ!優しいしかっこいいし、チクショウ、勝てねえ」
突っ伏す顔を覗き込むと、つぼ浦は頬を赤らめている。言葉こそ怒気をはらんでいるがこれは紛うことない惚気だ。二人はウンウン唸っている同期を困った顔で見つめた。
「アオセン、俺が好きなもの全部覚えてやがるし」
「うん」
「手ェ繋いでくれるようになったし」
「え?!匠、良かったな!」
「でも俺より先にエレベーターのボタン押しやがる、許せねぇ!」
「あーそれはまあ、許していいんじゃないかな」
あまりにも些細な苛立ちに、まるんの口がなんとも言えない形に歪む。これは犬も食わないタイプの痴話喧嘩だ。結論は常に出ていて、肯定も否定もあまり意味はない。
「良かったじゃないか、手、繋げたんだな!」
「お、おう。あのときはび、びっくりしたぜ」
オルカだけは素直につぼ浦の恋路を喜び、応援している。その時の状況を楽しそうに話す二人を見て、まるんも思わず破顔した。苦楽をともにした同期が喜ぶ姿は嬉しくないと言ったら嘘になる。
「……で、アオセンがどんどんカッコよくなっちまってるんだぜ」
いつの間にか話は一周し、最初の話題に戻ってきた。つぼ浦は遠くを見ながら嘆く。
「そりゃいつも匠のことエスコートしてくれるんなら、カッコいいよな」
「これ以上カッコよくなられたら俺、ついていけないかもしれねぇ」
「そんなにか」
「いいじゃないか、格好悪くなるよりは!」
「それはそうだけどよォ……」
欄干に体を預けたまま不安げに鼻を鳴らすつぼ浦を二人は見下ろす。
「あんまり興味ないけど、ちなみに具体的にどのへんがカッコよくなったんだ?」
まるんに問われ、つぼ浦は顔を上げる。そしてわかりやすいくらい顔を染めて、手でポリポリと頬を掻く。
「ぁあ?……指先、とか」
二人はつぼ浦の顔を見て、そして互いの顔を見合わせた。
どちらもいじらしいものを見る目をしていた。小さなアリが頑張って砂糖の塊を運んでいるようだ。背後にそびえる巨大な砂糖の山に気づかず一つ一つ大切に運ぶさまは、まるでそれが世界の全てであるかのようだ。
しかし甘いものに囲まれてアリは幸せそうだ。いろいろと言いたいことはあったが、すべてを飲み込んで二人は悟りを開いたかのようにニッコリと微笑む。
「な、なんだよ」
「らだおが頭からドブに落ちても惚れ直してそうだな……」
「まぁつぼ浦が幸せならなによりだよ……」
「な、な、なんなんだよ!渡さねぇぞ!!」
「いらないぞ」
「いらないです」
丁重に断られてもなおつぼ浦は首を傾げている。なにか言い返そうとしたときに通知が入った。フリーカ銀行強盗だ。
「っしゃあ!!出番だぜ!」
つぼ浦は欄干を飛び越えて駐車場にローリングをして着地する。『特殊刑事課つぼ浦、ライオットで出ます!』という雄叫びと同時にガレージからライオットが乱暴に出現し、つぼ浦が大げさな動きで乗り込むと出動していく。
いつもの元気な同期を見送り、二人はどちらともなく笑った。
「なんか、良かったな、あの二人で」
「付き合ってるって聞いたときはどうなるかと思ったけど、いい関係だね」
本署随一の問題児と、本署随一の秀才の恋は綺麗に落ち着いた。かわいい痴話喧嘩と、どうやっても愛に帰着する惚気を目の当たりにして微笑みだけが漏れる。
二人もつぼ浦の後を追うために、パトカーを出しに駐車場へと向かった。